キメラアント(作中表記:キメラ=アント)は人間と動物の特性を持ち合わせていますが、師団長をはじめとした主要メンバーは「七つの大罪」がモチーフになっていると思われます。「七つの大罪」はライオンやサソリなどの動物たちとも関連付けられているので、それがキメラアントのキャラ作りとマッチしたのでしょう。改めて振り返ってみると、出番の少なかったキメラアントにも「七つの大罪」の特徴が反映されていることが分かります。

◆ザザンは精力ならぬ勢力絶倫?──「色欲」のサソリ

 「七つの大罪」において、「色欲」に関連付けられる動物はサソリです。サソリのキメラアントであるザザンは「色欲」にふさわしい、ビキニ水着のような露出度の高い姿をしていました。

 精力ならぬ勢力を増強することに積極的で、多くの配下を引き連れて流星街を侵略。新たに自分の手駒となる兵隊も、どんどん増やしています。ただ、繁殖という女王蟻の兵増強方法は効率が悪いと断じており、審美的転生注射(クィーンショット)によって人間を異形の姿に変えて支配しました。

 「色欲」の名の通り繁殖行為そのものに夢中になるタイプではなかったですが、はべらせている女たちにネイルの手入れや着替えなどをさせたり、男を奴隷のように扱ったりまるで女王様気取り。しかし、上から命令するだけでなく、パイクをおだててその気にさせるなど、男の扱いにも長けている様子です。

 女王蟻が死んで各地に巣立って行った師団長には、ヂートゥやブロヴーダなど当初単独行動をしていた者が多かったです。しかし、ザザンはパイクやギョガンなど多くの実力者キメラアントを率いて巣立っており、慕われていた模様。

 さらにはバトル好きという性格もあって戦闘センスもあり、念能力への理解もほかの師団長に比べると深かったです。その証拠に審美的転生注射(クィーンショット)以外にも、変身という奥の手を持っていました。

 しかも、ただの変身ではなく審美的転生注射(クィーンショット)に必要な「シッポ」と「持ち前の美しさ?」を捨てる覚悟によって、より強固な肉体を手に入れていると思われます。スケールは違いますが、これはゴンがすべてを犠牲にしてゴンさん化した方法と原理は同じです。

 この奥の手によってザザンはフェイタンの裏をかき、大ダメージを与えました。さらには、このとき稚拙ながらも放出系の攻撃を繰り出しています。操作系にとって覚えやすい系統が放出系であることを把握しており、フィンクスが褒めていたように使いどころも心得ていました。

 ザザンは生み出した兵隊と自ら戦いながらこれらの能力に独力でたどりついたのか、ハンター協会から送られた刺客を返り討ちにして念能力について詳しく聞いたかしたのでしょう。レオルやヂートゥと違ってシャウアプフから念能力の指南を受けずに、これだけの能力を手に入れていたわけですから、師団長の中でも最強クラスの実力を持っていた可能性が高いです。

 また、「七つの大罪」において「色欲」に関連付けられる動物にはウサギもいます。キメラアントでウサギといえばラモットですが、こちらもザザンと同じくビキニパンツ。もしかしたら冨樫先生の中で「色欲」といえば、ビキニパンツというイメージがあるのかもしれません。

◆王である自分が一番偉いというスタンスのレオル──「傲慢」のライオン

 「七つの大罪」において、「傲慢」に関連付けられる動物はライオンです。ライオンのキメラアントであるレオルは、女王蟻の支配下だったときから周りに対して偉そうな態度を取っており、人を見下している感じがありました。

 そして、女王蟻が死んだときにはこれ幸いとばかりに、真っ先に巣から去ることを決意。自らが王となって国を造ることを目指します。

 しかし、単におごり高ぶっているだけでなく、ゴンやキルアたちが自分より強いと見抜いて引くなど冷静な判断力も持ち合わせています。また、ハンターに返り討ちにされた後も、メルエムの元に戻ってシャウアプフから念能力の指南を受けていました。

 ヂートゥからも王に返り咲く気マンマンだと思われており、そのためにレオルは護衛軍にすら貸しを作って彼らの能力をレンタルしようと企んでいたほどです。しかし、最後は「傲慢」な性格が災いしてモラウに敗北しました。

 レオル自身の体験、ヂートゥたちが返り討ちにあって戻って来た様子を見て、ハンターが一筋縄でいかないことは分かっていたはずです。しかし、地下教会にモラウを追い詰めたつもりが、逆に地形を利用されて溺れ死にさせられることになりました。

 レオルは戦う前にモラウに「敗因は土地勘のなさだな」と豪語しており、すでに勝ったつもりでいました。その「傲慢」さゆえ、心に油断ができてしまったのでしょう。

◆猜疑心と怒りのウェルフィン──「憤怒」のオオカミ

 「七つの大罪」において、「憤怒」に関連付けられる動物の一つはオオカミです。ウェルフィンといえば猜疑心が強い性格が印象深いですが、ビゼフに携帯を使うなと怒鳴ったり、考え過ぎたうえ自分の判断すらも疑い出して常にイライラしたり、「憤怒」状態であることが多くなっています。

 また、イカルゴに「ジャイロに会いに行けよ」と本音を突かれたときは、「調子に乗んなよ…」と怒りを露わにしました。そして、イカルゴに俺たちNGLの本当の敵は蟻だと気付かされてからは、その怒りからモントゥトゥユピーに牙を向けます。

 その後メルエムと対峙したときには、恐怖のあまり外見が老犬のように変化。しかし、その恐怖すら怒りの力で乗り越えて、メルエムに「貴様はッ!貴様等は!!敵だ!!」と怒気のこもった言葉をぶつけました。

 また、ウェルフィンの念能力である卵男(ミサイルマン)にも「憤怒」が関わっています。卵男(ミサイルマン)は具現化したミサイルに質問を込めて放ち、対象者が偽ったり逆らったりすると攻撃が成立。

 相手に植え付けた黒百足は、ウェルフィンへの対抗心によって成長します。対抗心は言い換えるなら怒りのことでもあり、相手の「憤怒」によって黒百足が育ってダメージを与えるという彼らしい能力といえるでしょう。そのため、攻撃されてもウェルフィンに怒りの感情を持たなかったイカルゴには手も足も出ず敗北しました。

◆「暴食」のワニほか「強欲」「嫉妬」「怠惰」

 「七つの大罪」のおいて、「暴食」に関連付けられる動物の一つはワニです。師団長の中にいたワニのキメラアントは、女王蟻のエサとなる人間の献上も質より量。巣から旅立ったときには、自分のことを「何しろオレ様は…大食いキングだからな」と言っており、「暴食」がモチーフになっていると思われます。

 また、「強欲」に関連付けられる動物の一つはクモです。ザザン配下のパイクは、彼女からの寵愛を受けるために手柄を立てることには欲深いキャラクターとなっていました。

 「嫉妬」に関連付けられる動物はトンボやヘビ、「怠惰」には牛やクマがいます。トンボのキメラアントはフラッタ、牛はビホーンがいました。

 フラッタは冷静沈着で任務に忠実なイメージがあり、ビホーンは女王蟻が死んだ後は巣に残る選択をしており、保守的な性格ではありますが怠け者という感じはしません。このほかゴンと戦ったヘビのキメラアント、アライグマのキメラアントなどもいました。

 また、「怠惰」でいえばメレオロンの部隊にいたコアラのキメラアントが、性格的にしっくり来るかもしれません。ストーリー上、出番がなく表に出なかったキメラアントの中に「嫉妬」と「怠惰」に該当するキャラクターがいた可能性も十分考えられるでしょう。

 

 ──師団長の中で「七つの大罪」の設定が明確なのは「色欲」「傲慢」「憤怒」「暴食」であり、できれば「嫉妬」「怠惰」「強欲」のキメラアントにもスポットが当たってほしかったところです。

 しかし、ストーリーをおもしろくするために、最初に考えた設定が必要ないと思えば途中で容赦なく切り捨てる、これこそが冨樫先生の真骨頂といえるのかもしれません。

 せっかくの設定を使い切りたい欲にとらわれず、ときには切り捨てる勇気を持つことがおもしろい漫画を描くためには大切なのでしょう。

〈文/諫山就〉

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《諫山就》

フリーライターとして活動中。漫画・アニメ・医療・金融などの記事、YouTube用シナリオを執筆・編集しています。

 

※サムネイル画像:Amazonより

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