連載が終了して4年半が経とうとしている『鬼滅の刃』ですが、20245月にはTVアニメシリーズ『柱稽古編』が放送され、さらにその続編となる『劇場版「鬼滅の刃 無限城編』が三部作で制作されることも発表されました。

 まだまだ世界中のファンを楽しませている『鬼滅の刃』ですが、連載が始まる前に変更された驚きの初期設定がありました。

◆炭治郎は脇役だった!? 主役はシリアスすぎる設定……

『鬼滅の刃』の主人公といえば竈門炭治郎ですが、実は連載が始まる前、主人公は違う人物でした。

『鬼滅の刃』には、作者の吾峠呼世晴先生が描いた初の読み切り漫画『過狩り狩り』という前身となった作品があるのですが、この時点で吸血鬼や鬼狩りをする剣士、時代背景など『鬼滅の刃』の主な設定はできあがっているものの、主人公は炭治郎ではなく「ナガレ」という鬼狩りをする少年の剣士でした。

 ナガレは全盲で隻腕と身体的なハンデを持ちながらも鬼を圧倒するほどの腕前ですが、炭治郎と比べるとかなり寡黙で暗い印象のキャラで、見た目は冨岡義勇に似た切れ長のクールな目をした少年でした。

 その後、過狩り狩りの設定を踏襲する形で吾峠先生が執筆したのが『鬼殺の流』でした。過狩り狩りの肝だった「吸血鬼」「刀」「大正時代」などの設定をブラッシュアップした作品でしたが、主人公はここでも炭治郎ではなく「流(ながれ)」という少年でした。

 流のキャラは、他人を気遣う様子を見せるなど前作に比べ多少人間味が増したとはいえ、全盲に隻腕は変わらず、両脚が義足とさらにシリアスな設定となっており、「世界観のシビアさと主人公の寡黙さが原因で連載会議で落選し、連載には至らなかった」と公式ファンブックで明かされています。

 202025日、『livedoorNews』で配信されたによると、『HUNTER×HUNTER』の主人公・ゴンなどから着想を得て「より明るく普通の人」を主役にした方が良いということになり、白羽の矢が立ったのが鬼殺の流れのサブキャラとして描く構想があった竈門炭治郎でした。

 この時点で既に炭治郎の家族構成や炭売りで生計を立てていること、妹が鬼になり人間に戻すために鬼殺隊に入隊することなど、ほぼ設定は固まっていたそう。

 炭治郎を主役に据えてネームを描き直したことで、ようやく私達の知る『鬼滅の刃』が生まれることになりました。

◆アノ印象的なシーンはカットされるところだった!?

 炭治郎といえば、鬼に対しても同情するほど愛情深いキャラですが、斬った鬼の最期に立ち合い、消えていく鬼の手をそっと握って「神様どうかこの人が今度生まれてくるときは鬼になんてなりませんように」と、哀れむシーンが印象的です。

 しかし、この重要と思える演出も吾峠先生は書き上げたあとで「少年誌らしくないから削除しようかな」と、削ろうとしていたそう。初代担当編集・片山氏がこの演出に感動し、「ここだけは絶対に入れるべきだ。こんな主人公は見たことがない」と熱弁したことで、アノ印象的なシーンが誕生したと『livedoorNews』のインタビューで明かしています。

 片山氏によると、吾峠先生は自身の信念を譲らずに構想通りに描くこともあれば、意見を柔軟に取り入れて原稿を修正することもあったそうで、もしかするとこの手を握るシーンも片山氏の熱弁がなければ生まれなかったかもしれません。

◆冨岡義勇のコスチュームも変更されていた?

 鬼殺隊の隊員は伊之助など一部のキャラを除いて、基本的には詰め襟に羽織というオリジナリティーのあるコスチュームが印象的ですが、実はこのコスチュームも初期設定では違ったものでした。

 物語の最初に登場するのが、炭治郎が鬼殺隊に入隊するきっかけを与えた冨岡義勇ですが、初期設定では彼のコスチュームは着物でした。

livedoorNews』のインタビューによれば片山氏は連載ネームを見て「もうちょっと大正感が欲しいですね」と伝えたところ、次に吾峠先生が描いたのが詰め襟に羽織というコスチュームだったそうで、そこにオリジナリティーを感じた片山氏により『鬼滅の刃』を代表する印象的なコスチュームが完成しました。

 明治時代を背景にした『るろうに剣心』では、主人公の緋村剣心は着物、斎藤一は詰め襟で描かれていますが、どちらの要素も持った鬼殺隊の隊服は、幕末から大正の新旧文化の混在を感じさせる、まさに『鬼滅の刃』ならではの要素といえるでしょう。

◆鱗滝左近次は普通の老人の予定だった

 鬼殺隊の元・水柱であり次代の鬼殺隊員候補を育てる「育手」の鱗滝左近次ですが、彼のトレードマークともいえるのが、作中一度も外さなかった「天狗の面」でしょう。

 しかし、片山氏の『livedoorNews』のインタビューによれば、鱗滝左近次は初期設定では「ただのおじいさん」として描かれていたそう。それを見た片山氏が「インパクトがない」と吾峠先生に提言したところ、原稿ではお面を付けており、そのままキャラ設定として固定されたものだったそうです。

 天狗の面にした理由は、単純に吾峠先生がほかにインパクトを出すための良いアイデアが思いつかなかったため「とりあえずお面をつけてみた」ということだったそうですが、結果的に鱗滝左近次を語る上で欠かせない要素になったといえるでしょう。そういった経緯から、鱗滝左近次の素顔を知っているのは、吾峠先生を除いては世界中で“片山氏だけ”のようです。

 

 ──連載漫画の世界において、初期設定が変更になるのは珍しいことではありません。一大ブームを巻き起こした『鬼滅の刃』も例に漏れず、隊士のコスチューム一つにしても原作者と編集担当者をはじめ、作品に関わるさまざまな作り手によって徹底的に練られ、多くの変更の末に連載されました。

 原作のストーリーや作画が素晴らしかったのはもちろんですが、『鬼滅の刃』は取捨選択の判断がまさに神がかっていた作品なのかもしれません。

〈文/lite4s〉

 

※サムネイル画像:Amazonより

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