『鬼滅の刃』で柱をはじめ鬼殺隊の隊士たちが、鬼を滅するために振るっていた日輪刀。普通の刀のようなものから特殊な形状のものまで、作中ではさまざまな日輪刀が登場しましたが、実は完全なフィクションではなく、モデルになったと思われる刀や鬼の云われを持った名刀が存在します。

◆甘露寺蜜璃の「あの刀」は本当にある

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 鬼殺隊の柱が愛用していた日輪刀の中でも、特に異彩を放っていたのが、恋柱の甘露寺蜜璃が持っていた日輪刀ではないでしょうか。

 しなるほどに薄く研ぎ澄まされたその形状は、刀身というよりは鞭に近く、現実的には再現不可能に思えますが、世界にはこれに酷似した形状の刀が複数存在しています。

 まず1つ目は「腰帯剣」(ようたいけん)です。中国で用いられた、薄く非常によくしなる剣で、腰に帯のように巻いて携帯できることから、その名が付けられました。 

 360度曲げることができ、ベルト状の鞘に納めるのが一般的ですが、ベルトの中に仕込むものと、ベルトの内側に仕込むものがある、暗器(中国武術における身体に隠し持つ小さな武器の総称)の一種です。

 2つ目は、インドに伝わる「ウルミ」という剣で、腰帯剣と同じく薄く研ぎ澄まされた刀身は自由自在にしなるほどの柔軟性と、肉を切り裂くのに充分な鋭さを持っています。

 柔らかい鉄で造られており、インドの武術「カラリパヤット」や「ガッカ」で使われています。インドでも地方によって呼び名が違い、北部では「ウルミ」、南部では「チュッタバル」、英語では「フレキシブルソード」(Flexible Sword)と呼ばれています。ちなみに、「ウルミ」は「雷の音」を意味します。

 甘露寺の日輪刀と同じく、コントロールが難しく使いこなすにはかなりの身体の柔軟性と筋力を求められるという点は、『鬼滅の刃』の設定と共通しており、原作者の吾峠先生はこれらの伝統的な剣から着想を得て、甘露寺の特異体質と、あの特徴的な形状の日輪刀を生んだと考えられます。

◆「日輪刀」は実在の日本刀がヒントになっている?

 日輪刀は実在する刀、「童子切安綱」(どうじきりやすつな)がヒントになっているのではないかと推測できます。

「童子切安綱」はもともと「血吸」(ちすい)という、まるで妖刀を思わせるような名前でしたが、平安時代に化け物退治で名を馳せた武将・源頼光が、この刀で日本の伝承でも有名な鬼、酒呑童子(しゅてんどうじ)の首を切ったという伝説から、この名前が付けられました。

 また、作刀されたのは平安時代の中期~後期とされており、『鬼滅の刃』で鬼の祖である鬼舞辻無惨が鬼になった時期とほぼ一致します。作中で鬼が生まれた時期と、現実世界で鬼を切る刀が生まれた時期が同じであることも、リアリティを与えるための緻密な設定だと考えられます。

 持ち主によって刀身の色が変わるという点は、もちろん『鬼滅の刃』の物語上の設定ですが、鬼の首を切ったという云われや、「童子切安綱」が太刀である点などを鑑みても、日輪刀のモデルになった可能性は高いといえます。

 ちなみに、この「童子切安綱」は日本が世界に誇る名刀の中でも最高傑作と呼ばれる「天下五剣」(てんがごけん)の筆頭であり、国宝に指定されています。

 源頼光のあと、足利家、豊臣家、徳川家と所有者が変わり、現在は東京国立博物館に所蔵され、年1回程度展示されています。

◆鬼の伝承にまつわる刀も

「天下五剣」とは、「童子切安綱」(どうじぎりやすつな)、「三日月宗近」(みかづきむねちか)、「鬼丸国綱」(おにまるくにつな)、「大典太光世」(おおでんたみつよ)、「数珠丸恒次」(じゅずまるつねつぐ)をさし、「童子切安綱」以外にも鬼にまつわる刀がいくつか存在します。

 現在、御物(皇室の所有物)である「鬼丸国綱」は、その名のとおり、鬼にまつわる云われがあります。

 鎌倉幕府5代執権・北条時頼は重病を患い、夢にあらわれる鬼に苦しめられていました。

 しかし、ある日、時頼の所有していた日本刀がひとりでに倒れ、小鉢の脚を斬り落とします。斬り落とされた脚には、夢の中の鬼とそっくりの鬼が象られていたのです。

 それ以降、時頼の病は快復し、夢にも鬼は出なくなったとのこと。不思議な話ですが、『鬼滅の刃』でさまざまな形で人間を襲っていた鬼に通ずるものがあります。

 その他では、「大典太光世」が霊力の宿る日本刀として知られています。

 数ある言い伝えの中でも有名なのが、安土・桃山時代の武将・前田利家の娘・豪姫が、重い病に苦しんでいたときの話です。前田利家は、寝こんでいる豪姫の枕元に「大典太光世」を置いて、治癒祈願をしました。

 すると、豪姫の病はたちまち治ったといわれています。鬼を斬る日輪刀の力とは直接関係ありませんが、日本刀の神秘性を感じさせるエピソードです。

 

 ──「天下五剣」が日輪刀のモデルに本当になったのかは定かではないですが、5振の中に鬼の伝承にまつわる刀や、鬼舞辻無惨が鬼になった平安時代に作られた刀があることから、日輪刀のヒントにつながったと考えられなくもありません。

『鬼滅の刃』は原作者の緻密な取材があったからこそ、感動するエピソードだけでなく、日輪刀や呼吸のような魅力的な要素が生み出され、人気を集めたのかもしれません。

〈文/lite4s 編集/乙矢礼司〉

《lite4s》

Webライター。『まいじつ』でエンタメ記事、『Selectra(セレクトラ)』にてサスペンス映画、韓国映画などの紹介記事の執筆経験を経て、現在は1980~90年代の少年漫画黄金期のタイトルを中心に、名作からニッチ作品まで深く考察するライター業に専念。 ホラー、サスペンス映画鑑賞が趣味であり、感動ものよりバッドエンド作品を好む。ブロガー、個人投資家としても活動中。

 

※鬼舞辻の「辻」は「一点しんにょう」が正式表記となります。


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