ゴンが念能力を失った理由はいわゆる「ゴンさん化」という急成長の反動ですが、作中の描写を振り返ってみると本当に「制約と誓約」の代償だったのか……、一概に言い切れない点があります。実は、その原因には暗黒大陸の「あの厄災」と関わりがあるのかもしれません。
◆ネフェルピトー戦のあとのゴンの違和感
ゴンは第305話で「もうこれで終わってもいい」と心に誓い圧倒的な力を手に入れています。これまで開示されている情報を元にすれば、この急成長は覚悟の証である「制約と誓約」をゴンが使った結果だと捉えるのが自然でしょう。作中でも、仲間たちがゴンは「制約と誓約」を使ったとして話が進んでいきます。
しかし、改めてネフェルピトー(以下、ピトー)戦のあとのゴンの姿を見てみると、肉体はミイラのように干からびています。さらに、生命維持装置をつけてなんとか延命している状態でした。実はこの姿こそが少し違和感がある点なのです。
ここで注目したいのは、ゴンが念能力を失うだけでなく、命まで落としかけていたこと……。しかも、それは制約(ルール)を破った代償ではなく、遵守した結果だった点です。もちろん第305話での決意は「命が終わってもいい」という解釈もできます。
しかし、このときのゴンは「ピトーの命を奪う」という目的のためだけに力を引き出していました。そうなると、ピトーの命を奪った時点で制約通りゴンは命を落とすはずで、「死後強まる念」で強化されたピトーには対応できなかったハズ……。
つまりゴンが使った「制約と誓約」は、ピトーやキルアが推察した通り「二度と念能力が使えなくなってもいい」という決意と「すべての才能を投げうつ」覚悟だった可能性が非常に高くなるのです。
このルールを遵守した結果、ゴンは念を使えなくなり、能力も消失したのなら理解できます。しかし、結果としてゴンは生命維持装置がなければ間違いなく命を落としていました。ルールを破った反動だったならばいざ知らず、ルールを守った結果命まで落とすことは、単なる「制約と誓約」で片付けるにはいささか矛盾が生じていると捉えられるのです。
◆除念師では解除できない「念」
ゴンを救うために、まず仲間たちが探していたのが除念師です。実は作中で除念師が「制約と誓約」による念を解除した前例があります。
それがゲンスルーの能力「命の音(カウントダウン)」を解除したアベンガネです。ゲンスルーは具現化系能力者ですが、「命の音(カウントダウン)」はアベンガネ曰く具現化系・操作系・そして苦手な放出系を高水準で組み合わせた能力になっています。
これは対象に設置する際に、身体に触れながら「爆弾魔(ボマー)」という単語を使うことと、対象者に解除方法を打ち明けるルールをもとに殺傷力を底上げした強力な能力になっています。さらに、最近明かされた複数の念能力者が協力する「相互協力(ジョイント)型」である可能性が高いので、これだけでも通常の「制約と誓約」よりも強力な念だったことが分かっているのです。
つまりここで重要なのは強力な「制約と誓約」であっても、除念師によっては解除できる「念」という点です。しかし第325話でゴンの除念に関して、ハンター協会唯一の除念師がサジを投げています。もちろん、アベンガネとのレベル差が大きかった可能性もありますが、サジを投げるほどゴンを蝕んでいたものが通常の念とは違ったと捉えることができます。
何より第333話でゴンを復活させたシーンでは、十二支んやビスケ、モラウといったトップハンターたち、さらにキルアを監視していたゾルディック家の面々まで驚愕していました。そんな百戦錬磨の念能力者たちが「感じたことがない」と評するほど圧倒的なパワーだったことからも、たんなる念ではない可能性は十分に考えられます。
◆ゴンの急成長は5大厄災「人飼いの獣パプ」が原因だった?
それでは「制約と誓約」の念でなければ何が考えられるのでしょうか。それが第341話で登場した5大厄災の一つ「人飼いの獣パプ」です。
瀕死のゴンをノーリスクで元通りにしたのがナニカでした。ナニカは、ジャンプコミックス33巻で暗黒大陸出身であることが明かされており、同じく5大厄災の一つ「ガス生命体アイ」との関連が有力視されています。
暗黒大陸に瀕死のゴンを元通りにできる存在がいるのであれば、途方もない力をゴンに分け与えることができる存在もいるのではないでしょうか。仮にそれが「人飼いの獣パプ」だとしたら、いくつかつながってくる点があるのです。
まずは、ゴンのミイラ化した身体と「人飼いの獣パプ」による犠牲者の身体的特徴が非常に似ていることです。「人飼いの獣パプ」の厄災の内容は、快楽と命の等価交換……。ゴンは復讐の達成というある意味での「快楽」を得た代わりに、「命」を奪われかけたとも捉えられます。
さらにパプがゴンたちの住む世界に来ている可能性が考えられます。第344話でジンが「アイとパプの犠牲者はこちらの世界でも見つかっている」と言っています。同じく暗黒大陸由来の危険生物キメラ=アントが来ていることから考えても、十分にあり得るでしょう。
仮にそうであった場合、ピトーとの戦いの際、ゴンは何らかの形で「人飼いの獣パプ」と等価交換の契約を結んでしまったと考えられるのではないでしょうか。
──『幽☆遊☆白書』では、仙水との戦闘中に幽助が突如として魔族へと覚醒します。このできごとは、物語が魔界編へと進むうえでの重要な伏線でした。興味深いことに、『HUNTER×HUNTER』でもゴンが「ゴンさん化」する場面は、似たような覚醒の演出がなされています。冨樫義博先生は、ゴンとピトーの戦いの中で、暗黒大陸編へとつながる布石を既に打っていた可能性も考えられるでしょう。
〈文/fuku_yoshi〉
※サムネイル画像:Amazonより 『HUNTER×HUNTER 第21巻(出版社:集英社)』