<この記事には原作漫画『HUNTER×HUNTER』の最新話までのネタバレが登場します。ご注意ください。>
頭がよく理由がなければムダな争いは好まないイメージがあるクラピカですが、実は口を開けば相手を挑発したり怒らせたりするセリフばかり。作中では初対面であろうが目上の者であろうが、クラピカのナチュラル煽り体質は所かまわず炸裂して、たびたび険悪な雰囲気を生み出しています。
◆この世で最も愚かな質問の一つだな
ハンター試験で船長からハンターになりたい理由を聞かれたとき、クラピカは同胞の仇である幻影旅団を捕まえるためと答えました。レオリオから仇討ちならハンターにならなくてもできると言われ、クラピカは「この世で最も愚かな質問の一つだな」と思いっきりバカにするセリフを浴びせています。
クラピカの口撃はこれだけでは終わらず、「ハンターでなければ入れない場所 聞けない情報 出来ない行動というものがキミの脳みそに入りきらない程あるのだよ」と追撃。仇討ちのためハンターになる理由を説明しながら煽るというテクニックを見せます。
さらに船長からハンターになる理由を聞かれたレオリオがお金のためだと答えると、「品性は金で買えないよ レオリオ」と普通なら今後確実に遺恨を残すようなセリフを口にします。
これに対してレオリオは、「うす汚ねぇクルタ族とかの血を絶やしてやるぜ」とブチギレ。ただ、彼はクラピカの煽り文句よりも、再三名前を呼び捨てにされていたことに怒り心頭だった模様です。
現に2人の決闘中に起こったアクシデントに対する行動から、お互いの人間の本質を悟ると素直に謝罪し合います。普通はこれだけバカにされるようなことを言われれば、それをなかったことにして謝る気になんてならないでしょう。
特にレオリオは散々な言われようであり、これほどまでに煽られたあとなら表向きは謝罪しても心の中では今後の関係に引きずるのが普通です。そのような遺恨をまったく見せていないことを考えると、レオリオは煽り文句自体はそれほど気にしていない可能性も考えられます。
彼は放出系で大雑把なところがあるので、細かいことはあまり気にしないのかもしれません。ゴンたちに助けられたとはいえレオリオは試験に合格してハンターになるくらいですから、ブチギレポイントも常人とは少しズレているのでしょう。
◆お前の断末魔はうるさそうだ
ホテルの部屋で1人、幻影旅団のメンバーであるウボォーギンを待ち構えていたクラピカ。ウボォーギンから「どこで死ぬ?」と先制パンチとなる挑発セリフを受けると、「人に迷惑がかからない荒野がいいな お前の断末魔はうるさそうだ」と切れ味抜群の煽り文句で切り返します。
さらに戦闘中も「クズめ 死で償え」、「まさか全力か?」と煽り文句は絶口調。これに怒ったウボォーギンですが、素直に挑発に乗るのはシャクだったのか半分の力で応戦。
しかし、クラピカはウボォーギンの攻撃をいなすと、「くだらん負け惜しみはやめて全力で来い 時間の無駄だ」とさらに焚きつけます。これでようやく本気になったウボォーギンですが、クラピカの度重なる挑発にもかかわらず意外に冷静でした。
地面にパンチをして砂ぼこりの目くらましをあげると、気配を隠してクラピカの死角から攻撃します。しかし、クラピカは隠で見えなくした鎖でウボォーギンを捕らえることに成功。
その際には「まさか隠を使えるとは思わなかった」と、上から目線のセリフで煽ることも忘れていません。この戦いでは旅団でもっともパワーのあるウボォーギンに本気を出させて、束縛する中指の鎖(チェーンジェイル)が通用するかを試す目的がありました。
そのため、意図的に煽ってウボォーギンを顔真っ赤にしようとしていたと考えられます。とはいえ、戦闘中でもとめどなく発せられる挑発セリフは、ナチュラル煽り体質のクラピカだからなせる技といえるでしょう。
ウボォーギンもクラピカの煽りによる怒りで視野が狭くなるのかと思いきや、しっかり目くらましを入れて攻撃を食らわせるあたり、ただの脳筋とは違うところを見せました。さすが一流の念能力者であり戦いの駆け引きにも長けていることから、クラピカの挑発の意図には気づいていたと思われます。
◆普通の理解力があれば確認は不要だと思うが?
カキン帝国の王位継承戦を利用して第4王子ツェリードニヒに近づこうと目論むクラピカは、ツテのあるハンターに王子の警護に潜入することを依頼。そのうちの1人ビスケから報酬条件の確認をされたところ、「普通の理解力があれば確認は不要だと思うが?」と相手が先輩だろうとおかまいなしの煽り体質を発揮させます。
クラピカがブラックホエール号に乗る前に条件を満たせれば、ビスケたちは乗船をキャンセルしてもよいと具体例を出して説明。これに対してビスケはキャンセルが警護の仕事とクラピカの依頼のどちらを指しているのかを確認して、契約は既に成立しているからその場合でも報酬はもらうと念押しします。
これにはクラピカの性格を知っている読者も同じように、「普通の理解力があれば確認は不要だと思うが?」と感じたでしょう。なぜなら、クラピカがそのようなズルイ方法で依頼料をケチったりはしないと知っているからです。
ただ、このときのメンバーの中でキルアから紹介されたビスケだけがクラピカと初対面でした。クラピカの肩書きはノストラード組の若頭ですし、依頼内容もうさん臭さがありますから疑っても仕方がないでしょう。
現に彼女は「自分で自分をどう思ってるか知らないけど信用できませんから!!」と、クラピカへの猜疑心を露わにしています。これに対してクラピカは、「初対面で過剰に猫をかぶるような人間に言われたくないな」と切り返しました。
このことからビスケが幼女のような姿をしていても先輩ハンターであることは、キルアから聞いているのだと考えられます。初対面だろうと年上だろうと煽っていく体質は日本の社会ではレアケースのため、もしクラピカのような人間が周りにいるとヒヤヒヤさせられっぱなしとなるでしょう。
◆ケンカ腰でしか話が出来ないのか?
念の講習に参加していた第4王子の私設兵ミュハンが挑発して来たとき、クラピカは微塵も動じることなく冷静に「ケンカ腰でしか話が出来ないのか?」と応酬。さらには「束ねる王子の程度も知れるな」と、キレッキレの煽り文句で逆にミュハンの顔を真っ赤にさせます。
クラピカが講習参加メンバーに白線を越えないようにとルール説明をしていたところ、ミュハンはわざと白線を踏み越える挑発行為に出ました。それを注意されて彼はわざとらしく、うっかりだったと謝罪します。
これはミュハンなりの駆け引きと思われ、約束はお互い守ってこそ意味があるものでクラピカ側は本当に2週間で念を習得させられるのかと主張したかったようです。クラピカペースで進んでいる状況だったため、最初にかまして自分たちのほうが立場を上だということを示しておきたい意図もあったのでしょう。
しかし、前述のクラピカの煽りによって仕える王子をけなされ、ミュハンのほうが顏を真っ赤にさせられます。まさに煽りに関しては、クラピカの格が違うところを見せつけたシーンといえるでしょう。
また、クラピカは「束ねる王子の程度も知れるな」の後にすかさず、「──という誤解をもたらしかねない言動は慎んだ方がいい……ここまでがワンセンテンスだ 宜しいか?」と続けています。さすがに王子を露骨に侮辱すれば立場が不利になる可能性もあるので、予防線を張ったといったところでしょう。
このセリフを受けて同じ第4王子の私設兵タンジンが「全面的に同意する」と、ミュハンを制したため争いには発展せず一応この場は丸く収まりました。フォローの言葉をしっかり入れるクラピカの判断は的確であり、冷静でいながらこれだけ煽っているところが逆に怖いです。
──日本では有名人が政治について発言すると叩かれる傾向がありますが、海外では自分の意見も言えない情けない人間は評価されません。まずはお互いの主張を出し合わなければ、話を進められないし解決方法も見出せないという考えにも一理あるでしょう。ましてやハンターは個性が強い者が多いですから、衝突を恐れずに本音でぶつかっていくことが分かり合うための近道なのかもしれません。
〈文/諫山就〉
《諫山就》
アニメ・漫画・医療・金融に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。かつてはゲームプランナーとして『影牢II -Dark illusion-』などの開発に携わり、エンパワーヘルスケア株式会社にて医療コラムの執筆・構成・ディレクション業務に従事。サッカー・映画・グルメ・お笑いなども得意ジャンルで、現在YouTubeでコントシナリオも執筆中。X(旧Twitter)⇒@z0hJH0VTJP82488
※サムネイル画像:Amazonより 『「HUNTER×HUNTER」第9巻(出版社:集英社)』