『HUNTER×HUNTER』では自分の念能力を人に知られることはリスクであり、たとえば、同じ幻影旅団のメンバーでも切り札を隠すのは当たり前という考えでした。

 しかし、そんなタブーを破って、自分から念能力をぺらぺらと話してしまうキャラクターがいます。

 そこには高度な心理的な駆け引きがあり、能力をバラすことで戦いを有利に運んで勝利を収めることに成功しています。

◆ゲンスルーvs.ハメ組──爆弾の解除方法をあえてバラす巧みな心理テクニック

 ゲンスルーは、グリードアイランドで仲間として行動していたハメ組メンバーに、いきなり自分の念能力である「命の音(カウントダウン)」についてバラすという不自然な行動に出ます。しかし、能力について説明することが発動条件の一つであり、きちんと意味のあるものでした。

 ゲンスルーの真の狙いは、取引によってハメ組が所持しているカードをいただくことです。その交渉材料として用意したのが、「命の音(カウントダウン)」で、ハメ組全員に仕掛けた爆弾の解除方法でした。

 つまり、交渉するためには最初から能力や解除方法について説明する必要があり、実に合理的な念能力、行動だったといえるでしょう。

 そして、ゲンスルーは巧妙にもハメ組がゲームクリアの準備を整えて、気が抜ける瞬間を狙って行動に出ています。

 しかも、瞬時に状況を理解して襲ってきたジスパーを「一握りの火薬(リトルフラワー)」で返り討ちにすることで、完全に心理面で優位に立ちました。

 これによってゲンスルーは常に交渉を有利に進め、カードを渡せば爆弾を解除する約束に何の保証もない中、ハメ組は言う通りに動くしかなくなります。ゲンスルーはねらい通りにカードをゲット、爆弾解除はやはりブラフでハメ組を死に追いやりました。

 最小限の力を使って実力の違いを見せつけ、自分たちを優位な状況に置いて交渉で相手を思い通りに動かす。直接的な戦闘はほとんどありませんでしたが、心理戦の極意を活かして終始ハメ組メンバーを手玉に取っていたバトルでした。

◆ヒソカvs.ゴトー──念能力をバラすことで相手を挑発

 アルカを巡るゾルディック家の家庭内指令によって、ゴトーと戦うことになったヒソカは戦闘中に伸縮自在の愛(バンジーガム)の特性をバラします。しかも、念能力を実演して見せるほどのサービス精神旺盛ぶりですが、これには隠ぺいと挑発の2つの意味がありました。

 ゴトーは自分の放ったコインを簡単に受け止めたヒソカの念能力を警戒して、戦いの基本の「凝」を使おうとします。このときヒソカは既に緊急回避用のバンジーガムを周囲の木々に伸ばしており、さらには「隠」でそのオーラを隠していました。

 ゴトーの行動を察知したヒソカは念能力の特性をバラすことで、「隠」を使っていることがバレないようにします。そして、「死人には名乗っても意味がない」「能力はバラしても構わない」と余裕を見せつつ、ゴトーを死人扱いすることで挑発しました。

 しかも、ヒソカは最初のコンタクトで、ゴトーが自分の能力に自信を持っており、勝ち筋が見えていれば必要以上に慎重な行動は取らず、攻撃を選択することを見抜いての仕掛けだと思われます。

 これによってゴトーは舐められていると感じ、ヒソカにはうぬぼれが強い若造という印象を抱いたことでしょう。この心理的仕掛けによって少なからずイラっとしたゴトーは、能力を見極めることからヒソカの能力の特性を利用した攻撃をするという行動に誘導されます。

 実際にこのあと、ゴトーはヒソカの裏をかく攻撃を繰り出します。しかし、ヒソカは周囲に張り巡らせていたバンジーガムを解除して緊急回避したうえ、高速移動中にコインの枚数クイズを出すという心理戦を仕掛けます。

 これによってゴトーの意識は「コインで攻撃してくる」ことに集中してしまい、その隙をついたヒソカのトランプ攻撃によって首を切り裂かれて倒されます。

 ゴトーの強さと性格を踏まえたうえでのヒソカの見事な駆け引きだったといえるでしょう。

◆クロロvs.ヒソカ──相手のミスリードを誘ったトリッキーな心理戦

 天空闘技場のヒソカとの決闘において、クロロはこの戦いで使うすべての念能力を事前に説明します。これはヒソカの行動を縛る、意識を散らす、ミスリードを誘うなどして100%勝つためでした。

 まずヒソカとしてもっとも警戒しないといけないのは、アンテナを刺されると操られてしまう「携帯する他人の運命(ブラックボイス)」。もう一つは刻印を押されると一生解除されない爆弾と化してしまう「番いの破壊者(サンアンドムーン)」です。

 この2つのいずれか一つでも受けてしまうと致命的なので、ヒソカは近接戦闘において通常の蹴りや殴りといった攻撃への警戒がどうしても薄くなります。クロロはまさにそこをついて、ヒソカにダメージを与えていました。

 さらに「神の左手悪魔の右手(ギャラリーフェイク)」によって増殖させた観衆のコピー人形に、「人間の証明(オーダースタンプ)」で命令してヒソカを壊しにきます。しかも、外見を入れ替える「転校生(コンバートハンズ)」によって、クロロが観衆に化けて攻撃を仕掛けてくる可能性もヒソカは常に考えていなければなりません。

 さらに、実際は片手で発動できる「番いの破壊者(サンアンドムーン)」について「両手を使う能力」と紹介することで、ヒソカに両手が空いてないと使えないとミスリードさせる用意周到さです。

 そのため、ヒソカは常にクロロの戦術に考えを巡らさなければならず、終始後手に回ってしまいました。それこそがクロロの狙いだったのでしょう。

 この戦いは能力を明かさなくてもクロロが勝っていたと思います。しかし、未知の能力相手にヒソカが思いがけない行動を取るよりは、あえてバラすことで自分の想定通りに動かしたほうが「100%オレが勝つ」という結論に至ると考えたのでしょう。

 実際に戦いはクロロの思い通りに進みましたが、戦闘後にはヒソカが死後強まる念によって息を吹き返すという想定外のことが起こっています。

 クロロも経験上、念能力での戦いは何が起こるか分からないことは知っているはずです。だからこそ、あえて能力をバラしてヒソカの意識や行動を縛り、想定外の出来事が生じる可能性を潰したかったのだと思われます。

 ──『HUNTER×HUNTER』では、戦いに負けると命を落とすこともあり、自分の能力を簡単にバラすことはある意味タブーとなっています。しかし、クロロたちはそれを逆手に取って、駆け引きに使っています。

 そうすることで心理的に優位に立ち、相手を後手に回らせて見事に勝利しました。このような巧みな心理戦を仕掛けられるのは、クロロたちが戦い慣れしているからでしょう。

〈文/諫山就〉

《諫山就》

フリーライターとして活動中。漫画・アニメ・医療・金融などの記事、YouTube用シナリオを執筆・編集しています。

 

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