『鬼滅の刃』は前身となる読み切り漫画があり、そこでは主人公は炭治郎ではなく別の人物でした。また、甘露寺蜜璃の日輪刀は特殊な形状をしていますが、実在の刀がモデルなのではといわれています。
◆『鬼滅の刃』の意外な初期設定
連載が終了してだいぶ時が経つ『鬼滅の刃』ですが、今年の5月にはTVアニメシリーズ『柱稽古編』が放送され、さらにその続編となる『劇場版「鬼滅の刃 無限城編』が三部作で制作されることも発表されました。
まだまだ世界中のファンを楽しませている『鬼滅の刃』ですが、連載が始まる前に変更された驚きの初期設定がありました。
●炭治郎は脇役だった!? 主役はシリアスすぎる設定……
『鬼滅の刃』の主人公といえば竈門炭治郎ですが、実は連載が始まる前、主人公は違う人物でした。
『鬼滅の刃』には、作者の吾峠呼世晴先生が描いた初の読み切り漫画『過狩り狩り』という前身となった作品があるのですが、この時点で吸血鬼や鬼狩りをする剣士、時代背景など『鬼滅の刃』の主な設定はできあがっているものの、主人公は炭治郎ではなく「ナガレ」という鬼狩りをする少年の剣士でした。
ナガレは全盲で隻腕と身体的なハンデを持ちながらも鬼を圧倒するほどの腕前ですが、炭治郎と比べるとかなり寡黙で暗い印象のキャラで、見た目は冨岡義勇に似た切れ長のクールな目をした少年でした。
その後、過狩り狩りの設定を踏襲する形で吾峠先生が執筆したのが『鬼殺の流』でした。過狩り狩りの肝だった「吸血鬼」「刀」「大正時代」などの設定をブラッシュアップした作品でしたが、主人公はここでも炭治郎ではなく「流(ながれ)」という少年でした。
流のキャラは、他人を気遣う様子を見せるなど前作に比べ多少人間味が増したとはいえ、全盲に隻腕は変わらず、両脚が義足とさらにシリアスな設定となっており、「世界観のシビアさと主人公の寡黙さが原因で連載会議で落選し、連載には至らなかった」と公式ファンブックで明かされています。
2020年2月5日、『livedoorNews』で配信された初代担当編集の片山氏へのインタビュー記事によると、『HUNTER×HUNTER』の主人公・ゴンなどから着想を得て「より明るく普通の人」を主役にした方が良いということになり、白羽の矢が立ったのが鬼殺の流れのサブキャラとして描く構想があった竈門炭治郎でした。
この時点で既に炭治郎の家族構成や炭売りで生計を立てていること、妹が鬼になり人間に戻すために鬼殺隊に入隊することなど、ほぼ設定は固まっていたそう。
炭治郎を主役に据えてネームを描き直したことで、ようやく私達の知る『鬼滅の刃』が生まれることになりました。
●鱗滝左近次は普通の老人の予定だった
鬼殺隊の元・水柱であり次代の鬼殺隊員候補を育てる「育手」の鱗滝左近次ですが、彼のトレードマークともいえるのが、作中一度も外さなかった「天狗の面」でしょう。
しかし、片山氏の『livedoorNews』のインタビューによれば、鱗滝左近次は初期設定では「ただのおじいさん」として描かれていたそう。それを見た片山氏が「インパクトがない」と吾峠先生に提言したところ、原稿ではお面を付けており、そのままキャラ設定として固定されたものだったそうです。
天狗の面にした理由は、単純に吾峠先生がほかにインパクトを出すための良いアイデアが思いつかなかったため「とりあえずお面をつけてみた」ということだったそうですが、結果的に鱗滝左近次を語る上で欠かせない要素になったといえるでしょう。そういった経緯から、鱗滝左近次の素顔を知っているのは、吾峠先生を除いては世界中で“片山氏だけ”のようです。
詳しく読む⇒主人公は「全盲」「隻腕」だった!? 『鬼滅の刃』4つの意外な初期設定
◆日輪刀のモデルは実在の刀?
『鬼滅の刃』で柱をはじめ鬼殺隊の隊士たちが、鬼を滅するために振るっていた日輪刀。普通の刀のようなものから特殊な形状のものまで、作中ではさまざまな日輪刀が登場しましたが、実は完全なフィクションではなく、モデルになったと思われる刀や鬼の云われを持った名刀が存在します。
●甘露寺蜜璃の「あの刀」は本当にある
鬼殺隊の柱が愛用していた日輪刀の中でも、特に異彩を放っていたのが、恋柱の甘露寺蜜璃が持っていた日輪刀ではないでしょうか。
しなるほどに薄く研ぎ澄まされたその形状は、刀身というよりは鞭に近く、現実的には再現不可能に思えますが、世界にはこれに酷似した形状の刀が複数存在しています。
まず1つ目は「腰帯剣」(ようたいけん)です。中国で用いられた、薄く非常によくしなる剣で、腰に帯のように巻いて携帯できることから、その名が付けられました。
360度曲げることができ、ベルト状の鞘に納めるのが一般的ですが、ベルトの中に仕込むものと、ベルトの内側に仕込むものがある、暗器(中国武術における身体に隠し持つ小さな武器の総称)の一種です。
2つ目は、インドに伝わる「ウルミ」という剣で、腰帯剣と同じく薄く研ぎ澄まされた刀身は自由自在にしなるほどの柔軟性と、肉を切り裂くのに充分な鋭さを持っています。
柔らかい鉄で造られており、インドの武術「カラリパヤット」や「ガッカ」で使われています。インドでも地方によって呼び名が違い、北部では「ウルミ」、南部では「チュッタバル」、英語では「フレキシブルソード」(Flexible Sword)と呼ばれています。ちなみに、「ウルミ」は「雷の音」を意味します。
甘露寺の日輪刀と同じく、コントロールが難しく使いこなすにはかなりの身体の柔軟性と筋力を求められるという点は、『鬼滅の刃』の設定と共通しており、原作者の吾峠先生はこれらの伝統的な剣から着想を得て、甘露寺の特異体質と、あの特徴的な形状の日輪刀を生んだと考えられます。
●「日輪刀」は実在の日本刀がヒントになっている?
日輪刀は実在する刀、「童子切安綱」(どうじきりやすつな)がヒントになっているのではないかと推測できます。
「童子切安綱」はもともと「血吸」(ちすい)という、まるで妖刀を思わせるような名前でしたが、平安時代に化け物退治で名を馳せた武将・源頼光が、この刀で日本の伝承でも有名な鬼、酒呑童子(しゅてんどうじ)の首を切ったという伝説から、この名前が付けられました。
また、作刀されたのは平安時代の中期~後期とされており、『鬼滅の刃』で鬼の祖である鬼舞辻無惨が鬼になった時期とほぼ一致します。作中で鬼が生まれた時期と、現実世界で鬼を切る刀が生まれた時期が同じであることも、リアリティを与えるための緻密な設定だと考えられます。
持ち主によって刀身の色が変わるという点は、もちろん『鬼滅の刃』の物語上の設定ですが、鬼の首を切ったという云われや、「童子切安綱」が太刀である点などを鑑みても、日輪刀のモデルになった可能性は高いといえます。
ちなみに、この「童子切安綱」は日本が世界に誇る名刀の中でも最高傑作と呼ばれる「天下五剣」(てんがごけん)の筆頭であり、国宝に指定されています。
源頼光のあと、足利家、豊臣家、徳川家と所有者が変わり、現在は東京国立博物館に所蔵され、年1回程度展示されています。
詳しく読む⇒甘露寺蜜璃の「あの刀」は実在する? 『鬼滅の刃』日輪刀のモデルは実在の刀?
〈文/アニギャラ☆REW編集部 @anigala01〉
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