『HUNTER×HUNTER』の大きな謎の一つ、ゴンの母親の不在。なぜジンは、彼の母親のことをミトに明かさなかったのでしょうか。そのカギは、ゴンの「人間離れした才能」にあると考えれれます。動物に好かれる力、驚異的な回復力。これらが母親から受け継いだ特別な「血筋」であり、その故郷が“暗黒大陸”だとしたら……。
◆人間じゃない? ゴンに宿る“異常な才能”の根源
ゴンの母親の謎を解くカギは、彼が持つ「人間離れした才能」にあります。その能力は「天才」という言葉では説明がつかない、不思議なものです。
まず一つ目は、動物たちを魅了する、常識外れの親和性です。
物語の冒頭、ゴンは故郷のキツネグマと親友のように心を通わせていました。これはたんに動物好きなのではなく、種族の壁を越えて心を通わせる、特別な才能の表れといえます。
この才能の異常さは、キメラ=アント編の終盤でよりはっきりします。負傷中のコムギを治療していたネフェルピトーに、「予定より10分早く治せ」と命令したゴンを見たネフェルピトーは、「王の喉元にも届き得るかも知れない」と、王にさえ届きかねない危険な存在であると見抜きました。
これはゴンが「ゴンさん」になる前の出来事であり、ネフェルピトーが感じ取ったのはオーラの量だけでなく、ゴンの魂の奥底に眠る人間としての限界を超えた「何か」の気配だったのではないでしょうか。彼の本質には、純粋な人間とは違う何かが混じっているのかもしれません。
そして二つ目が、常識外れのタフネスさと驚異的な回復力です。
ハンター試験で、ゴンはハンゾーの攻撃にも決して屈しませんでした。天空闘技場では、数ヵ月はかかるほどの重傷から、わずかな期間で回復しています。戦闘で体力を極限まで消耗しても、短時間で回復して活動を再開する場面は数え切れません。これらは「強化系」というだけでは説明がつかず、彼の生命力そのものが常人離れしている証拠といえます。
これらの才能は、後天的な念能力というより、生まれ持った「血筋」に原因があると考えるのが自然といえるかもしれません。
つまり、ゴンの才能は「天才」では片付けられない「異常さ」を帯びているといえます。その根源は、謎に包まれた母親から受け継いだ、人間ではない“何か”の血である可能性が高いのかもしれません。
◆ジンがゴンの母親を“隠す”理由──暗黒大陸との禁断の接触
ゴンの持つ人間離れした才能が、もし母親から受け継いだ特別な血筋によるものだとすれば、新たな謎が生まれます。なぜジンは、その女性の存在を隠したのでしょうか。
ゴンの育ての親であるミトとおばあちゃんは、ゴンがハンター試験から帰った日の夜、彼に一つの嘘を告白します。それは、「あんたの母親は死んだ」と教えていたのは嘘で、本当はジンがゴンをミトに預ける際に「別れた」とだけ言い残していった、という事実です。
このことから考えられるのは、ゴンの母親が、たんなる「別れた恋人」として片付けられるものではない、何か特別な事情を抱えているということです。もし普通の別れであったのなら、ジンが「別れた」だけで母親の説明をしない理由はなかったといえるでしょう。
では、その「特別な事情」とは何なのか。そのヒントは、ジン自身の旅の目的にあるのかもしれません。
選挙編で、ジンは300年以上前に暗黒大陸を探検した伝説のハンター「ドン=フリークス」の存在を追っていることを明かしました。ジンが暗黒大陸を探索した事実はありませんが、「新大陸紀行」の存在を知っていることなどから、既に探索したことがあるという可能性は高いといえるでしょう。
それを踏まえると、ゴンの母親に関する秘密も、ジンの暗黒大陸探検と無関係ではないのかもしれません。彼が大陸を探検する過程で、ドンの一族の末裔やあるいは人間ではない特殊な種族と出会い、その一員である女性と深い関係になった。そう考えることもできるのではないでしょうか。
つまり、ジンがゴンの母親の存在を明かさないのは、彼女が「普通の人間」とは異なる、特別な事情を抱えているからだと考えられます。そして、その謎は、ジンが生涯をかけて追い求める暗黒大陸という壮大な物語と深く結びついているのかもしれません。
◆ゴンの旅の終着点──自らの“ルーツ”をめぐる物語へ
ジンが隠すゴンの母親の謎、そしてゴン自身に眠る人間離れした力の謎。この二つの答えは、物語のすべての伏線が向かう先、“暗黒大陸”にあるのかもしれません。
まず、確定している事実を整理すると、ジンの目標は暗黒大陸で伝説の探検家ドン=フリークスを探すこと。そして、ゴンの母親の存在はジンによって隠されている。これらすべてが「暗黒大陸」でつながる以上、ゴンの母親の正体も、大陸の謎を解く重要なカギになると考えられます。
そして、そのカギはゴン自身の体の中にも隠されているのかもしれません。キメラ=アント編で見せた「ゴンさん」への変貌。ネフェルピトーはそれを精神的な制約によるものだと分析しました。しかし、本当に覚悟だけで、あれほど急激な肉体成長が可能になるのでしょうか。
念能力の制約だけでは説明がつかない、異常なものだったとも考えられます。ゴンの血に眠る人間ではない“何か”の因子が、覚悟を引き金に暴走した結果ともいえるでしょう。この「未知の因子」こそが、母親から受け継いだ彼の出生の秘密なのかもしれません。
ゴンの母親の正体は断定できません。しかし、物語の伏線が暗黒大陸に向かっていること、そして「ゴンさん化」が異常な現象であることは事実です。この二つの謎が将来的につながる可能性は十分にあるでしょう。
ゴンが再び物語の主役として登場するとき、その冒険は父を追うだけでなく、自らの体に眠る「謎」、つまり自分自身の“ルーツ”を探る旅へとつながっていくと考えられます。
──ジンが隠す、ゴンの母親の謎。その答えは、ゴンの人間離れした才能と「ゴンさん化」に隠され、そのルーツが“暗黒大陸”にあることを示唆しているといえます。ゴンの物語はまだ終わっていません。彼が再び旅に出るとき、それは父を追うだけでなく、自らの身体に眠る「謎」を解き明かす旅になるのかもしれません。
〈文/凪富駿〉
《凪富駿》
アニメ・漫画に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。特にジャンプアニメに関する考察記事の執筆を得意とする。作品とファンをつなぐ架け橋となるような記事の作成がモットー。
※サムネイル画像:Amazonより 『「HUNTER×HUNTER」第21巻(出版社:集英社)』