<この記事にはTVアニメ、原作漫画『鬼滅の刃』のネタバレが含まれます。ご注意ください。>

 『鬼滅の刃』の上弦の鬼や鬼舞辻無惨は、長い歴史のなかで人間を苦しめてきた「病気」がモチーフではないかと、その姿や名前からファンの間で考察されています。

 なぜ、このような考察が登場したのか、上弦の鬼と鬼舞辻無惨のモチーフと考えられている病気の共通点を見ていきましょう。

◆上弦の鬼や鬼舞辻無惨は病気をモチーフにしている?

 上弦の壱・黒死牟(こくしぼう)は「黒死病」がモチーフではないかと考えられています。

 黒死病はペストの別名で、皮膚が黒くなって亡くなることからこの呼ばれ方をしており、強力な感染力で多くの命を奪い恐れられてきました。黒死病は名前が似ていることや、黒死牟の皮膚にも黒い模様があること、おたがいに強い力を持つことから、モチーフと考えられているようです。

 上弦の弐・童磨(どうま)は攻撃の特性から「結核」がモチーフだとささやかれています。童磨は自らの血を凍らせた冷気で攻撃し、彼の冷気を吸い込むと肺が壊死してしまいます。一方、結核は肺に巣食うことが多く、進行が進むと童磨の攻撃のように肺が壊死してしまうのです。この共通点から童磨のモチーフは結核と考えられています。

 『無限列車編』で炎柱の煉獄と戦った上弦の参・猗窩座(あかざ)のモチーフは、過去の呼び名から「麻疹」だとファンの間で考えられています。麻疹の歴史は古く平安時代から始まり、繰り返し流行が発生しています。

 そんな麻疹は江戸時代には「赤もがさ」と呼ばれ、20万人の死者を出したこともありました。猗窩座はこの「赤もがさ」と名前が酷似していることから、麻疹がモチーフだと考察されているようです。

 刀鍛冶の里を襲った上弦の肆・半天狗(はんてんぐ)のモチーフは、「ハンセン病」の説が有力視されています。ハンセン病はらい菌という細菌に感染することで発症し、治療法がない時代には体の一部が変形する症例もありました。

 半天狗にも額にコブがあり体の一部が変形していることから、ハンセン病がモチーフだと考えられています。なお、ハンセン病は容姿が変貌するため、過去には患者が差別されるつらい歴史がありました。しかし、現在では治療薬の開発が進み完治するうえ、もともと感染力が弱く感染して発病するのは稀なケースです。

 壺から姿を現す上弦の伍・玉壺(ぎょっこ)は、壺型の潰瘍を形成する「アメーバ赤痢」がモチーフだと考えられています。アメーバ赤痢は「赤痢アメーバ」という原虫が病原体で、特有の壺型の潰瘍を形成します。この壺という共通点から、玉壺のモチーフはアメーバ赤痢と考えられているようです。また、玉壺が人型でないのはアメーバ赤痢が原虫だからではないかと考察するファンもいます。

 遊郭を根城にしていた上弦の陸・妓夫太郎(ぎゅうたろう)と堕姫(だき)のモチーフは、作中の発言から「梅毒」の可能性が高いです。作中で妓夫太郎は堕姫の生前の名前の「梅」は死んだ母親の病名からつけられたことや、自分たちが遊郭の最下層で生まれたことを語っていました。

 この妓夫太郎の話から、おそらく彼らの母親は性的接触で感染する梅毒で亡くなったのでしょう。妓夫太郎の体のあざも梅毒の症状に見られるあざに似ていることから、彼らのモチーフは梅毒だと考えられます。

 最後にすべての鬼の頂点に立つ鬼舞辻無惨のモチーフは、増殖や転移することから、がん(悪性新生物)ではないかとファンの間でささやかれています。

 遺伝子は傷を受けると変異し、細胞を増殖させ、細胞のかたまりである腫瘍を発生させます。腫瘍は良性と悪性に分けられ、体のあちこちに転移する悪性腫瘍をがんと呼ぶのです。無惨もがんのように鬼を作り出して増殖させたり、肉体を四散させてあちこちに逃げていたりしました。こうした共通点から、無惨のモチーフはがんだと考えられているようです。

◆『鬼滅の刃』は「病気vs.人間」の戦いだった?

 このようにさまざまな共通点があることから、上弦の鬼のモチーフは人間を苦しめてきた病気だと考察されています。しかし、なぜ、病気をモチーフにしているのでしょうか。

 その理由として、この作品が鬼という存在を通して、病気と人間の戦いを描いているからだと考えられます。

 今でこそ鬼は妖怪の一種ととらえられていますが、本来の鬼は死者の魂や朝廷に逆らう異界のもの、怪物などさまざまなものをさします。

 古くには鬼が病気を引き起こすとも考えられ、病気を引き起こす鬼を病鬼や疫鬼と呼んでいました。現在でも2月に行われる節分には豆を巻くことでこうした鬼を払う意味があるようです。この鬼が病気を引き起こすという考えから、この作品でも鬼は病気に置き換えられるでしょう。

 病気の原因を鬼ととらえる考え方や、鬼から人へ戻す薬を開発することから、鬼と鬼殺隊の戦いは病気と薬で対抗する人間の戦いととらえられます。『鬼滅の刃』には、病気の根絶を願う作者の優しい思いが隠れているのかもしれません。

〈文/林星来 @seira_hayashi

《林星来》
フリーライターとして活動中。子供の頃から培ってきたアニメ知識を活かして、話題のアニメを中心に執筆。アニメ以外のジャンルでは、葬儀・遺品整理・金融・恋愛などの記事もさまざまなメディアで執筆しています。

 

※煉獄杏寿郎の「煉」は「火」+「東」が正しい表記となります。
※鬼舞辻の「辻」は「一点しんにょう」が正式表記となります。


※サムネイル画像:Amazonより

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