悪名高いA級首盗賊集団の幻影旅団。はたして彼らは本当にたんなる盗賊集団なのでしょうか?
彼らの“盗み”には独自の美学と意味が込められているのではないのか──。作中には、そう思わされるような描写がいくつも存在します。
幻影旅団は物理的な財産だけでなく、相手の誇りや歴史、アイデンティティなど「無形の価値」すらも奪い去ります。彼らにとって“盗み”とはいったい何なのでしょうか?
◆盗むのは物ではなく“価値”そのもの
幻影旅団の盗みは、単なる窃盗ではありません。彼らは、物を奪うことで相手の持つ「価値」そのものを無に帰そうとしているように見えます。
その最たる例が、ヨークシンシティのオークション襲撃です。彼らは貴重な美術品や宝石を奪いましたが、目的は金銭的な利益だけではありませんでした。
オークションそのものを破壊し、市場の存在意義を消し去ることが本質だったのではないでしょうか。
また、クロロの能力「盗賊の極意(スキルハンター)」も、単に相手の念能力を奪うだけでなく、その人物の生き様や戦闘スタイルまでも否定する力です。念能力は持ち主の個性や努力の結晶であり、それを奪われることは「存在そのものを剥奪されること」に等しいでしょう。
このように、幻影旅団の盗みはたんなる略奪ではなく、対象の「価値そのものを消し去る行為」だと考えられます。
◆盗みは幻影旅団の結束を強める“儀式”
幻影旅団にとって、盗むことはたんなる生計手段ではなく、一種の儀式のようなものだと感じさせる描写が多く存在します。彼らは個人の利益のためではなく、幻影旅団という集団の意志のもとで盗みを実行します。
ヨークシンシティのオークション襲撃では、旅団のメンバーはそれぞれの役割を完璧にこなし、スムーズに計画を遂行しました。この緻密な連携は、たんなる盗賊集団にとどまらない団結の証を感じさせるものでした。
彼らは互いの信頼を確認し、仲間意識を高めるために盗みを行っているとは考えられないでしょうか。幻影旅団にとって、盗みとは仲間の存在を確認し、自分たちの生き方を再確認するための儀式的な行為なのかもしれません。
◆幻影旅団の盗みは社会への挑戦か?
幻影旅団の行動は、たんなる犯罪行為ではなく、社会そのものへの挑戦とも捉えられます。彼らは法や秩序を完全に無視し、自分たちのルールだけを遵守する集団です。
また、彼らは盗んだ財産に対して執着を見せません。オークション襲撃後、彼らは金銭を目的とした交渉をする様子もなく、盗んだ品の価値そのものを破壊するような行動を取りました。これは、資本主義的な価値観への明確な否定と見ることができるでしょう。
幻影旅団の盗みは、たんなる生計手段ではなく、社会のルールや価値体系を嘲笑い、破壊するための行為だったように感じられてなりません。
法や秩序を完全に無視し、自分たちのルールだけを遵守する幻影旅団の行動は、社会そのものへの挑戦なのかもしれません。
◆何も持たないことを証明するために盗む?
幻影旅団の団員の多くは、流星街の出身者です。流星街は社会から見捨てられた人々が暮らす場所であり、「何も持たない者」として扱われてきました。
彼らは、盗むことで「何かを得る」のではなく、「自分たちは何も持たない」という自らのアイデンティティを証明しようとしているのかもしれません。
幻影旅団は盗んだものを大切にする様子を見せません。クロロはオークションで得た品々に興味を示さず、ほかの団員も「奪う行為そのもの」にこだわっているように見えます。
もし彼らが盗みを通じて「所有」にこだわるなら、盗んだ宝を隠したり、独占しようとするはずです。
しかし彼らはそうしません。それどころか、奪うことで「自分たちは何も持たない存在である」と証明しようとしているように見えます。
幻影旅団の盗みは、流星街の出身者としてのアイデンティティを維持するための行為でもあったのではないでしょうか。
◆クルタ族を襲ったことと“奪われる側”の喪失
幻影旅団が奪ったものの中でも、最も象徴的なのがクルタ族の緋の目です。彼らは旅団によって皆命を落とし、眼球だけを奪われました。これは単なる襲撃ではなく、「クルタ族の誇りと存在そのものを奪い取る」行為だったのではないでしょうか。
幻影旅団の団員たちは、ウボォーギンがやられたときは鎖野郎=クラピカ探しに躍起になり、暗黒大陸編でシャルナークとコルトピの命が奪われたときはヒソカへの復讐に執着を見せています。
一見すると、とても仲間思いに見える幻影旅団。しかし、旅団の仲間意識は「共に奪うことで成り立つ関係」です。それは「守ることでつながる関係」とは本質的に異なります。もし彼らが“盗み”をやめたら、その瞬間に旅団という組織は崩壊してしまうのではないでしょうか。
幻影旅団の“盗み”の本質が、「奪うことでしか存在を証明できない」というものであるなら、彼らの最終的な結末はどうなるのでしょうか?
奪い続ける限り、クラピカのように幻影旅団に大切なものを奪われた喪失や、復讐心を抱える存在は後を絶たないハズ。
幻影旅団は奪うことをやめるのか、それとも奪い続けた先に破滅が待っているのか。今後のストーリーで明かされる日はくるのでしょうか。
──現在、幻影旅団はヒソカとの戦いを経て、団員を失いながらも復讐へと動き出しています。イルミが団員として新たに加わったことにも注目が集まっています。
彼らが今後どのような選択をし、盗みという行為をどのように捉え直すのか。その本質がより明確になる瞬間が訪れるのかもしれません。
〈文/鷹野あやね〉
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