※この記事にはTVアニメ・原作漫画『ジョジョの奇妙な冒険』のネタバレが含まれます。ご注意ください。
『ジョジョの奇妙な冒険』(以下、『ジョジョ』)のキャラクターは、初登場の一場面だけで読者の記憶に焼きつくことがあります。ブチャラティの“汗を舐める”行動、花京院の絵を使った攻撃、DIOがポルナレフを翻弄した階段の場面。能力が明かされたあとで振り返ると、「あれは何だったのか」と思えるほど、強烈な演出が残されています。
◆汗の味でウソを見抜く? ブチャラティの忘れがたい初登場
ブローノ・ブチャラティの初登場は、『ジョジョ』の中でもかなり異様な場面として知られています。ジョルノ・ジョバァーナと対面した彼は、いきなり相手の顔を舐め、「ウソをついている味」だと見抜いてみせました。
この時点のブチャラティは、正体の分からない危険人物として描かれていました。相手の汗の味でウソを判断するという行動は、読者に強い違和感と緊張感を与えるには十分です。のちに彼が仲間思いのリーダーとして印象を変えていくことを考えると、初登場時の不気味さはかなり際立っています。
ただし、この「汗でウソを見抜く」という要素は、物語が進んでもスタンド能力として説明されるわけではありません。ブチャラティのスタンド「スティッキィ・フィンガーズ」は、物体にジッパーを作る能力です。汗の味とはまったく関係がありません。
もし本当にウソを判別できるなら、ナランチャが「トーキング・ヘッド」によって真実と逆のことを言わされる場面などで活用できた可能性もあります。しかし、その後のブチャラティが誰かの顔を舐めて真偽を確かめることはありませんでした。
とはいえ、再び同じ行動をしていたら、彼の頼れるリーダー像とは少し合わなかったかもしれません。結果的に、初登場の奇妙さだけを強く残したからこそ、ブチャラティという人物の印象はより深く刻まれたともいえるでしょう。
◆花京院の絵は能力だったのか 承太郎を襲った謎の攻撃
花京院典明の初登場も、後から見返すとかなり不思議な場面です。彼は空条承太郎の絵を描き、その絵に線を入れることで、実際の承太郎を傷つけたように見える攻撃を仕掛けました。
この描写だけを見ると、花京院の能力は「描いた絵を通じて相手にダメージを与えるもの」のようにも感じられます。しかし、その後に明かされる彼のスタンド「ハイエロファントグリーン」は、遠隔操作や体内への潜入、エメラルドスプラッシュなどを得意とするスタンドです。絵を描く行為そのものは、能力の本質とは結びついていません。
実際、保健室で承太郎と戦う場面では、花京院はすでにキャンバスを使っていません。エジプトへ向かう旅の中でも、彼が戦闘前に絵を描くことはなく、DIOとの最終局面でもそのような描写はありませんでした。
それでも、この初登場シーンが持つインパクトは大きいものがあります。無言で絵を傷つけるだけで相手に異変が起こるという演出は、花京院が何者なのか分からない不気味さを一瞬で読者に伝えました。
能力設定としてはのちに使われなかったとしても、「危険なスタンド使いが現れた」と思わせる導入としては非常に効果的だったといえます。『ジョジョ』らしい、理屈より先に迫ってくる奇妙さが詰まった場面だったのではないでしょうか。
◆DIOはなぜ階段でポルナレフを戻したのか
DIOとポルナレフの階段の場面も、冷静に考えるほど奇妙です。ポルナレフが階段を上がったはずなのに、気づけば元の位置に戻されている。この不可解な現象は、DIOの能力をまだ知らない読者に圧倒的な恐怖を与えました。
のちにDIOのスタンド「ザ・ワールド」が時間停止能力を持つことが明かされると、この場面の意味も見えてきます。DIOは時間を止め、その間にポルナレフを下の段へ運び、自分は元の姿勢に戻っていたと考えられます。しかも、それを複数回繰り返していたことになります。
恐ろしい支配者としてのDIOを見せる場面である一方、やっていることだけを取り出すと、かなり手間のかかる演出でもあります。相手を即座に倒すのではなく、わざわざ混乱させ、恐怖を味わわせる。その回りくどさに、DIOらしい支配欲や遊び心がにじんでいます。
さらに、棺桶をめぐる場面でも、DIOは相手を驚かせるような登場の仕方をしています。圧倒的な力を持っているからこそ、正面から倒すだけではなく、相手の理解を超える現象として自分を見せつけたかったのかもしれません。
階段の一件は、DIOの能力の伏線であると同時に、彼の性格を表す場面でもあります。強さだけでなく、相手の心を折ることに快感を覚えるような恐ろしさが、短い場面に凝縮されていました。
──『ジョジョ』の初登場シーンには、細かい理屈よりも先に読者を引き込む力があります。あとから振り返ると「その設定はどこへ」と感じる場面もありますが、それすら作品の奇妙な魅力の一部です。ブチャラティ、花京院、DIOの登場シーンは、キャラクターを一瞬で記憶に残すための強烈な名刺代わりだったといえるでしょう。
〈文/相模玲司〉
《相模玲司》
大学卒業後、編集プロダクションに入社。メンズファッショ誌の編集に従事したのち、フリーランスの編集・ライターとして独立。アニメ・漫画関連のムック本の制作や、週刊誌のWeb版でアイドルの取材記事やサブカルチャー記事の作成に携わる。
※サムネイル画像:「ジョジョの奇妙な冒険」公式ポータルサイトより 『「フィグゼロ 1/6 ブローノ・ブチャラティ」(販売元:グッドスマイルカンパニー) (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社・ジョジョの奇妙な冒険GW製作委員会』


