ネフェルピトー(以下、ピトー)を倒す代償として、すべてを失ったゴン。彼はもう二度と念能力を使えないのでしょうか。しかし、父ジンは息子の状態をこう語ります。「“普通”に戻ったってことさ」。
これは、ゴンの状態が能力の「喪失」ではなく、念を覚える前に戻っただけの「強制リセット」だという、希望のメッセージなのかもしれません。彼の復活の条件と、その先に待つ新たな力の可能性が見えてきます。
◆「“普通”に戻った」──ジンが語った言葉の真意と“強制リセット”説
ゴンはもう念能力を使えないのか──。その絶望的な問いへの答えは、父ジンの極めて楽観的な言葉の中に隠されているのかもしれません。
アルカの能力で回復したあと、ゴンはジンに電話でオーラを感じられなくなったと告げました。息子からの深刻な報告に対し、ジンは少しも驚かず、こう答えます。「オレといた時は出ていたぞ」「“普通”に戻ったってことさ 充分だろ?」。
この落ち着き払った態度は、何を意味するのでしょうか。ゴンの状態が回復不可能なら、ジンももう少し深刻な反応を見せるはずです。ここから、ジンがゴンの状態を正確に、そして悲観せず理解していると考えられます。彼にとって、ゴンの現状は「念能力の喪失」ではなく、念を覚える前の「“普通”の子供」に戻っただけ、という認識なのではないでしょうか。
では、なぜゴンはそのような状態になったのか。原因は、ピトーを倒すために自らに課した、究極の「制約と誓約」にあります。
「もうこれで終わってもいい」。あのときゴンは、持てるすべてを投げ出す覚悟をしました。その代償は「死」ではなく、「念能力者としての自分をすべて捧げる」ことだったと解釈できるといえます。その結果、彼の体は念能力に関するすべての経験を消去され、オーラの精孔も閉じてしまった。これが「強制リセット」の真相ではないでしょうか。
つまり、ジンの言葉を根拠とするなら、ゴンの状態は絶望的な「喪失」ではありません。それは、もう一度ゼロからスタートラインに立つための、希望に満ちた「リセット」なのかもしれません。
◆再び“目覚める”ための条件──ゴンの旅と「心の成長」
ゴンの状態が念を覚える前に戻っただけなら、再び目覚める道もあるといえます。しかし、その道は以前とは違うものになる可能性が高いです。
ゴンが最初に念に目覚めたのは、ウイングの指導で強制的に精孔をこじ開けられるという荒っぽい方法でした。しかし、一度道を極めた彼が、また同じ方法で目覚めるとは考えにくいです。父ジンも電話で「今のお前がやれる事は何か 見つける良い機会だ」と語っています。この言葉は、復活のカギが技術的な修行ではなく、ゴン自身の「心」の在り方にあることを示唆しているのかもしれません。
では、ゴンの新たな「心の目標」とは何になるのでしょうか? キメラ=アント編で、ゴンは復讐心に囚われ自分を見失いました。念を使えなくなった今の時間は、彼が自分自身を見つめ直すための重要な「充電期間」といえるでしょう。
彼の冒険の第一章は「ジンに会う」という目標を達成し、一度終わりを告げたといえます。ここから始まる第二章は、もはや父の背中を追うだけのものではありません。それは、自らの「母親の謎」を探す旅か、あるいは「暗黒大陸」へ向かう冒険かもしれません。
ゴンが「何のために強くなりたいのか」という新たな目標を見つけたときこそ、彼の閉ざされた精孔は自ずと開き、眠っていたオーラが再び目覚めるのではないでしょうか。
ゴンが再び念能力者として立ち上がるカギは、厳しい修行ではありません。彼が子供から大人へと成長するための、そして真のハンターへと生まれ変わるための、「心の成長」そのものだといえるでしょう。
◆リセットされた才能──ゴンが手にする“新たな力”の可能性
念を失い、“普通”の子供に戻ったとされるゴン。しかし、彼が「心の成長」を経て再び念に目覚めたなら、その力は以前と同じものになるのでしょうか。彼は、以前よりも遥かに成熟し洗練された、まったく新しい力を手にするのかもしれません。
まず考えられるのが、強化系の枠を超えた“第二の天性”の開花です。ゴンは「強化系」ですが、その才能は純粋で、他の系統にも高い適性を持つことがウイングによって示唆されていました。
一度リセットされたことで、彼は自身のオーラを客観的に見つめ直し、強化系以外の才能を花開かせる可能性は十分にあるといえます。父ジンが持つような、どの系統にも分類しがたい特殊な能力。ゴンの血の中にも、「特質系」のような特別な才能が眠っていても不思議ではありません。
そして忘れてはならないのが、「ゴンさん化」という強烈な体験です。あの経験は彼の未来を一度は奪いましたが、同時に、常人では見ることのできない「人間の限界を超えた力」の頂を、彼はその身で体験しています。その感覚は、たとえ念を失っても、彼の魂の奥深くに刻まれている可能性があります。
再び念に目覚めたとき、彼はこの体験をヒントに、以前の「ジャジャン拳」とはまったく異なる新たな必殺技を編み出すのではないでしょうか。それは、力任せの技ではなく、彼の
人間的な成長が反映された、思慮深い能力になるのかもしれません。
ゴンの念能力のリセットは、彼からすべてを奪ったのではなく、むしろ新たな可能性の扉を開いたと考えられます。彼はもはや、たんなる「強化系の天才」ではありません。一度死線を乗り越えた経験を糧に、より深く、広い力に目覚める可能性を秘めているといえます。ゴンの二度目の覚醒は、きっと私たちの想像を遥かに超えるものになるといえるでしょう。
──念能力を失い、“普通”の子供に戻ったゴン。しかしそれは絶望的な「喪失」ではなく、再び立ち上がるための「強制リセット」だったのかもしれません。新たな目標を見つけ、精神的に成長したとき、彼の才能は再び目覚めるでしょう。
その先で手にするのは、一度死線を乗り越えた経験が反映された、より成熟した新たな力のはず。ゴンの二度目の冒険は、本当の意味で彼が「主人公」となる、物語の新章の始まりといえるでしょう。
〈文/凪富駿〉
《凪富駿》
アニメ・漫画に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。特にジャンプアニメに関する考察記事の執筆を得意とする。作品とファンをつなぐ架け橋となるような記事の作成がモットー。
※サムネイル画像:Amazonより 『「HUNTER×HUNTER」第38巻(出版社:集英社)』





