劇場版『呪術廻戦「渋谷事変 特別編集版」×「死滅回游 先行上映」』の公開が11月7日から始まります。『呪術廻戦』に限らず、TVアニメシリーズが放送前に劇場で先行上映イベントを行ったり、これまでのTVシリーズのおさらいとして総集編を上映したりする例は多々ありましたが、今回はその複合型ともいえます。その力の入れ方は今後のビッグタイトルのセオリーとして続いていきそうな気配があります。
◆ただの先行上映でも総集編でもない! ここまでやる『呪術廻戦』
今回の劇場版『呪術廻戦「渋谷事変 特別編集版」×「死滅回游 先行上映」』はかなり力の入った企画であることが興行のスケールから感じられます。
この上映はTVアニメシリーズ第2期の後半にあたる渋谷事変を“特別編集版”としてまとめたものと、来年1月に放送開始を予定しているTVアニメ第3期「死滅回游 前編」の第1話と第2話にあたる内容を劇場公開するという企画です。それだけ聞くと、定番となってきたTVシリーズの総集編と放送前にTVアニメシリーズを先行上映する企画の複合版と思えます。しかし、今作は力の入れ方からして“本気”の度合いがうかがい知れる内容となっています。
まず根本的に本編は映画での上映に合わせた調整がされている点です。音楽は5.1chサラウンドに再ミックスして劇場公開に合わせたものとなっており、映画館ならではの音響効果をしっかり担保して楽しめるように製作されています。
その上でさらに興行を盛り上げるための施策も盛りだくさん。例えば、定番となってきた入場者プレゼントももちろん用意されているのですが、公開時点で既に第4弾までの配布が決定しています。第1弾には原作者の芥見下々先生の描き下ろしのA5サイズビジュアルボードが配布されます。
加えて今回の興行に合わせて劇場パンフレットの販売も予定されています。直近で公開された『劇場版総集編呪術廻戦 懐玉・玉折』ではパンフレットの製作はされなかったことや、そもそも総集編や先行上映企画ではパンフレットが作られない例は多いのでこちらも嬉しいサプライズとなっています。
そして、TOHOシネマズ渋谷ではシートジャックを行う“呪術廻戦THEATER”を2週間限定で行なうなどの企画も既に発表されていたりと、もはや完全新作さながらのスケールで上映される企画となっています。
これまで総集編や先行上映企画といえば、TVアニメを宣伝するための施策という“付随したもの”という印象が強かったのですが、もはやここまでくるとこの上映企画も本丸の一部というべきか、この上映こそお祭りの第一部であり、TVアニメの新シリーズ放送開始が第二部というような規模感で動いているように感じられます
◆目指すは『鬼滅の刃』 日本を超える規模でのヒットをねらえ!
実はこの体制でTVアニメシリーズを展開している例がほかにも一例あります。それが『鬼滅の刃』です。
『鬼滅の刃』もこれまでTVアニメの新シリーズの放送開始前には、直前のアニメシリーズのクライマックスと新シリーズの序盤を併映するという企画を展開してきました。総集編という形ではないにせよ、来場者特典やパンフレットなどの周辺アイテムの充実ぶりやイベント開催を積極的に行なっている姿勢はかなり似ています。
そして『鬼滅の刃』はこの上映を世界に向けて行なっていたことが珍しい例でした。ワールドツアーと題して、海外での舞台挨拶などを積極的に行なったりと映画館でTVアニメを観る体験を浸透させていった過去があり、それが現在の『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』の海外でもヒットにもつながっていることは想像できることです。
『呪術廻戦』シリーズはまさにここに習っているといえます。これからTVアニメシリーズを迎えるにあたって、どう盛り上げるかの前例として『鬼滅の刃』の施策の成功点をしっかりと押さえて行っています。
海外展開も同じで、実は劇場版『呪術廻戦「渋谷事変 特別編集版」×「死滅回游 先行上映」』は12月5日より、日本語オリジナル版と英語吹替版の2種体制で北米公開が決まっています。『呪術廻戦』という作品を第二の『鬼滅の刃』とするべく、北米興行と新シリーズの放送を展開していくことになります。
──『鬼滅の刃』、『呪術廻戦』というTVアニメのビッグタイトルが続けてTVアニメと劇場公開を展開していくとなると、今後のビッグタイトルアニメもここに習っていくことは想像に容易いです。
かつてはTVアニメと劇場版の公開は個別に展開していく印象がありましたが、今後はどんどん複合的に活用していく流れが加速していくのでしょう。TVアニメのヒットタイトルが世界規模で動いていくためのセオリーが、今まさに確立しようとしています。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteでは『アニメ映画ラブレターマガジン』を配信中。X(旧Twitter)⇒@nejimakikoibumi
※サムネイル画像:『劇場版 呪術廻戦「渋谷事変 特別編集版」×「死滅回游 先行上映」』特別解禁映像カット (C)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会




