<PR>
<PR>

<この記事には原作漫画『HUNTER×HUNTER』のネタバレが登場します。ご注意ください。>

 ブラックホエール号に、因縁の仇敵・幻影旅団が乗っている。それだけでクラピカの状況は深刻です。しかし、船には彼がまだ知らない、もう一つの絶望が潜んでいます。キルアの兄、イルミ=ゾルディックという“見えざる脅威”の存在です。

 王子を守る使命を背負ったまま、旅団とゾルディック家、二つの敵に挟み撃ちにされる運命。これは、彼が「詰み」にもっとも近づいた、出口のないデスゲームの始まりなのかもしれません。

<PR>

◆船上の蜘蛛──“復讐者”から“守護者”へと立場を変えたクラピカの苦悩

 ブラックホエール号で、クラピカはかつてないほど困難な状況にあります。それは、彼の立場が、かつての「復讐者」から、王子を守る「守護者」へと変わってしまったことに大きな原因があるといえます。

 まず、現在のクラピカの最優先事項は、第14王子ワブルの命を守り、王位継承戦を生き残らせることです。これは彼が請け負った仕事であり、投げ出せない責任といえるでしょう。

 そのため、船内に憎き幻影旅団がいても、自分から手出しができません。かつてのヨークシンシティ編のように、私的な感情で自由に動くことは許されないのです。下手に旅団を刺激すれば、守るべきワブル王子や仲間たちを危険に晒す可能性があります。「守らなければならないもの」の存在が、今度は「責任」という名の鎖で彼を縛り付けているのかもしれません。

 さらに、彼を苦しめているのが、深刻な戦力不足と能力の酷使です。船内に潜む念能力者を探すため、クラピカは常に「絶対時間」の使用を強いられています。「絶対時間」は1秒につき1時間の寿命をすり減らすという制約があり、極めて危険な状態といえます。彼にはビルや弟子たちという味方がいますが、幻影旅団と正面から戦えるほどの戦力ではありません。結果として、クラピカ一人の肩に、あまりにも大きな負担がかかっているのではないでしょうか。

 つまり、クラピカは仇敵の気配を感じながらも「守護者」という立場と「戦力不足」という現実によって、身動きを封じられていると考えられます。復讐の機会と、破滅の危険が隣り合わせの極めて不安定な状況。それが、今の彼の苦悩の正体なのかもしれません。

<PR>

◆“見えざる暗殺者”──イルミ=ゾルディックという最悪の追加札

 王子を守り、幻影旅団に神経をすり減らすクラピカ。しかし彼の苦境はそれだけでは終わりません。船には、彼がまだ知らない“見えざる暗殺者”が乗り込んでいます。その男の名は、イルミ=ゾルディック。キルアの兄です。

 コミックス36巻で、イルミはヒソカからの依頼を受け、幻影旅団に正式加入したことが明かされました。彼の目的は、ヒソカを倒すこと。その点において、旅団とは一時的に利害が一致しているにすぎないといえます。

 しかし、その実力は本物です。針で人を操る念能力と、目的のためならためらいなく人の命を奪う冷徹さ。その危険度は、旅団の主力メンバーにも引けを取らないでしょう。

 では、クラピカがイルミの存在に気づいたとき、どうなるでしょうか。クラピカは仲間であるキルアから、ゾルディック家の恐ろしさ、特にイルミの歪んだ執着心について聞いている可能性が高いです。そのイルミが、今まさに自分が滅ぼそうとしている仇敵、幻影旅団と手を組んでいる。

 この事実は、クラピカにとって二重の絶望となって襲いかかります。「キルアの兄」という個人的な絶望と「旅団の協力者」という戦術的な絶望です。この精神的な揺さぶりは計り知れず、彼の冷静な判断を鈍らせる最大の要因になるのではないでしょうか。

 つまり、イルミの存在は、たんに強敵が一人増えたという話ではないのかもしれません。それは、クラピカが知らない場所で、警戒すべき相手と憎むべき相手が悪魔の契約を結んだという、悪夢のシナリオといえます。クラピカは、自分がまだ認識すらしていない脅威に、静かに背後からねらわれているといえるでしょう。

<PR>

◆クラピカの状況は出口のない「絶望のデスゲーム」そのもの

 自由に動けず、寿命を削り続け、表には旅団、裏にはイルミという脅威が迫る。今のクラピカの状況は、出口のない「デスゲーム」そのものといえます。

 彼の抱える問題を整理すると、その絶望的な状況がよりはっきりします。一つ目は、王子護衛という「使命」。二つ目は、自らの命を削る「制約」。そして三つ目は、旅団とイルミという二つの「脅威」。この三つの問題により、クラピカは戦術的に完全な「詰み」の状態にあるのではないでしょうか。

 王子から離れられない、能力を使いすぎれば自滅する、敵はいつ襲ってくるか分からない。どの選択肢も破滅につながる、まさに八方塞がりの盤面といえるでしょう。

 では、この絶望的な状況を覆す手立ては残されていないのでしょうか。逆転の可能性があるとすれば、それは戦闘力ではなく別の土俵、つまり「情報戦」の中にこそ見出せるのかもしれません。

 幻影旅団の目的はヒソカを倒すこと。イルミの目的も同じです。さらに船内ではほかの王子たちも暗躍しています。クラピカがこれらの情報を正確に掴めば、敵対勢力を互いにぶつけ「漁夫の利」をねらえるのではないでしょうか。カキン帝国の情報網や、ビヨンド一派との連携がその鍵となる可能性が高いといえるでしょう。

 クラピカは、戦闘能力では限界に近い状況といえます。しかし『HUNTER×HUNTER』の戦いは力の強さだけでは決まりません。彼の最大の武器である「卓越した頭脳」と「交渉術」を発揮し、敵の目的さえ利用して盤面を操ることができたとき、初めてこのデスゲームに一条の光が差し込むのかもしれません。

 

 ──復讐の蜘蛛と、見えざる暗殺者。船上でクラピカは、表の「幻影旅団」と裏の「イルミ」に挟撃されているといえます。使命と寿命の制約を抱えた彼は、戦闘においてはもはや完全に「詰み」の状態なのかもしれません。

 この八方塞がりの状況は、彼にとって最大の試練。しかし、彼の武器は力だけではありません。その卓越した頭脳が、この絶望的なデスゲームの盤面をひっくり返すことができるのか。彼の次の一手に、すべてがかかっています。

〈文/凪富駿〉

《凪富駿》

アニメ・漫画に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。特にジャンプアニメに関する考察記事の執筆を得意とする。作品とファンをつなぐ架け橋となるような記事の作成がモットー。

 

※サムネイル画像:Amazonより 『「HUNTER×HUNTER」第33巻(出版社:集英社)』

<PR>
<PR>

※タイトルおよび画像の著作権はすべて著作者に帰属します

※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

※無断複写・転載を禁止します

※Reproduction is prohibited.

※禁止私自轉載、加工

※무단 전재는 금지입니다.