<この記事には漫画『呪術廻戦≡(モジュロ)』のネタバレが登場します。ご注意ください。>
地球外生命体の来訪というトンデモ展開で始まり話題となっている『呪術廻戦≡(モジュロ)』。マルル・ヴァル・ヴル・イェルヴリをはじめ表向きには友好的なシムリア星人を名乗る宇宙人たちですが、その目的はどうも一枚岩ではなさそうです。彼らの真の目的とはいったいなんなのでしょうか?
◆明らかに胡散臭いシムリア星人の上層部たち
宇宙船で地球にやってきたシムリア星人たちは、現時点では難民申請をして地球側に保護を求めている状況です。そしてマルを査察役として送り、自分たちと似た能力を持つ日本の呪術師・乙骨兄妹を通し、地球人がシムリア星人と共生可能かどうかを見極めようとしています。つまり、シムリア星人の目的はあくまでも地球が自分たちの住める環境なのかを平和的に判断し、ゆくゆくは地球で暮らすことが狙いだと推察できます。
そう考えれば、シムリア星人は地球人に受け入れてもらう立場のため、地球の文化や風習を理解しようと動いていることにも筋が通ってきます。実際、天元のような風貌をした外交特使・ジャバロマも、友好関係を築こうとしているように見えます。しかし、表向きにはにこやかな表情を浮かべながら、実情はとても友好関係を結ぼうとしている感じではありません。
ジャバロマはいきなり流暢に日本語を操ってみせることで、シムリア星人の能力の高さや情報収集のアドバンテージを暗に仄めかしています。さらに、丸腰が意味をなさないシムリア星人の代表・ダブラを交渉の場に連れてきて、自分たちの圧倒的な力も見せつけているのです。事実、ダブラの実力は両面宿儺を彷彿とさせ、対面した宇佐美や美野に「地球を侵略しないでくれてありがとう」と思わせるほどの実力差で立場を明確にさせました。
そもそも5万人もの人数を収容し自給自足で星間飛行できる宇宙船を造れる時点で、シムリア星人の技術力は地球の水準を大きく上回っているハズ。仮に地球で暮らすために本気で友好関係を結ぼうとするなら、技術提供というカードで交渉したほうがスムーズではないでしょうか。それをせず武力をチラつかせている時点で、シムリア星人の上層部はかなり胡散臭いと思われます。
そして、第2話でマルが「地球人はシムリア星人と同じだ。悪い人間もいれば善い人間もいる」と語っていることから、シムリア星人にも悪い人間がいるのはほぼ間違いないでしょう。つまり、もしその悪い人間がシムリア星人の上層部にいるならば、当然裏の目的があると考えられるのです。
◆シムリア星人は「第二の五条悟や虎杖悠仁」に警戒している?
圧倒的な立場にいるシムリア星人ですが、なぜわざわざ難民申請などと下手に出ているのでしょうか? ダブラが本当に宿儺クラスだとしたら、国一つくらいなら簡単に落とせるでしょう。つまり、やろうと思えばダブラ一人でも地球を侵略できる可能性が高いのです。実際に第6話ではクロスも、いざ戦争となった場合の戦力としてダブラを信頼している様子がうかがえます。
ここで第1話を振り返ってみると、ダブラは「この星で最も大きな力を持つ国はアメリカではないのか?」とクロスに問いただしていました。仮に、地球の最大戦力がアメリカだとした場合、シムリア側から見たらアメリカを叩ければその時点で地球侵略は大きく前進するはずです。そして、単純な技術力ではシムリア星人に敵うはずもないので、外交の場でのジャバロマの出方も大きく変わっていたかもしれません。
しかし、地球にはシムリア星人と似た力を持つ「日本人」がいると判明したことで状況が変わります。シムリア星人の立場に立てば、地球は未知の星です。つまり、どんな環境でどんな呪術師がいるのかを知るまでは容易に動けなくなったと考えられるのではないでしょうか。
『呪術廻戦』本編の羂索の発言で判明していますが、単独で国家転覆できる実力者は特級呪術師クラスになります。つまり、仮に五条悟が今の日本にいたと考えたらどうでしょうか? さらに、乙骨憂太や虎杖悠仁がいたとしたら……。たとえダブラが宿儺クラスでも簡単には手を出せないでしょう。
つまり、シムリア星人が友好的に下手に立ち回っているのは、ダブラと対等に戦える特級呪術師クラスが地球にいるのか、そして何人いるのかといった情報を探っている可能性が高いと考えられます。まさに、第二の五条悟や虎杖悠仁といった実力者がいないかを警戒しているのです。
そうなると、マルが緊急時以外で術式の発動を制限されていることの辻褄もあってきます。なぜなら、敵の情報をできるだけ収集した上で、自分たちの情報は漏らさなければ有利になりますから……。
このことからもシムリア星人の上層部の真の目的は、「武力による地球侵略」である可能性が高いと考えられるのではないでしょうか。
◆マルの役割とクロスの立場
シムリア星人の上層部の目的が「侵略のための情報収集」だったとして、マルはその目的を知っているのかというと、恐らく知らされていないと思われます。なぜなら第1話で、マルは「地球人が共生可能か見極めるための使い」だと認識していたからです。
さらに第3話では、クロスとの「術式の共有」という致命的な秘密を乙骨真剣に明かしていました。そもそもクロスの「共生か対立か」という問いに対し、マルは「対立」だけはダメだと叫んでいます。言ってしまえば、マルの思想は「侵略」と真逆のものになります。
しかし、そんなマルをなぜシムリア星人側は特使に抜擢したのでしょうか。マルは呪術師としての実力は高そうですが、思想は上層部とは違いそうですし、何より特使にしてはポンコツな一面が多い……。恐らく、抜擢の理由はクロスの存在が大きいのでしょう。
第2話でマルはクロスに対して、乙骨兄妹が善人であることについて「もう分かっているはずだ」と語っています。乙骨兄妹と接点がないはずのクロスに対して、2人の人となりを知っている前提で話しているのは少し違和感があります。
仮に、2人は「術式」だけではなく「体験」や「感情」も共有しているのであれば、この違和感はなくなるのではないでしょうか。そうなると、マルの本意不本意に関わらず、シムリア星人の上層部はクロスを通して地球人の情報を入手できます。
つまり、マルの役割はただ単に現地の様子を見る目なのです。そして、見てきたものは図らずもクロス経由ですべてシムリア星人の上層部に筒抜けになっているのかもしれません。
──シムリア星人たちも一枚岩ではなさそうですが、第6話の真剣の発言から呪術総監部も一枚岩でないことが明かされています。今後、地球人と宇宙人の戦争をどう回避していくのか……。悪人と善人の水面下での攻防にも注目です。
〈文/fuku_yoshi〉
《fuku_yoshi》
出版社2社で10年勤め上げた元編集者。男性向けライフスタイル誌やムックを中心に、漫画編集者としても経験を積む。その後独立しフリーライターに。現在は、映画やアニメといったサブカルチャーを中心に記事を執筆する。YouTubeなどの動画投稿サイトで漫画やアニメを扱うチャンネルのシナリオ作成にも協力し、20本以上の再生回数100万回超えの動画作りに貢献。漫画考察の記事では、元編集者の視点を交えながら論理的な繋がりで考察するのが強み。最近では、趣味で小説にも挑戦中。X(旧Twitter)⇒@fukuyoshi5
※サムネイル画像:『「呪術廻戦≡」キービジュアル (C)芥見下々・岩崎優次/集英社』