<この記事にはTVアニメ、原作漫画『鬼滅の刃』のネタバレが含まれます。ご注意ください。>
漫画『鬼滅の刃』は話の間の余白ページに「大正コソコソ噂話」やイラストなどで、本編で語られなかった設定やエピソードが描かれていることがあります。TVアニメではそれらをアニメオリジナル描写として取り入れることがありますが、すべては描いていません。
6月30日に最終回を迎えたテレビアニメ『「鬼滅の刃」柱稽古編』でも、語られなかったエピソードがいくつかありました──。
◆沙代のその後は?
岩柱の悲鳴嶼行冥が殺人の容疑をかけられる原因となった沙代について、TVアニメではその後のことが描かれていません。しかし、原作では14歳になった今の沙代について明かされています。
沙代は鬼殺隊に入る前の悲鳴嶼が育てていた身寄りのない子どもの一人です。鬼が悲鳴嶼や子どもたちがいた寺を襲撃したときには、彼が身を挺して夜明けまで沙代を守り抜きました。
しかし、大人が駆けつけたときには鬼の亡骸は朝日で消え、残っていたのは子どもの亡骸のみ。悲鳴嶼いわく、幼い沙代は混乱していたため、「あの人は化け物 みんなあの人が みんな殺した」と悲鳴嶼が犯人と思われるような発言し、彼は殺人犯と勘違いされて投獄されてしまいました。その後、悲鳴嶼はお館様に助けられて処刑を免れますが、これ以降、彼は子どもに対して不信感を抱くようになります。
ここまではTVアニメでも語られましたが、このときの沙代の状態や14歳になった今の沙代が何を思っているのか、原作16巻の余白スペースでつづられていました。
悲鳴嶼は沙代が混乱して自身を犯人扱いしたと思っていましたが、沙代が言った「あの人」とは侵入した鬼のことをさしており、彼女は悲鳴嶼のことを犯人だと思っていません。
しかし、沙代は事件のショックでまともに話せなくなり、悲鳴嶼の容疑を晴らせませんでした。沙代は14歳になった今でもそのことを気に病み、今でも悲鳴嶼へ謝りたいと思っています。
なお、悲鳴嶼や子どもたちがいた寺へ鬼を招き入れたのは、劇場版三部作でも登場する重要人物です。原作では誰が招き入れたのかはっきり描かれず、その正体が17巻の余白スペースで明らかになりました。一方、TVアニメでは招き入れた犯人が誰か分かるようにはっきり描かれています。
◆愈史郎は珠世の覚悟を知っていた?
TVアニメの「柱稽古編」の終盤で珠世が死を覚悟して無惨へ「人間に戻す薬」を吸収させたとき、いつも珠世のそばにいるはずの愈史郎がいませんでした。無惨を相手に愈史郎が珠世をひとりにするとは思えませんが、なぜ、愈史郎はそばにいなかったのでしょうか。
愈史郎が珠世のそばにいなかった理由は、原作16巻の余白スペースで明かされています。余白スペースにはどこか悲しげな表情をした愈史郎の横顔と、「愈史郎は今回珠世の近くにいません。愛する人の頼みは断れないものです。」と記されていました。
このことから愈史郎は珠世に頼まれて別のところにいたと分かりますが、彼は珠世の決死の覚悟まで聞いていたのでしょうか。
おそらく、愈史郎は珠世から直接死ぬつもりだとは聞いてはいないものの、ある程度は察していたと考えられます。珠世は無惨に近づいたとき、愈史郎の目くらましの血鬼術を使用していたことから、事前に愈史郎へ作戦は伝えていたはずです。愈史郎も作戦を聞いた時点で珠世が無惨に近づいて薬を吸収させたら、無事に戻れないことは分かっていたでしょう。
しかし、誰よりも近くで珠世を見てきた愈史郎だからこそ、珠世がどんな思いで無惨を倒そうとしていたのか知っていたはずです。愛する珠世の思いを知っているからこそ彼女を止められず、余白スペースのような切なげな表情をしていたのでしょう。
◆あまね様が結婚を決めたお館様の一言とは?
「柱稽古編」では産屋敷一族が一族から無惨を出したことで短命の呪いを受け、寿命を伸ばすために代々神職の一族から嫁をもらっていることが語られました。
このことからお館様の妻であるあまね様も神職の一族であることがうかがえますが、どのような経緯でお館様の元へ嫁いだのでしょうか。
お館様とあまね様の結婚については、原作16巻の余白スペースで簡単なあまね様のプロフィールとともにつづられています。お館様とあまね様の縁談が持ち上がった際、彼が「貴女が嫌なら私からこの話は断ります」と、彼女の立場を思いやる言葉をかけました。あまね様はこの優しい言葉で結婚を決め、お館様が13歳、あまね様が17歳のときにふたりは結婚します。
本編が大正時代なのでふたりが結婚をしたのはおよそ明治時代末期と推測すると、この頃は女性の立場が弱く、あまね様から縁談を断るのは難しかったハズ。しかも、産屋敷一族は神職の一族から嫁をもらわなければならないうえ、財を築いてきた一族なので、余計にあまね様からは断れなかったでしょう。
そのような状況だったため、あまね様を気遣うお館様の言葉は彼女にとって意外なもので、より心を動かしたのではないでしょうか。お館様が男尊女卑という時代の価値観にとらわれない人格者だったからこそ、ふたりは結ばれたのでしょう。
──このように原作の話の合間には本編では語られていない設定やエピソードがあります。テレビアニメに取り入れられているものもあれば、そうでないものもあるので、テレビアニメだけでなく原作も見てみると、意外な発見があるかもしれません。
〈文/林星来 @seira_hayashi〉
《林星来》
フリーライターとして活動中。子供の頃から培ってきたアニメ知識を活かして、話題のアニメを中心に執筆。アニメ以外のジャンルでは、葬儀・遺品整理・金融・恋愛などの記事もさまざまなメディアで執筆しています。
※サムネイル画像:テレビアニメ「鬼滅の刃」柱稽古編 より
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