『HUNTER×HUNTER』ではイキがった登場の割にすぐに負けて退場してしまう、いわゆるかませ犬と呼ばれるキャラクターがいい味を出しています。その中でも見た目や戦い方のイロモノぶりから、インパクトが強かったのが幻影旅団に敗れた陰獣です。
しかし、ストーリーが進んで幻影旅団の圧倒的な強さやクラピカの能力が明らかになってくると、ファンの中で陰獣が再評価される流れが生まれることになっています。
◆陰獣が見せた戦いぶりと敗因
作中で描かれた陰獣の戦いは、マフィアンコミュニティーのオークション会場を襲った幻影旅団を相手にしたもののみです。蚯蚓や病犬、豪猪、蛭が連携しての4対1の戦いでしたが、致死性の毒であればウボォーギンの命を奪えていました。
陰獣とウボォーギンの戦いは、蚯蚓が地中を移動しての背後からの奇襲で始まります。そこからウボォーギンを土の中に引きずり込もうとしますが、超破壊拳(ビッグバンインパクト)による反撃を受けてしまいました。
敵がA級首の幻影旅団と分かってからも果敢に攻撃を仕掛け、豪猪の体毛でウボォーギンのパンチを封じます。そこから病犬の噛みつきによる毒注入で体の動きも封じ、蛭が傷口から体内にヒルを送り込みました。
陰獣の敗因はマチの指摘した通り、致死性の猛毒にしなかったことです。このとき幻影旅団のメンバーは7人いましたから、ウボォーギンから情報を引き出す必要はありませんでした。
そのため、病犬が体の自由を奪う神経系の毒を使ったのは、シャルナークの推測通りに人をいたぶるのが好きだからでしょう。その証拠に病犬は「首から上は無事だから痛みも恐怖も自覚できる」と述べており、明らかにいたぶって楽しもうとする意図が見えました。
しかし、ウボォーギンは首から上が動くだけで十分と不用意に近づいた蛭の頭を噛み、その頭蓋骨を飛ばして病犬も始末しました。ウボォーギンの拳を体毛で串刺しにしていた豪猪も、大声によって鼓膜を破られて敗北。
超破壊拳(ビッグバンインパクト)で瀕死の状態になった蚯蚓は、最期に仲間に連絡するのが精一杯でした。この後、ウボォーギンをさらったクラピカたちを追いかける幻影旅団を梟たちが急襲しますが、残念ながら残りのメンバーの戦いは割愛されて陰獣が全滅したことが明らかになります。
◆見た目とセリフは完全にかませ犬で引き立て役
陰獣メンバーは動物の名前をコードネームにしており、能力だけでなく姿もコードネームに寄せたイロモノな恰好をしています。また、ウボォーギンに対して「調子に乗ってるな」や「筋肉バカが手玉だぜ」など初登場からイキったセリフ目白押しで、いかにもかませ犬っぽい雰囲気をただよわせていました。
遅れて現れた陰獣メンバーも、「これが本当にあの幻影旅団かよ もろそうだぜ」と思い切りかませ犬ムーブをかまします。しかも、そのうちの一人は羽を大きく広げて空を飛んでおり、まるでモンスターのようです。
地中を自在に移動する蚯蚓といい人間離れした姿と能力は、強キャラというよりザコっぽい雰囲気が満載でどうしてもかませ犬っぽい印象を受けます。しかも割愛された残りの陰獣との戦い後の幻影旅団メンバーを見ても、ダメージを受けた様子はありませんでした。
さらに陰獣と4対1の戦いを繰り広げて勝利したウボォーギンは、この後クラピカにタイマン勝負で負けています。このときのクラピカは、念を覚えてまだ半年くらいでした。
ウボォーギンが念能力を覚えたてのルーキーハンターに負けたことで、幻影旅団の評価が下がってしまいます。それにともなって幻影旅団に軽くあしらわれた陰獣はクラピカの引き立て役となり、ただのかませ犬と認識されることとなりました。
◆陰獣の個の強さと集団戦の連携
蚯蚓の放った先制パンチにウボォーギンは「効いたぜ」と発言しており、病犬や豪猪はウボォーギンの身体に傷をつけていたことから陰獣の個の能力はかなり高いと推測されます。また、単独での戦いを好む念能力者が多い中、陰獣の4人の連携は抜群で任務遂行のためにチーム力を高めることを怠らないという強さも見られました。
フェイタンは毛や歯でウボォーギンの鋼鉄を誇る肉を裂いた陰獣の攻撃に感心していました。また、シャルナークも「かなり鍛えられた念能力者だ」と同調しています。
ウボォーギンは強化系であり、その肉体の強度は幻影旅団の中でもナンバーワンです。その彼を傷つけたわけですから、陰獣の攻撃力はかなりのものといえるでしょう。
また、ウボォーギンを手玉にとった病犬たちの連携攻撃は見事でした。幻影旅団や十二支んなどを見ても、同じ組織に所属していながらお互いの能力を隠している者は多いです。
しかし、陰獣の連携攻撃はよどみなく、お互いの役割を理解しているような動きでした。陰獣は世界中のマフィアを束ねる十老頭がそれぞれが抱える実力者で構成されていますが、日頃から情報共有と連携の鍛錬を怠っていないということでしょう。
また、自分たちのプライドやポリシーより与えられた仕事を力を合わせて確実にこなすというプロ意識もうかがえます。もしかしたら10人全員が揃えばもっとすごい連携が可能で、さらなる実力を発揮していたのかもしれません。
◆幻影旅団とクラピカの戦いから見る陰獣が再評価されているワケ
陰獣との戦いのあとに幻影旅団メンバーが繰り広げた主な戦いはキメラ=アント戦、クロロとヒソカのタイマン勝負でした。いずれも強敵ながら大きなダメージもなく勝利しており、ウボォーギンやパクノダの命を奪ったクラピカについては緋の眼の発動時は寿命を削るというチートブーストが明らかになっており、実は早々に退場しただけで陰獣の実力はかなり高いのではないかとSNS上などで再評価されています。
流星街に巣くったザザン率いるキメラ=アントとの戦いで、傷を負った幻影旅団メンバーはフェイタンとシャルナークだけでした。シャルナークはかすり傷でしたし、フェイタンの相手は師団長を務めていたザザンです。
ザザンは自らの尻尾と美貌を犠牲にするという奥の手でパワーアップしており、ほかの師団長と比べても実力が高いと予想されます。また、フェイタンの能力は受けたダメージをパワーに変えて、相手に返すという性質です。
しかもフェイタンは本調子ではなく、念の系統も変化形となっています。もし強化系のウボォーギンであれば、ザザンがダメージを与えられていたかは分かりません。
また、天空闘技場の戦いでクロロにダメージを与え、シャルナークやコルトピの命を奪ったヒソカは元幻影旅団メンバーなので実力は拮抗しているはずです。そのため、クロロがヒソカにダメージを受けたり、シャルナークやコルトピが命を奪われたりしても幻影旅団が弱いことにはなりません。
また、ウボォーギンを倒したクラピカに関しては、当初絶対時間(エンペラータイム)の使用条件が明かされていませんでした。カキン帝国の王位継承戦で発動時1秒につき1時間寿命が縮むという厳しい制約があることが明らかになっています。
このリスキーで厳しい条件があったからこそ、念を覚えたてのクラピカがウボォーギンに勝てたわけです。つまり、ウボォーギンが敗れたのは、相手が命を賭けたチート級の能力を持っていたからといえるでしょう。
キメラ=アントが複数でかかっても、ウボォーギンにダメージを与えられそうなイメージはありません。4対1ではあったものの致死性の毒を使っていれば、ウボォーギンの命を奪えていた陰獣の実力はやはりかなり高いと推測されるでしょう。
──リアルの世界のスポーツではトーナメントで強敵同士が早く対戦すると、事実上の決勝戦などといわれることもあります。リアルとは違ってマンガでは対戦相手の巡り合わせが悪くて負けてしまうと、早々に死んでしまって以降は実力を見せる機会がないことも多いです。
しかし、その後対戦相手が強キャラ認定されることで、かませ犬という評価が覆されれば早い段階で退場したキャラクターも少しは報われるのかもしれません。
〈文/諫山就〉
《諫山就》
アニメ・漫画・医療・金融に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。かつてはゲームプランナーとして『影牢II -Dark illusion-』などの開発に携わり、エンパワーヘルスケア株式会社にて医療コラムの執筆・構成・ディレクション業務に従事。サッカー・映画・グルメ・お笑いなども得意ジャンルで、現在YouTubeでコントシナリオも執筆中。X(旧Twitter)⇒@z0hJH0VTJP82488
※サムネイル画像:Amazonより 『「HUNTER×HUNTER」第9巻(出版社:集英社)』





