それぞれの道を歩み始めたゴンとキルア。彼らの再会を読者の誰もが信じ、待ち望んでいることでしょう。しかし、その“最高の友情”に本当に続きはあるのでしょうか。この別れは、二人が「対等な存在」として再び出会うための、たった一つの道だったのかもしれません。彼らの関係性はどのように変化し、どんな未来へ向かうのでしょうか?
◆「光」と「影」の共依存──二人が“最高の友達”だった本当の理由
ゴンとキルアの友情は、たんなる「仲の良い友達」という言葉では表しきれない特別なものでした。それは、互いの足りない部分を補い合う、「光」と「影」のような関係です。
まず、キルアにとってのゴンという存在を考えてみます。暗殺一家に生まれ「友達は必要ない」と教え込まれてきたキルア。彼の心を閉ざされた暗闇から救い出したのが、太陽のように明るく、まっすぐなゴンでした。ゴンと出会い、キルアは初めて自分の意志で行動する喜びを覚えます。イルミの針を抜き去れたのも、ゴンと出会い“自分の意志で動く力”を取り戻したからだといえます。ゴンは、キルアを家族の呪縛から解き放った「救い」そのものだったといえるでしょう。
一方、ゴンにとってのキルアはどうだったのでしょうか。好奇心旺盛で、危険へためらわず突き進むゴン。その危なっかしい旅路を、常に冷静な判断力で支え、何度も命を救ってきたのがキルアでした。彼の存在がなければ、ゴンの冒険は早い段階で終わっていたかもしれません。
特に、キメラ=アント編の終盤、瀕死の状態となったゴンを、キルアは一族に背く危険を冒してまで、アルカの力で救い出します。キルアは、ゴンの無謀さを見守り、その命を守る「守護者」の役割を常に担っていたといえるでしょう。
このように、二人の関係は、互いの欠けた部分を補い合う「共依存」に近いものだったのかもしれません。光であるゴンが輝くためには、常に影であるキルアの支えが不可欠でした。この少しアンバランスな関係性こそが、彼らの強い絆の源であり、そして皮肉にも、のちの別れへとつながる原因になってしまったのではないでしょうか。
◆キメラ=アント編で生じた“決定的な亀裂”──なぜ二人は別れなければならなかったのか
あれほど強く結ばれていたゴンとキルアは、なぜ別々の道を歩むことになったのでしょうか。その答えは、キメラ=アント編での心のすれ違いにあります。
きっかけは、カイトを失ったことによるゴンの変貌でした。カイトを無惨な姿に変えられ、ゴンは冷たい復讐心に心を支配されていきます。ピトーと対峙した場面で見せた彼の瞳は、キルアの制止の声さえ聞こえていないかのように冷徹な光を放っており、かつての明るいゴンの姿はそこにはありませんでした。ゴンの隣にいることが当たり前だったキルアは、彼を止められない自分に、深い無力感を抱いたように描かれています。
そして二人の亀裂を決定的にしたのが、ゴンの「キルアは……いいよね。冷静でいられて。関係ないからっ」という残酷な言葉でした。
この言葉はゴンの本心ではなかったかもしれません。しかし、ゴンを支えてきたキルアにとって、友情そのものを否定されたように感じられたでしょう。この瞬間に、二人の関係には深い亀裂が入ってしまったといえます。
その亀裂の先で、キルアは「新たな道」を見つけます。瀕死のゴンを救うため、彼は一族のタブーであるアルカの力を解放します。ゴンを救ったあと、キルアが選んだのはゴンの元に戻ることではなく「これからはアルカを守って生きていく」という新しい旅立ちでした。これは、これまでゴンの「影」だったキルアが、初めて自分自身の守るべきものを見つけ、一人の人間として「自立」した瞬間だと考えられます。
二人の別れは仲違いが原因ではなく、ゴンが自分を見失い、キルアが自身の使命を見つけたことで、かつての「光」と「影」という関係が成り立たなくなったからといえます。互いが成長し、いつか本当の意味で対等になるために一度離れることは二人にとって必然だったのかもしれません。
◆再会の舞台は“暗黒大陸”──二人が再び交わる未来とは
一度は終わりを迎えた二人の旅。しかし、それは永遠の別れではなく、本当の友情の始まりなのかもしれません。
まず、二人が真の意味で再会するための「絶対条件」を考えていきます。今のまま再会しても、またかつての「光」と「影」のようなアンバランスな関係に戻ってしまう可能性があります。本当の再会のためには、互いがそれぞれの場所で困難を乗り越え、一人の人間として成熟し、「対等な存在」になる必要があるのではないでしょうか。
念を失ったゴンは、力に頼らない新たな強さを見つけなければなりません。一方、キルアはアルカを守りながら、ゾルディック家との問題に決着をつける必要があります。この試練こそが、二人を対等な存在へと成長させるのかもしれません。
そして興味深いことに、二人の別々の道は、同じ一つの場所へとつながっている可能性が高いのです。ゴンの物語は、最終的に父・ジンへとつながり、その舞台は“暗黒大陸”になると考えられます。一方、キルアの旅もまた、ナニカの正体が厄災「アイ」と関連している可能性があり、その謎を解き明かすため、最終的には暗黒大陸を目指すことになるのではないでしょうか。
二人の再会は、感傷的なものではなく、それぞれの試練を乗り越え、成長した二人が互いを認め合う、誇らしい再会となることでしょう。
かつての「光」と「影」ではなく、互いに自立した「対等なハンター」として、人類最大の謎である暗黒大陸で再び出会う。そのときこそ、彼らの友情が本物へと進化する瞬間であり、物語は最終章の幕開けを迎えるのかもしれません。
──それぞれの道を歩み始めたゴンとキルア。二人の別れは、友情の終わりではありません。それは、「共依存」から脱却し、互いが自立するための必然的な試練だったといえます。
試練を乗り越え「対等な存在」となったとき、二人の旅路は再び交差することでしょう。友情が本物へと進化した瞬間、物語は新たな始まりへと進んでいくのかもしれません。
〈文/凪富駿〉
《凪富駿》
アニメ・漫画に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。特にジャンプアニメに関する考察記事の執筆を得意とする。作品とファンをつなぐ架け橋となるような記事の作成がモットー。
※サムネイル画像:『「週刊少年ジャンプ」公式サイトより ©冨樫義博/集英社』