『呪術廻戦』の禪院真希は、高い戦闘センスを持ちながらも呪力を持たない「天与呪縛」のフィジカルギフテッドとして、作中で長く苦戦を強いられてきました。しかし、彼女がのちに手にする圧倒的な覚醒、そして伏黒甚爾の域へと至る進化は、実は物語で描かれる前から、公式ファンブックの中で作者によって残酷な条件付きで予告されていたのです。
◆連載前に作者が明言していた 「残酷すぎる伏線回収」
その重要な伏線が記されていたのは、2021年3月に発売された『呪術廻戦 公式ファンブック』(出版社:集英社)です。
前日譚『呪術廻戦0』ではヒロイン的な活躍を見せ、本編でも頼れる先輩として人気の高い真希ですが、作中での戦績は決して芳しいものではありませんでした。特級呪霊などの格上を相手にすると、どうしても力及ばず敗北するパターンが続いていたのです。
しかし、そんな彼女の未来について、作者の芥見下々先生はファンブックの中で明確なヒントを残していました。「真希は甚爾の域まで成長する可能性がある」としつつ、「それには“何かを捨てる”ことが必要」という恐ろしい条件が付け加えられていたのです。
呪術の世界において、力を得るためには代償が必要であることは常識です。ファンたちは「視力か?」「女性としての幸せか?」とさまざまな予想を立てていましたが、その答えは予想をはるかに超える残酷な形で提示されました。
2021年10月に発売されたコミックス第17巻、第148話から始まるエピソード「葦を啣む」にて、真希はついに覚醒を果たします。
禪院家の精鋭たちを一方的に蹂躙するほどの力を手に入れ、完全に「甚爾の域」へと到達しました。しかし、その引き換えに彼女が失ったものこそ、双子の妹・真依だったのです。
呪術において双子は「同一の存在」と見なされます。真希がどれほど強さを求めても、半身である真依が呪力を持ち、強さを拒んでいる限り、真希は完成しない。真依を失うことによってその枷が外れ、完全に呪力ゼロの肉体が完成した瞬間でした。
真希が強くなりたいと願った最大の動機は「妹の真依が安心して暮らせる居場所を作るため」でした。しかし、その力を手に入れるための唯一の条件が、守りたかった妹を失うことだったとは。このあまりにも皮肉で完成された伏線回収に、多くの読者が言葉を失いました。
──真希の覚醒は突発的な展開ではなく「何かを失ってこそ力を得る」という呪術世界の法則を体現した必然でした。妹・真依を失うという最大の代償によって、真希はただ強くなっただけではなく、強さと引き換えに戦う理由そのものを背負い、修羅の道を歩む存在へと変わったのです。
〈文/凪富駿〉
《凪富駿》
アニメ・漫画に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。特にジャンプアニメに関する考察記事の執筆を得意とする。作品とファンをつなぐ架け橋となるような記事の作成がモットー。
※サムネイル画像:TVアニメ「呪術廻戦」公式サイトより 『TVアニメ「呪術廻戦」第8話 場面写真 (C)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会』


