『鬼滅の刃』には、連載やアニメで回収できなかった謎や伏線が数多く登場しました。次の3つは、原作で明かされなかった『鬼滅の刃』に残された謎です。
◆禰豆子が太陽を克服した理由
鬼舞辻無惨が鬼となってから1000年もの間、克服できなかったのが太陽でした。それなのになぜ竈門禰豆子だけが太陽を克服できたのでしょうか……。
結論からいうと、禰豆子が太陽を克服できた理由は、竈門家が「日の呼吸」の正式な継承者の家系だったからだと考えられます。
「日の呼吸」は、無惨をあと一歩のところまで追い詰めた継国縁壱が編み出した「全集中の呼吸」です。無惨の命を脅かす呼吸法だからこそ、その使い手や関係者は、無惨と黒死牟の手によって炭治郎の時代に至るまで徹底的に排除されてきました。
しかし、実は「日の呼吸」は「ヒノカミ神楽」と名を変え、竈門家にひそかに継承されていたのです。
ここで注目したいのが『鬼滅の刃』のテーマの一つでもある「意思の継承」──。継国縁壱の意思を継承したのは、子孫の時透無一郎ではなく、「ヒノカミ神楽」を継承した炭治郎の竈門家だった点です。
他人なのに意思を継承できる理由については、コミックス第103話で小鉄くんが語った通り、「記憶の遺伝」が存在するからです。つまり、作中で重要なのは「血筋」ではなく「意思(魂)」を継承することなのです。
そしてもう一つ注目したいのが、竈門家の体質です。根拠となるのが、コミックス第77話での炭治郎のセリフ。堕姫との戦闘中、炭治郎は「水の呼吸」が自らの体に適しておらず、「ヒノカミ神楽」のほうが体に合っていると語っています。つまり、炭治郎は「日の呼吸」に適した体質を持っていることを示唆しています。
この体質は、妹である禰豆子にも当てはまるのではないでしょうか? コミックス第127話で、禰豆子の血を研究していた珠世は、鬼化してからの短期間で「血の成分が何度も何度も変化している」と語っています。仮にこの変化が禰豆子の体質と鬼の血がせめぎ合った結果だとしたら、合点がいきます。
そして何より重要なのが、「日の呼吸」の「日」が「太陽」を意味していること。
要するに、竈門家は継国縁壱の「日の意思」を記憶の遺伝で継承し、「ヒノカミ神楽」を代々絶やさず受け継いだことで、「日の呼吸」に適した体質を手に入れた家系だと考えられるのです。
だからこそ禰豆子は、鬼になっても太陽を克服できたのではないでしょうか。
◆音柱・宇髄天元の弟のその後
宇髄天元は忍の一族の出身で、その家族構成と厳しい生い立ちが原作でも語られています。コミックス第87話では9人姉弟だったこと、15歳になるまでに7人が亡くなり、唯一生き残った2歳下の弟がいることが明かされました。
この弟が、父親の影響を色濃く受けた冷酷な男に育ち、天元は「あんな人間になりたくない」と、忍の里を抜ける決意をします。こうした背景もあり、当時ファンの間ではこの弟がいずれ“鬼”として登場するのでは、と注目されていましたが、結局作中で弟の登場はなく、忍の里についても、弟についてもその後どうなったのかは描かれていません。
しかし、連載終了後に発売された『鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録・弐』(出版社:集英社)の中で、弟のその後を予測できる新事実が判明します。
一族を繁栄させることしか考えていなかった天元の父親は、天元たちにお互いの素性を隠したまま命の奪い合いを命令していたのです。
知らなかったとはいえ、実の姉弟たちの命を奪ってしまった天元は苦悩します。一方の弟は、なんの感傷もなく、相手が姉弟と分かってからも自らが生き残るために命を奪い続けました。最後は、天元と弟の1対1になりますが、天元はそれ以上兄弟で争うことはせず、3人の妻を連れて忍の里を抜け出します。
これらの情報を踏まえると、肉親の命を奪うことすらためらわなかった天元の弟は既に冷酷な忍として完成してしまったことがうかがえます。人の心を失わず鬼殺隊に入った天元とは対照的に、弟は父親が目指した忍の一族の繁栄のため、父親のような無慈悲な頭領になった可能性が高いでしょう。
◆無惨を救おうとした医者の真意は?
生まれながらに病弱だった無惨を鬼に変えた謎多き医者──。この医者が行った治療により無惨は強靭な肉体を手に入れますが、代わりに日の光の下を歩けず、人間の血肉を食べなければならない副作用を抱えることになります。
これほど危険な副作用を持つ薬を開発したうえ、試しもせずに患者に投与していたことから、ファンの間では何か良からぬことを考えていた諸悪の根源、あるいは真の黒幕とも呼ばれていました。この医者の本当の目的はいったい何だったのでしょうか。
実は、この疑惑をさらに深める形になったのが、去年に放送されたTVアニメ『「鬼滅の刃」柱稽古編』での描写です。
アニメで登場した医者は、無惨から「やぶ医者」と呼ばれながら、ほかにすがる者がいなかったと紹介されています。そして登場した医者の顔は、柔和な笑顔を浮かべつつも、どこか影のある、何か企んでいるようにも見える不穏な表情となっていました。
一方、コミックス第127話のナレーションでは、この医者のことを「善良な医者」だと言い切っています。さらに、一貫して無惨の命を救おうとしていた医者の様子が描かれているのです。
作中ではこの医者について多くを語られなかっただけに、さまざまな想像が膨らんでしまいます。しかし、その後この医者について深く掘り下げるエピソードがなかったことからも、やはり諸悪の根源は無惨であり、医者は本当に無惨を助けようとしただけなのかもしれません。
──これまでのTVアニメシリーズでは、原作で描かれていないオリジナルのエピソードが追加されたほか、ファンブックに記載された情報をもとにした展開も盛り込まれていました。もしかしたら、今年の7月に公開される『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』第一章では、原作で描かれなかった謎が明かされるかもしれません。
〈文/fuku_yoshi〉
サムネイル画像:Amazonより
※禰豆子の「禰」は「ネ+爾」が正しい表記となります。
※鬼舞辻の「辻」は「一点しんにょう」が正しい表記となります。