幻影旅団(以下、旅団)がブラックホエール号に乗ることをヒソカが知っていた理由、旅団メンバーがクラピカに報復しない理由、マチがヒソカに優しかった理由などよくよく考えると疑問に思える行動があります。
意外な事実が隠されている可能性がある『HUNTER×HUNTER』4つの疑問について考察していきます。
◆ヒソカと旅団のブラックホエール号乗船はイルミのプロデュース?
ヒソカはクロロと戦うため、旅団を狩るためにブラックホエール号に乗り込んでいますが、彼らがカキン王国のお宝をねらって乗船するという情報は知らなかったはずです。しかし、イルミとは連絡を取り合っていますから、彼を通して旅団の動向を探っていた可能性はあります。
現にイルミは「ヒソカの依頼で旅団に加わった」と発言しており、選挙編でヒソカは彼に強敵と戦えるようプロデュースしてほしいと頼んでいました。また、クロロは十老頭の始末をイルミに依頼した過去があるため、この2人にもつながりがあると考えてよいでしょう。
そのため、イルミが両者の仲介人となって、旅団にとって都合の良いブラックホエール号を決着の場に設定したと思われます。また、限定された施設内での遭遇戦は、ヒソカにとってもおもしろい舞台といえるでしょう。
シャルナークとコルトピが倒された時点で、旅団の第一の目的はヒソカへの報復に変わりました。そのため、ヒソカがイルミを旅団に送り込まなくても、クロロのほうからヒソカの動向を探るためコンタクトをとっていたはずです。
イルミがヒソカによって旅団に加わったのなら、彼はスパイとしての役割を担っているという疑惑も浮上します。しかし、彼の動向を見るとその可能性は薄いでしょう。
なぜなら、スパイの動きとして考えられるのは旅団員を闇討ちする、旅団員の場所や念能力をヒソカに知らせるなどです。しかし、戦闘狂のヒソカにとってイルミが旅団員を闇討ちしていったら楽しみが減ります。
また、旅団員の場所を知らせて1人ずつ消していくのが目的なら、カルトの能力を使っているはずですがその様子はありません。そして、位置情報を知らせてもらえるなら、ヒソカは既に旅団狩りに動いているでしょう。
念能力の情報を知らせてもらうという可能性はありますが、旅団メンバーは仲間内でも自らの能力をさらすことには慎重です。ヒソカもそのことは知っており、新入りのイルミたちの前で軽々しく能力を使うなんてことは期待していないでしょう。
これらのことからヒソカは以前から戦いたいと思っていたイルミとも、この機に決着をつけようと考えているのだと思われます。つまり、イルミの言葉通りヒソカ自身をターゲットにする依頼を受けたのでしょう。
ただ、どういう形にせよヒソカが死ねばイルミに報酬が入るため、旅団との対決を静観して序盤は積極的に動かないと思われます。
また、不測の事態が生じて現在の対決ルールを変更する必要がある場合、イルミが調整して両者に共有する折衝役を担うことになりそうです。
◆ノヴがハゲたのは「自分の念能力」のせい?
ノヴはモントゥトゥユピーのオーラを目にしただけで心を折られ、それが原因で見るも無残にハゲ散らかしてしまいました。ノヴに対してヘタレという印象を持ったファンも多いでしょうが、これには彼の念能力4次元マンション(ハイドアンドシーク)が影響していた可能性が考えられます。
4次元マンション(ハイドアンドシーク)は、具現化したマンション型の念空間に人や物質を転送する能力です。「冨樫メモ」によるとノヴは放出系の念能力者とされていますが、オーラを物質化するだけなら具現化系以外でもできます。
ノヴは能力の特性上、戦うときには常に4次元マンション(ハイドアンドシーク)を具現化しておかなくてはいけません。そして、このマンションの大きさはなんと4階建ての全21室。
通常のマンションと違って部屋によって大きさは異なります。しかし、4階建ての全21室というとかなり大きな物体となるので、具現化するだけで多くのオーラを必要とするでしょう。
つまり、実際の戦闘で使えるオーラ量は、他の人よりかなり少ないはずです。ゴンやキルア、モラウ、ナックルにシュート、彼らがモントゥトゥユピーたち王直属護衛軍に立ち向かえていたのに、ノヴはハゲてリタイアしてしまったのはこういった念能力の特性があったと思われます。
もちろんノヴの窓を開く者(スクリーム)がチートすぎて、退場させざるをえなかったという事情もあったでしょう。しかし、彼の念能力を考察してみると、精神をやられてリタイアするにたる要因があったとも考えられます。
◆幻影旅団が「クラピカに報復しない」理由は?
旅団はシャルナークとコルトピの命を奪ったヒソカへの報復に燃えていますが、ウボォーギンとパクノダが死ぬ原因となったクラピカは放置していました。この理由は過去のクルタ族襲撃が、旅団によるただの暴虐だったためと考えられます。
もちろん当初はクロロに、クラピカの律する小指の鎖(ジャッジメントチェーン)が仕掛けられていたという事情がありました。この状態でクラピカの命を奪えば彼の怨みが死後強まる念として、クロロに向かう可能性が高かったからです。
しかし、除念後も旅団はクラピカを追うような様子を見せていません。クラピカは引き続きノストラード組に所属しており、ミザイストムが会いに行っていることから所在を見つけることは難しくないはずです。
確かに旅団狩りの宣言をしたヒソカは脅威であり、緋の目を取り戻すことを優先した今のクラピカは旅団への害意がないという違いはあります。ただ、クラピカが緋の目の回収を優先したことを旅団は知りませんし、怨みが色あせたわけでもありません。
そのため、彼を放置することは旅団にとって将来的な脅威になり得るはずです。それなのにアクションを起こしていないのは、パクノダが最後に残した想いがあるからでしょう。
単行本第38巻でノブナガは、世界をぶっ壊そうと無差別に人の命を奪うエイ=イ一家が結成当初の旅団と似ているといっています。つまり、旅団は諦めと怒りを原動力に、何かを手に入れるために手探りで無関係な人の命を奪っていたということです。
クルタ族襲撃は結成当初ではないので無差別ではなかったかもしれませんが、何かしら自分たちの利益のために一方的に襲った可能性はあります。
そして、そのような怨みによる連鎖は自分で終わりにしてほしいというパクノダの最後の想いを汲んで、旅団に攻撃してこなければクラピカには手を出さないという方針をとっているのではないでしょうか。
◆マチがヒソカに優しかったのは「エンバーミング」の影響?
マチはヒソカが旅団にいた際に一緒に行動することが多く、クロロ戦後は彼の遺体の損傷を治してあげようとするなど他のメンバーに比べて好意的でした。しかし、彼女の過去が明らかになったことで、実は薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)に興味を持っていたのではないかと思われます。
マチが念能力を覚えるきっかけとなったのは、サラサの遺体をエンバーミングしたレンコでした。ヒソカの腕を治療した念糸縫合でも分かるように、マチの能力の本来の使い方も傷や遺体の損傷を回復させるものです。
薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)はオーラで物体の表面を覆い、多くの質感を再現する能力で、マチは体を装飾するものだと解釈しています。実際にヒソカが自身の腕の傷跡をこの能力で見えなくするのを目の当たりにしており、エンバーミングの技術としては是が非でも欲しいものでしょう。
「マチはなんだかんだいって優しいからね」というシャルナークのセリフにあるように、彼女はもともと優しい性格をしています。そして、ヒソカがクロロの除念に協力したことへの感謝もありました。
しかし、なんだかんだで一緒に行動するのを許容していたのは、薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)に興味があったからなのかもしれません。
同じ変化形ということもあって、それを参考にして似たような能力を使えれば、エンバーミングに活かせると考えていた可能性もあったと思われます。
──漫画では新しい事実が明らかになると、過去のキャラクターの行動の見方も変わることがあります。『HUNTER×HUNTER』では特に各キャラクターの心情が深く作り込まれており、これからも語られていない事情を考察する楽しみは増えそうです。
〈文/諫山就〉
《諫山就》
フリーライターとして活動中。漫画・アニメ・医療・金融などの記事、YouTube用シナリオを執筆・編集しています。
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