<この記事には漫画『HUNTER×HUNTER』最新話までのネタバレが含まれます。ご注意ください。>
『HUNTER×HUNTER』では暗黒大陸編が進行中ですが、どうしてこんなに登場キャラクターが多いのか疑問に思っている人も多いでしょう。実は意図的に仕組まれたものであり、この理由は冨樫先生の口から明かされている裏テーマによるものです。
『HUNTER×HUNTER』王位継承戦の裏テーマや暗黒大陸編の謎について考察していきます。
◆暗黒大陸編で登場キャラクターがあまりにも多いワケ
暗黒大陸編では14人の王子、8人の王妃に加えて彼らの私設兵、さらにはカキン3大マフィアやハンター協会、ビヨンド勢力ととんでもない数のキャラクターが登場します。これは冨樫先生による裏テーマがあったからです。
2016年8月20日刊行の『ジャンプGIGA 2016 vol.2』において、冨樫先生は「今回のシリーズはシンプルに、ものすごく人数を増やしたらどうなるだろうっていうのを、とにかく極端にやってみた」とねらいを明かしています。
さらに「それを意識しながらあえてやって、破綻しなかったらおもしろいなと」続けており、原作者にとっても暗黒大陸編は大きなチャレンジでもあるわけです。
そして、冨樫先生の認識では『週刊少年ジャンプ』の中で、『キャプテン翼ワールドユース編』が名前のある人物が一番多く出ていたとのこと。そのため、この作品を超えることが一つの目標でもあるようです。
また、冨樫先生は「結末の見えない方向に話を進めたい」とも語っているため、この先ストーリーがどのように展開するか決まっていない可能性もあります。それだけに王位継承戦および暗黒大陸編が大団円を迎えれば、漫画史上に名を残すシリーズとなりそうです。
◆ブラックホエール号の第1層が船になっている謎
ブラックホエール号は第5層まである構造となっていますが、王族やV5の政財界の要人など重要メンバーがいる第1層は船の形になっています。この理由として考えられるのは、第2層以下を切り離して乗船者を犠牲にすることが、新しい国王誕生のために必要な儀式であるという可能性です。
実際、ナスビ国王はブラックホエール号のことを「20万人の贄積む箱舟」と例えています。また、内部には14個の棺が並ぶ儀式的な空間があり、新国王が犠牲のもとに生まれることが示唆されています。
棺が14個ということは王位継承戦の敗北者となる13人の王子以外に、現国王の犠牲も必要条件なのかもしれません。そして、さらにはブラックホエール号に乗っている2層以下の乗客も贄にされる可能性が高いでしょう。
現在のナスビ国王が何年前に即位したのかは不明ですが、30年ほど前にカキンは帝国社会主義から議会民主主義へとシフトしました。このきっかけとなったのが真林館事件ですが、もしかしたら王位継承戦にともなうもので20万人以上の犠牲者を出した事件なのかもしれません。
真林館事件は「史上最も静かな革命」と称されていますが、カキン帝国は現在も密かに謝肉祭なんていうとんでもない祭りを行っています。そのため、真林館事件で20万人の犠牲者を出していても隠すことは簡単でしょう。
現在も続く壺中卵の儀に使う壺を生み出した初代国王は、群雄割拠の時代に小国だったカキンを大国に押し上げました。そのため、このときも争いによって多くの犠牲者が出ていることが予想されます。
モレナ曰く、カキンは今も昔も国を強くするために国民を犠牲にするという本質は変わっていないということです。そのため、ブラックホエール号も新国王誕生にあたって、乗客を犠牲にするためのシステムそのものになっているのだと考えられます。
◆ヒソカの左手と右足はどうなっている?
新しいエピソードでヒソカはポーカーを楽しんでいましたが、クロロ戦で失ったはずの左手は見た目も機能性もなんの違和感もありませんでした。ヒソカは失った左手と右足を伸縮自在の愛(バンジーガム)で型取り、薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)で肌感を再現しているはずですが、この高すぎる完成度に疑問を持った読者も多いでしょう。
これには2つの可能性が考えられます。一つは死後強まる念によって、ヒソカの能力がパワーアップしているということです。
ヒソカはクロロとの戦いで1度完全に死んだ状態となりましたが、死後に発動させるようにしていた伸縮自在の愛(バンジーガム)による心臓をマッサージで息を吹き返しました。これはヒソカが意識して操作せずとも、伸縮自在の愛(バンジーガム)を自動で動かせたということです。
ということは息を吹き返したあと、失った手足を型取っている伸縮自在の愛(バンジーガム)もオーラとしてではなく普通の手足と同じ感覚で動かせるようになっている可能性があります。そもそも伸縮自在の愛(バンジーガム)で手足を型取ること自体、死ぬ前にはできていなかったことです。
もし最初からできていたなら、クロロとの対戦中に同じことをしないはずがありません。そして、薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)にいたっては、進化していることが確実です。
薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)は本来紙やハンカチなど、薄っぺらなものにしか使えないものでした。現にカストロ戦後のヒソカはマチに治療してもらった傷を隠すため、薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)でハンカチに肌の質感を再現。
そのハンカチを伸縮自在の愛(バンジーガム)で腕にくっつけるという手順を取っています。しかし、クロロ戦後はオーラに直接肌の質感を再現していました。
つまり、これまでできなかったことができるようになっており、死後ヒソカの念能力は確実に進化しているといえるでしょう。おそらく今のヒソカは失った手足の部分のオーラはもちろん、伸縮自在の愛(バンジーガム)を操る精度も上がっているのではないでしょうか。
もう一つは念能力によって治療した可能性です。グリードアイランドの「大天使の息吹」のように欠損部位すら治してしまう能力であれば、ヒソカの大きなケガも元に戻せるでしょう。
クロロとの対戦からブラックホエール号に乗るまでに8ヵ月ほどの空白期間があります。そのため、ヒソカが治療できる念能力者を探す時間は十分あったといえるでしょう。
◆ツベッパの性別はどっち?
カキン帝国の第5王子ツベッパは一人称が「私」で女性言葉を使うため、性別がどちらなのか分からないという人も多いハズ……。しかし、作中で既に男であることが示されている箇所がありました。
それは第33巻にある第9王子ハルケンブルクについての解説です。そこには彼が「生来母親とも二人の姉とも折り合いが悪く不遇だった」と記されています。
「二人の姉」というのは第2王子カミーラと第6王子タイソンのことでしょうから、第5王子ツベッパは男性ということになるでしょう。彼はクラピカがいる第14王子の勢力と同盟を結んだので、今後のストーリーで重要な人物になる可能性があります。
これまではツベッパが登場すると「結局こいつ男と女のどっちなんだ?」という疑問がチラついて、ストーリーに集中できなかった人もいたかもしれません。今後はそのような部分に思考を割く必要がなくなり、よりストーリーに入り込めるでしょう。
──暗黒大陸編は『週刊少年ジャンプ』だけでなく漫画史上でも、最大級のキャラクターが登場するシリーズといってよいでしょう。これだけのキャラクターをすべて活かしながらシリーズを終えることができたなら、ギネス申請すらできてしまいそうです。
〈文/諫山就 @z0hJH0VTJP82488〉
《諫山就》
アニメ・漫画・医療・金融に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。かつてはゲームプランナーとして『影牢II -Dark illusion-』などの開発に携わり、エンパワーヘルスケア株式会社にて医療コラムの執筆・構成・ディレクション業務に従事。サッカー・映画・グルメ・お笑いなども得意ジャンルで、現在YouTubeでコントシナリオも執筆中。
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