天空闘技場でのクロロ対ヒソカ。クロロは、シャルナークとコルトピから借りた能力を使い、一度は勝利しました。しかし、その勝利の立役者であった二人は、復活したヒソカによって命を奪われます。
この事実は「元の持ち主が命を落とした場合、盗んだ能力はどうなるのか?」という、クロロの能力の根幹を揺るがす致命的な問いを突きつけます。これは、幻影旅団崩壊への“時限爆弾”のスイッチが押された瞬間だったのかもしれません。
◆「栞のテーマ」の追加と“死後の念”──盗賊の-極意のルールを再検証する
ヒソカの復讐が“時限爆弾”のように作用する理由を理解するには、まずクロロの能力「盗賊の極意(スキルハンター)」が、現在どのようなルールで成り立っているのかを再確認する必要があります。
ヒソカとの戦いで、クロロは新たに追加された補助能力「栞のテーマ(ダブルフェイス)」を初披露しました。コミックス34巻で説明されている通り、この能力は「栞を挟んだページの能力」と、「本を右手で押さえているページの能力」を同時に発動できるものです。
これにより、クロロの戦い方は大きく進化しました。以前のように一つの能力を選ぶのではなく、複数の能力を組み合わせた複雑なコンボが可能になったのです。
しかし、この強化をもってしても消すことのできない「盗賊の極意」の根本的なルールが存在します。
能力を盗むための4つの条件。一つ目は「相手の念能力を実際に見る」、二つ目は、「相手に対象念能力について質問し、相手がそれに答える」、三つ目は「本の表紙の手形と相手の手のひらを合わせる」、そして四つ目は「1~3までを1時間以内に行う」です。
さらに、盗んだ能力が使用できなくなる条件として「盗んだ能力の元の持ち主が命を落とした場合、その能力は本から消えて使えなくなる」があります。
そしてこれが、「盗賊の極意(スキルハンター)」が抱える最大の弱点の一つといえます。どれだけ強力な能力を集めても、元の持ち主の命が尽きればその能力は消え去ってしまうのです。
例外は、持ち主の死後に念が強まる「死後の念」が発動した場合です。この場合に限り、能力は本に残りますが、その念がクロロ自身にどう影響するかは未知数であり、彼にとっても大きな危険を伴います。
つまり、クロロの能力は強化されましたが、「元の持ち主が命を落とすと能力が消える」という致命的な弱点は変わっていないといえます。そして、この冷徹なルールこそが、ヒソカが繰り広げる残酷な復讐劇の最も重要なカギとなるのかもしれません。
◆シャルナークとコルトピの喪失──クロロが失った“二つの腕”
「元の持ち主が命を落とすと、能力は消える」。このルールは、シャルナークとコルトピがヒソカに命を奪われたことで、クロロにとって悪夢の現実となりました。彼を勝利に導いた二つの強力な能力は、もう彼のコレクションには存在しないのです。
まず失われたのは、コルトピの「神の左手悪魔の右手(ギャラリーフェイク)」です。
左手で触れたものを右手で完璧にコピーするこの能力は、ヒソカ戦で闘技場や人間のコピーを大量に作り出し、勝利に不可欠な役割を果たしました。しかしルールに従えば、コルトピが死亡した瞬間に、クロロの本からこの能力は消え去ったと考えるのが自然です。クロロは、集団戦術の要となる重要な能力を完全に失ったといえます。
そして失われた二つ目の能力が、シャルナークの「携帯する他人の運命(ブラックボイス)」です。
アンテナを刺すことで相手を自由に操るこの強力な能力も、ヒソカ戦で審判や観客を操り、決定的な場面で使われていました。シャルナークが倒されたことで、この能力もまた、クロロのコレクションから消えた可能性が極めて高いでしょう。不特定多数の人間を兵隊にするという、恐ろしい選択肢が彼の戦略から消えたといえます。
ここから、ヒソカの復讐の本当の恐ろしさが見えてきます。彼の復讐は、旅団員の命だけではなく、旅団員を全滅させることで結果的にクロロの「盗賊の極意」の中身を一つずつ消していく「能力狩り」の側面もあるのかもしれません。
クロロがヒソカ戦で見せた勝利のコンボ。その二つの腕は、もう二度と彼の元には戻らないといえるでしょう。
◆ヒソカの真のねらいとは?──仲間に依存できなくすることが目的
シャルナークとコルトピの命を奪い、クロロの戦術の“要”となる二つの能力をもぎ取ったヒソカ。彼の真のねらいは、幻影旅団を内側から破壊し、クロロを仲間の能力に依存できない状態へと追い込む、周到な復讐劇なのかもしれません。
ヒソカの復讐が本当に恐ろしいのは、彼が一人ずつ確実に旅団員を狩っていく点です。それは、たんに旅団の戦力を削ぐだけではありません。仲間が一人倒されるたびに、クロロの戦術の選択肢は確実に狭まっていくといえます。
ヒソカは、クロロが二度と「仲間の能力に依存して戦う」という、ヒソカ自身が嫌う戦い方を選べないように、その貸主である仲間たちを一人ずつ消し去っているのではないでしょうか。そして、その先に見据えているのは、彼が望むただ一つの舞台なのかもしれません。
天空闘技場での戦いは、ヒソカにとって「1対多数」のプライドを傷つけるものでした。彼が望むのは、そんな策略に満ちた戦いではなく、お互いのすべてを懸けた純粋な「1対1」での決着といえます。
旅団員を狩り尽くし、クロロから借り物の武器をすべて奪ったあと、コレクションの減ったクロロを、万全の自分が叩きのめす。これこそが、ヒソカが思い描く復讐のシナリオなのかもしれません。
ヒソカが仕掛けた復讐は、幻影旅団の「崩壊」とクロロ個人の「弱体化」を同時に進める、残酷な“時限爆弾”になっている可能性があります。旅団が仲間を失うたびに、団長であるクロロの力もまた確実に削がれていく。この悪夢のような悪循環こそヒソカが仕掛けた最大の罠であり、幻影旅団は今、創設以来もっとも大きな危機に瀕しているのではないでしょうか。
──ヒソカが仕掛けた、残酷な時限爆弾。シャルナークとコルトピが命を落とした今、クロロは戦術の“要”となる二つの能力を失ったと考えられます。
ヒソカの復讐は、旅団員を狩ることでクロロの武器を奪い、クロロの能力を無効化にします。仲間が減るほど団長の戦術も狭くなっていくこの連鎖は、幻影旅団の「崩壊」を意味しているといえるでしょう。
かつてない窮地に立たされた幻影旅団。彼らの存亡をかけた戦いは、もう始まっているのかもしれません。
〈文/凪富駿〉
《凪富駿》
アニメ・漫画に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。特にジャンプアニメに関する考察記事の執筆を得意とする。作品とファンをつなぐ架け橋となるような記事の作成がモットー。
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