クラピカの最強能力「絶対時間」。その代償は「1秒につき1時間、寿命が縮む」というあまりにも残酷なものです。王位継承戦でこの能力を酷使し続ける彼の命は、今まさに燃え尽きようとしているのかもしれません。作中の描写から削られた寿命を計算することで、彼を待つ残酷な未来が見えてきます。
◆「1秒につき1時間縮む命」──絶対時間の恐るべき代償
クラピカの命を削る「絶対時間」。代償の重さを理解するには、まずこの能力がいかに強力かを知る必要があります。
念能力には6つの系統があり、達人でも専門外の系統を100%の力で使えないとされています。
しかし、クラピカが緋の目を発動したときに使える「絶対時間」は、その常識を破壊し、すべての系統の能力を100%の精度で使いこなせるのです。これは複数の能力を同時に、かつ完璧に操れる、まさに最強クラスの力といえます。
ですが「絶対時間」にはあまりにも重い代償が科されます。コミックス32巻でクラピカ自身の口からその制約が語られており、「絶対時間」を発動している間、彼は「1秒につき1時間」自らの寿命を失っていくのです。
これは、たった1時間能力を使っただけで150日分の寿命が消え去る計算です。約2時間半で寿命は1年縮み、丸一日使い続ければ、それだけで約10年分もの命が前借りされてしまいます。
もちろん、「寿命」が一般的な人間の平均寿命をさすのか、クルタ族特有のものかは作中では語られていません。クルタ族の平均寿命は謎ですが、ここでは仮に人間の寿命(例えば80歳)を基準として彼の残り時間を考えていきます。
つまり、「絶対時間」は最強の力であると同時に、自らの命を燃料にする呪いのような能力といえます。彼の行動は常に死と隣り合わせであり、その悲壮な覚悟の深さこそがこの能力の異常な強さを支えているといえるでしょう。
◆ヨークシンから王位継承戦まで──クラピカはどれだけ寿命を削ったか?
自らの命を燃やして戦うクラピカ。彼はこれまで、いったいどれほどの寿命を前借りしてしまったのでしょうか。
まず、幻影旅団との死闘が繰り広げられたヨークシンシティ編。クラピカが「絶対時間」を発動した主な場面は、ウボォーギンとの一騎打ちや、クロロを捕らえた場面などが挙げられます。戦闘や駆け引きにかかった時間は、長くても数十分単位でしょう。ヨークシンシティ編全体を通しても、彼が能力を使った時間は、合計で数時間程度と推測できます。これでも数ヵ月分の寿命が削られていますが、まだ取り返しのつく範囲だったかもしれません。
しかし、ブラックホエール号で始まった王位継承戦では、状況が一変します。船内には無数の念能力者が潜み、いつ誰が襲ってくるかわからない極限状態。クラピカは第14王子ワブルの警護責任者として乗船しており、少しも気を抜けません。これらの困難な状況に対応するため、クラピカはほぼ常に緋の目を発動し「絶対時間」を使い続けているのです。
作中の時間経過を見ていくと、出航してから既に数日が経過しています。クラピカが睡眠などを除いた活動時間の大半、つまり十数時間も能力を使い続けている可能性があります。仮に1日に10時間使ったとすれば、それだけで1500日分、約4年もの寿命がたった1日で消えてしまう計算になります。
ヨークシンシティ編での消費がスローモーションに思えるほどの、すさまじいペースといえます。彼の命のろうそくは、今この瞬間も激しく燃えさかりながら、その終わりに向かって急速に短くなっているのかもしれません。
◆残酷な未来予測──クラピカの物語はどこへ向かうのか
ヨークシンシティ編とは比べ物にならない速さで、自らの命を削り続けるクラピカ。これから彼を待っているのはどのような未来なのでしょうか。
これまでの消耗時間を合計し、彼の余命を考えてみます。王位継承戦が始まってから仮に5日間、毎日10時間ずつ能力を使ったとすると、それだけで消費する寿命は約20年分にもなります。ヨークシンシティ編での消費と合わせ、既に相当な寿命を失っていることは間違いありません。
数字上ではまだ寿命が残っていても、本当に恐ろしいのはその消費ペースです。このまま能力を使い続ければ、残りの寿命が数十年あろうと危険な状況です。数ヵ月、あるいは数日で寿命を使い果たしてしまう計算になります。暗黒大陸への航海が数ヵ月続くと考えれば、彼が目的地にたどり着くことさえ危うい。これが数字の示す残酷な現実といえます。
しかし、クラピカの物語の核心は、寿命計算では測れません。彼の目的は長生きすることではなく、同胞の「緋の目」をすべて取り戻すこと。そのためなら、彼は自らの寿命を代償にすることをためらわないでしょう。その悲壮な覚悟こそが、彼を悲劇的な結末へと導くのかもしれません。
ですが、希望がまったくないわけではありません。ジンが語る暗黒大陸にあるとされる長寿食のニトロ米。これをクラピカが食べられれば、寿命が確保できる可能性もゼロではないといえます。しかし、クラピカが選ぶのは、おそらく「救済」ではなく「目的達成」ではないでしょうか。
彼の物語は、「何のために命を使うか」という重いテーマを問いかけているのかもしれません。その結末は『HUNTER×HUNTER』という作品全体のテーマにも関わる、非常に重要なものになるといえるでしょう。
──命を燃やし、復讐の旅を続けるクラピカ。王位継承戦で彼の寿命は、想像を超える速さで削られています。彼の命が燃え尽きるのが先か、それともすべての緋の目を取り戻し、同胞の魂を鎮めるのが先か。その答えが示されたとき、クラピカという一人の人間の生き様の、本当の意味を知ることになるのでしょう。
〈文/凪富駿〉
《凪富駿》
アニメ・漫画に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。特にジャンプアニメに関する考察記事の執筆を得意とする。作品とファンをつなぐ架け橋となるような記事の作成がモットー。
※サムネイル画像:Amazonより 『HUNTER×HUNTER 第35巻(出版社:集英社)』