幻影旅団がヒソカを追うのは、実は仲間のための「復讐」ではないのかもしれません。彼らの異常なまでの執念の根源は、もっと根深い場所、故郷「流星街」の“血よりも濃い掟”にあると考えられます。

 冷酷な盗賊団である彼らが、なぜたった一人の裏切り者に総力を挙げてまで執着するのでしょうか?

◆鎮魂歌に見たクモの絆──ウボォーギンと“仲間”の意味

 幻影旅団のヒソカへの執着を理解するには、まず彼らにとって「仲間」がどのような意味を持つのかを知る必要があります。その特異な絆が最も強く表れたのが、クラピカとの死闘が繰り広げられたヨークシンシティ編でした。

 ここで注目したいのは、団員のウボォーギンがクラピカに敗れ、命を奪われたあとの旅団の行動です。ウボォーギンの仇を討つため、彼らはマフィアコミュニティーへの激しい報復を行います。

 このとき、普段は冷静なはずのノブナガは叫びながら涙を流し、クロロでさえもその死に静かに涙を流していました。この描写から、彼らがたんなる盗賊集団ではない、深い絆で結ばれた存在であることが読み取れます。

 さらに象徴的なのが、地下競売会場でクロロが指揮した「鎮魂歌(レクイエム)」です。この行為は、たんなる暴力の行使ではなく、亡きウボォーギンに捧げる“弔いの儀式”であったと捉えられます。団員を失うことは、旅団というクモの“手足”がもがれるに等しい痛みなのでしょう。その激しい痛みが、彼らの行動の原動力となっているといえます。

 つまり、旅団の冷酷非情な行動の裏には、我々が想像する以上に強く濃密な“仲間意識”が存在しているのです。そしてこの一見矛盾した特性こそが、ヒソカへの異常なまでの執着を理解するための、重要な土台となっているのかもしれません。

◆「我々は全てを受け入れる」──流星街の絶対的掟

 この仲間意識はどこからくるのでしょうか。その答えは、幻影旅団のメンバーの多くが生まれ育った故郷「流星街」の、独特な価値観にあります。

 流星街は、どんなものでも受け入れる巨大なゴミ捨て場であり、同時に戸籍を持たない人々が身を寄せ合う、いわば一つの家族のような場所です。

 彼らの間には「我々は何ものも拒まない。だから我々から何も奪うな」という絶対的な掟が存在。何ものも拒まないからこそ、一度受け入れた仲間の裏切りは決して許されず、その結束は極めて強いものとなっています。

 フィンクスやフェイタンといった主要メンバーが幼少期からこの地で過ごしてきたことからも、旅団の価値観がこの流星街のルーツと深く結びついていることが分かります。

 ここで重要なのは、掟の後半部分「だから我々から何も奪うな」という言葉の重みです。これはたんにモノを盗むなという意味に留まりません。

 コミックス23巻では、流星街の住人ザイカダールが何者かに命を奪われた際、流星街の長老たちが報復に動く描写があります。彼らは犯人を突き止め、最終的に犯人グループの関係者31人の命を奪うことで報復を完了させました。

 つまり、この掟において「奪うな」とされているものには「命」や「仲間」、そして「自分たちの尊厳」といった目に見えない大切なものが最も重く含まれていると考察できます。

 このことを踏まえると、幻影旅団はたんなる盗賊集団ではなく、流星街の価値観を背負った“掟の代行者”といえるかもしれません。彼らの行動は、個人の感情だけでなく、この故郷の絶対的なルールに基づいて執行されていると捉えられるのではないでしょうか。

◆ヒソカの裏切りがなぜ最大の禁忌なのか?

 これまでの話を踏まえると、ヒソカの行為がなぜ旅団にとって許されざるものなのか、その本質が見えてきます。

 ここで注目したいのは、同じく団員の命を奪ったクラピカと、ヒソカの決定的な違いです。

 クラピカは、クルタ族の生き残りとして旅団に明確な敵意を持つ“外部の敵”でした。ウボォーギンの命を奪った彼の行為は、旅団にとって当然“報復”の対象となりますが、それはあくまで敵対者とのルールに則った戦いの結果といえるでしょう。

 一方、現在のヒソカはどうでしょうか?  彼はかつて、偽りの団員番号4を名乗り、一度は仲間として受け入れられていた存在でした。旅団は「我々は何ものも拒まない」という掟に則り、彼の異質さや目的すらも受け入れていたのです。

 それにもかかわらず、ヒソカはクロロへのリベンジという個人的な執着のために、シャルナークとコルトピの命を一方的に奪いました。これは明確な“内部からの裏切り”に他なりません。

 つまりヒソカの行為は、流星街の掟に対する“二重の違反”を犯していると考察できます。

 二重の違反の一つ目は、もちろん「仲間の命を奪うな」という直接的な掟破り。そして二つ目は、より深刻な違反です。それは、「何ものも拒まない」という掟が示す信頼を、内側から踏みにじったという点です。これは流星街の存在意義そのものを否定する行為であり、彼らにとって最も許しがたい最大の禁忌(タブー)といえるでしょう。

 そう考えると、旅団がヒソカを追う理由は、もはや個人的な復讐心だけではないことが分かります。

 彼の罪は“個人的な執着”ではなく、“掟”そのものを破壊したことによる絶対的な処罰対象なのです。

 今、クモが執行しようとしているのは、組織の存続と故郷の尊厳をかけた“制裁”に他ならないのではないでしょうか。

 

 ──幻影旅団がヒソカを追うのは、たんなる復讐ではない──。その本質は、一度は仲間として受け入れた信頼を内側から踏みにじり、故郷「流星街」の絶対的な掟を破ったことにあると考えられます。

 だからこそ王位継承戦における旅団のヒソカ追跡は、もはや私闘ではないといえます。それは、流星街という共同体の尊厳を守るための、一種の「聖戦」ともいえるのではないでしょうか。

〈文/凪富駿〉

 

※サムネイル画像:Amazonより 『「HUNTER×HUNTER」第34巻(出版社:集英社)』

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