ヒソカの強者たちへの採点は選挙編で突如始まりましたが、作中の描写から深い謎が隠されていることがうかがえます。しかし彼の物差しは“点数”だけではありません。ゴンに向ける「青い果実」という言葉との違いとは何か? この謎は、彼の孤独と、求め続ける“対等な存在”の本質へとつながっていると考えられます。
◆二つの物差し──“点数”と“果実”の違いとは?
ヒソカを理解するには、まず彼が二つの異なる物差しを使い分けていることを読み解く必要があります。一つは「点数」、もう一つは「果実」という評価です。
まず、「点数」による評価を見ていきます。
現状で採点が描写されたのは、選挙編の一度きりです。対象は会場にいたハンターや十二支んなど、既に実力が完成された者たちでした。ここから「点数」が「今すぐ戦った場合、どれだけ楽しめるか」という短期的な娯楽価値を示していると考えられます。
オーラや感覚で採点したとされるイルミへの95点という高得点も、以前より戦ってみたい相手であったイルミを「最高級の玩具」として見ていることの表れといえます。それはあくまで「楽しみ」の一つであり、ゴンに向けるような未来への期待は感じられないといえるでしょう。
次に、「果実」による評価です。
ヒソカは、未熟だったころのゴンを「青い果実」と呼び、その成長を心待ちにしていました。これは「点数」では測れない、未来への「成長性」に対する評価といえます。彼は、ゴンという才能の原石が、いつか自分を本気にさせてくれるかもしれないと期待し、熟すのを待つことを選んだといえるでしょう。
つまり、ヒソカにとってゴンは「玩具」ではなく、いつか自分と“対等”に戦ってくれるかもしれない「好敵手候補」なのかもしれません。
このように、ヒソカは二つの物差しを使い分けています。「点数」は、“現在”の実力者を「玩具」として見る一方的な娯楽価値の評価。それに対し「果実」は、“未来”に対等な存在になるかもしれない相手への特別な期待といえるでしょう。
◆強者ゆえの孤独──なぜ彼は“評価”し続けるのか?
ヒソカはなぜ、「玩具」と「果実」という二つの物差しを必要とするのでしょうか。その答えは、彼が抱える強者ゆえの「孤独」と「退屈」という感情を読み解くことで見えてきます。
まず、ヒソカが他者とまともな人間関係を築けない点に注目してみます。彼は常に自分より弱い者を見下し、強い者しか眼中に入れません。このような姿勢では心を通わせる仲間などできるはずもなく、彼は基本的に孤立しているといえます。
「採点」や「果実の育成」といった行動は、そんな彼が他者と関わるための歪んだコミュニケーションの方法なのかもしれません。一方的に相手を評価し、「玩具」や「果実」として自分の物語に登場させる。そうすることで、彼は孤独な世界の中で他者とのつながりを保っているのではないでしょうか。
そして、彼を突き動かすもう一つの感情が、「退屈」への恐怖です。
自分より強いかもしれない相手がほとんどいない世界は、強者にとって耐え難い「退屈」な世界といえます。ヒソカが二つの物差しを持つ理由は、この終わりのない退屈から逃れるためといえるでしょう。
「玩具」を壊すことで短期的な興奮を得て、「果実」が熟すのを待つことで長期的な希望を得る。この二つがなければ、彼の心は孤独と退屈に押しつぶされてしまうのかもしれません。
つまり、ヒソカが獲物を“評価”し続けるのは、気まぐれな行動ではなく自らの孤独と退屈を埋めるための必死の叫びであると考えられます。そして、その心の奥には自分と本気で渡り合える「対等な存在」に出会いたいという、純粋な願いが隠されているといえるでしょう。
◆“採点不能”の特別──クロロという存在証明
ヒソカの持つ「玩具」と「果実」という二つの物差し。しかし、幻影旅団のクロロだけは、そのどちらにも当てはまりません。彼は、ヒソカにとって採点さえできない、唯一無二の「特別」な存在なのかもしれません。
ヒソカはクロロに対し、「点数」も「果実」という言葉も使いません。クロロは、ヒソカが初めて自分と同等かそれ以上と認め、「本気で戦いたい」と望んだ究極の目標といえます。旅団への加入も、クロロと戦うための布石だったといえるでしょう。
天空闘技場での敗北は、ヒソカにとって最大の屈辱の一つだったでしょう。しかし、その敗北がクロロをさらに特別な存在へと押し上げました。
これまでのヒソカにとって、戦いは「楽しみ」でしたが、クロロとの再戦はもはやその域を超えているといえます。それは、地に落ちたプライドと、自分の存在そのものを証明するための「存在証明の戦い」へと姿を変えたのではないでしょうか。シャルナークとコルトピの命をためらいなく奪った行動は、彼の執着がもはや遊びではないことを示しているといえるでしょう。
ゴンが「未来の希望」なら、クロロはヒソカの「現在そのもの」といえます。クロロの存在は、ヒソカにとって孤独や退屈を一時的に忘れさせるほどの執着対象となったのかもしれません。彼の思考と行動は、ただ一人、クロロを倒すために向けられているのではないでしょうか。
クロロは、ヒソカの孤独を忘れさせ、その存在のすべてを懸けさせる男なのかもしれません。そしてヒソカの旅は、この採点不能の男を打ち負かす日まで、決して終わることはないといえるでしょう。
──ヒソカが強者を“評価”する物差しは、一つではないと考えられます。「点数」で格付けする“玩具”と、「果実」として熟すのを待つ“好敵手”。その根底には、強者の孤独と「対等な存在」への願望があるといえます。
そして、そのどちらにも当てはまらない男、クロロ。彼こそがヒソカのすべてを懸ける理由とすれば、彼の歪んだ愛情表現の果てにあるのは、誰よりも純粋な「本気の勝負」への願いなのかもしれません。
〈文/凪富駿〉
《凪富駿》
アニメ・漫画に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。特にジャンプアニメに関する考察記事の執筆を得意とする。作品とファンをつなぐ架け橋となるような記事の作成がモットー。
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