<この記事にはTVアニメ・原作漫画『鬼滅の刃』のネタバレが登場します。ご注意ください。>

 『鬼滅の刃』に登場する鬼たちのほとんどは話せますが、鬼になった禰豆子は、十二鬼月にも負けない強さを手にしたにも関わらず、ほとんど会話ができませんでした。なぜ、禰豆子はほかの鬼たちと違い、話せなかったのでしょうか?

◆禰豆子が話せなかった理由

 禰豆子が話せなかった理由について、第127話で珠世が自身の推測を語っています。珠世は、「禰豆子は自我を取り戻すよりも重要で優先すべきことがあるのではないか」と仮説を立てているのです。では、禰豆子が自我を取り戻すよりも優先したこととは、いったいなんだったのでしょうか? 作中の描写から考えられることが二つあります。

 まず一つは、禰豆子が「人間を食べなくても生きられるように身体を作り変えること」です。始祖である鬼舞辻無惨をはじめ、すべての鬼たちは人間を食べなければ生きていけません。無惨の呪いをはずすことに成功した珠世ですら、人間の血を飲まなければならないのです。

 しかし、禰豆子は違います。彼女だけは作中を通して、唯一人間を食べなくても生きていける鬼でした。珠世が血を摂取するだけで生きられるようになったのは、自らの肉体をいじったからだと第15話で明かしています。

 禰豆子も珠世と同じく、自力で無惨の呪いをはずした存在です。人間を食べる代わりに「睡眠」を活動エネルギーに変換できるように身体を作り変えたとすれば、それこそが優先すべきことの一つだったと考えられます。

 そしてもう一つが、「日光の下でも生存できるように身体を作り変えること」、つまり、「太陽を克服すること」です。第127話で、珠世が憶測を語っていた回想シーンのすぐあとに、禰豆子が太陽を克服しています。

 物語のつながりから考えても、禰豆子が優先していたことは「太陽を克服すること」だと捉えるのが自然でしょう。これを裏付けるように、禰豆子は太陽を克服した直後から、カタコトではありますが言葉を発するようになります。

 つまり、禰豆子が話せなかった理由は、「人間を食べない」そして「太陽を克服する」という二つの目標を達成するために自らの身体を作り変えることに全力を注いでいたからです。珠世は、短期間で禰豆子の血の成分が幾度となく変化していたと明かしています。まさにこの事実こそ、禰豆子が肉体を作り変えるのにリソースを割いていた証明になるのではないでしょうか。

◆禰豆子を進化させたカギは「家族との絆」

 ここで注目したいのは、なぜ禰豆子は自我を取り戻すよりもこの二つの目標を優先したのか、という点です。そのヒントになるのが、彼女の人間時代のありようです。

 鬼に変貌した人間は、人間時代の記憶を失うケースが多い……。それは禰豆子も例外ではありません。しかし人間時代に深く執着していた想いや感情は、鬼になってもその精神に影響を与えることが分かっています。

 たとえば、下弦の伍の累や、上弦の参の猗窩座……。累は人間時代に聞いた家族の美談から、鬼になったあとも「家族とのつながり」に執着していました。猗窩座も人間時代に誰よりも強くなって恋雪を一生守るという約束をしています。鬼になったあとは、ただ強くなるという意志が残りましたが、最後まで人間の女性を襲わなかったことが分かっています。

 実は『鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録・弐』(出版社:集英社)で、無惨は「強い執着や渇望がない者は鬼として大きな進化を見込めない」と考えていたことが明かされています。つまり裏を返せば、強い執着や想いがあれば鬼として大きく進化できるのです。

 禰豆子が誰よりも強く執着していたのは「家族との絆」でした。禰豆子は竈門家の長女で、炭売りで家を空ける炭治郎の代わりに、母親を手伝い、弟妹たちの面倒を率先して見ていました。家を守るため、誰よりも家族の絆を大事にしていたことが描かれています。その絆はもちろん炭治郎とも固く結ばれていて、第40話での「俺と禰豆子の絆は誰にも引き裂けない」というセリフが印象に残っている人も多いのではないでしょうか。

 そしてここで重要なのが、鱗滝の存在です。第11話で鱗滝が禰豆子に「人間は皆お前の家族だ」「人間を守れ 鬼は敵だ」と暗示をかけていたことが明かされます。禰豆子が執着していたのはまさに「家族との絆」です。もし、「人間は家族」という暗示が、彼女の深層心理と強く結びついていたとしたらどうでしょう。

 禰豆子は自我を取り戻すよりも、「家族」を食べないようにすること、「家族」とともに生活するため太陽を克服することを優先した、という考察につながってくるのではないでしょうか。

◆最初のひと言目が「おはよう」だった理由

 第126話で鬼になった禰豆子がはじめて発したひと言は「おはよう」でした。TVアニメ『「鬼滅の刃」刀鍛冶の里編』の第11話が放送されたあと、SNSなどでは「お……お……」のあとには「お兄ちゃん」と続くのでは、と予想した声が多かったようです。

 確かに「家族の絆」を大切にする禰豆子なら、炭治郎に対して「お兄ちゃん」という言葉が最初のひと言になっても不思議ではありません。しかし、ここで禰豆子が「おはよう」と言ったのには二つの意味があると考えられます。

 まず一つは「太陽を克服した」からです。鬼にとって絶対に迎えられないはずの夜明けを禰豆子が迎えたことで、文字通り「朝」の挨拶をしたと捉えることができるでしょう。

 そしてもう一つは、禰豆子の「新たな自我」が目覚めた証明であることです。第128話で炭治郎は、禰豆子が「人間に戻りかけてるのか、鬼として進化しているのか」と疑惑を抱いていました。

 作中では明確に言及されませんでしたが、禰豆子の様子をみる限り、このときは自我を取り戻しているというよりも、鬼として進化したのだと考えられます。なぜなら、人間時代の執着や想いが鬼を進化させるからです。何より、禰豆子が完全に「自我」を取り戻せたのは、珠世たちが「人間に戻る薬」を完成させたあとでした。

 このことから吾峠呼世晴先生は、禰豆子にまず「おはよう」と言わせたのではないでしょうか。

 

 ──『鬼滅の刃』の中でも主要キャラクターである竈門禰豆子ですが、意外と謎が多く残された登場人物でもあります。今夏には劇場版も公開されますので、今から禰豆子に再注目して原作を読み返してみるのも一興でしょう。

〈文/fuku_yoshi〉

 

サムネイル画像:Amazonより 『「鬼滅の刃」第11巻(出版社:集英社)』


※禰豆子の「禰」は「ネ+爾」が正しい表記となります。
※鬼舞辻の「辻」は「一点しんにょう」が正しい表記となります。

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