<この記事には原作・TVアニメ『鬼滅の刃』のネタバレが一部含まれます。ご注意ください。>
蟲柱・胡蝶しのぶが表紙を飾ったジャンプコミックス6巻の表紙カバーの綴じ込みには、紫の芍薬の花が描かれています。実は紫の芍薬の花言葉には「憤怒」という怖い意味があります。いつも柔和な笑顔を浮かべているしのぶを「憤怒」させ、憎悪を植えつけた3人の鬼たちとはいったい……。
◆すべての鬼殺隊士の怒りが向かう元凶「鬼舞辻無惨」
まず1人目の鬼は、言わずと知れたすべての元凶・鬼舞辻無惨です。第139話で産屋敷邸が無惨の襲撃にあった際、産屋敷の身を案じ、しのぶも真っ先に駆けつけています。このとき、柱たちは初めて無惨と対峙するのですが、しのぶを含めた柱全員が無惨を前に激しい怒りをぶつけていました。
さらに、しのぶが無惨に対して激しい憎悪を燃やしていると分かる決定的なできごとがあります。それは、しのぶが鬼である珠世と手を組み、無惨を倒すための薬を共同で研究したことです。しのぶは、第50話で心に秘めていた怒りを炭治郎によって見破られています。
このときしのぶは「自分の中で鬼に対する怒りが蓄積され続けている」と語っています。さらに「体の一番深いところにどうしようもない嫌悪感がある」とも告白。実際にしのぶは、鬼と仲良くするという夢を諦め、その夢を炭治郎に託しています。
このことからも分かる通り、しのぶは鬼に対して拒絶反応にすら近い感覚を抱いていました。つまり、たとえそれが敬愛するお館様の願いであったとしても、しのぶにとって鬼である珠世と協力することは何よりも辛かったはずです。
ジャンプコミックス19巻のおまけページでも珠世との共同研究の際、しのぶは珠世に対しての強烈な怒りと憎悪を隠しきれず、愈史郎とひと悶着起こしかけたことが明かされています。
そんな鬼への拒絶感を抑えてまでしのぶが珠世と協力した事実は、無惨に向ける憎しみが何よりも勝っていた証拠だと捉えられるでしょう。
◆鬼殺隊入隊のきっかけとなった「両親の仇の鬼」
2人目の鬼は、両親の仇です。第143話でも少し描写されていたしのぶの過去……。まだ幼かった胡蝶カナエとしのぶは、目の前で鬼に両親の命を奪われてしまいます。しかし胡蝶姉妹は、間一髪のところで岩柱・悲鳴嶼行冥に命を救われるのです。
胡蝶姉妹は両親の仇を討つこと、そして少しでも自分たちのような悲劇に見舞われる人間を減らしたいと決意し、鬼殺隊への入隊を志します。実は、その後の詳細が小説版第2巻『鬼滅の刃 片羽の蝶』(出版社:集英社)で書かれています。
生き残ったカナエとしのぶは鬼殺隊に入隊するため、命を救ってくれた悲鳴嶼の元を訪れます。このとき、悲鳴嶼は、入隊を懇願する2人に決定的な違いを感じ取っていました。それは、姉のカナエは深い悲しみと悲痛な決意をたたえていたのに対し、妹のしのぶには燃えるような怒りと憎悪が既にあったことです。
小説の中で、幼いころのしのぶは両親が大好きで甘えん坊だったことがカナエによって明かされています。つまり、両親を奪われた時点で、しのぶはカナエよりもずっと鬼に対して「怒り」を抱いていたのです。このことからも両親を奪った鬼は、しのぶに「憎悪」を植えつけた最初の鬼だったことが分かります。
◆残されたたった一つの宝物を奪った上弦の弐「童磨」
しのぶは悲鳴嶼に鬼殺隊入隊の決意の証として、帰る家も残ったものも自ら捨ててきたと語っています。しかし、当時のしのぶはすべてを失ったわけではありませんでした。「私には姉さんだけ」と言っている通り、しのぶにはともに鬼狩りを志すカナエがいました。
しかし、しのぶはそんな最愛のカナエをも鬼によって奪われてしまいます。その鬼こそがしのぶに憎悪を植えつけた3人目の鬼、上弦の弐「童磨」です。第50話で「最愛の姉が惨殺された時から怒りが蓄積され続けている」と語っていることから、しのぶは童磨に対して並々ならぬ憎悪を燃やしていることが分かります。
両親の命、カナエの命、どちらの命の重さを計るわけではありませんが、こと「憎しみ」の強さという点においては、童磨に対しての方が強かったと捉えられるでしょう。
第131話、第162話でそれぞれ栗花落カナヲに語っている通り、しのぶは対童磨戦のみを想定した対策を練り続けていたことがそれを裏付けています。
『鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録』(出版社:集英社)では、しのぶの性格は「短気」だと紹介されています。そんなしのぶが、怒りをこらえいつも笑顔でいたのも、嫌悪感を抱く鬼と仲良くする夢を抱いたのも、すべてはカナエの影響を受けたからでした。
しのぶにとってカナエは、両親の命を奪われて以来、残されていたたった一つの宝物だったのです。もしかしたら童磨がしのぶに植えつけた「憎悪」は、直接的な意味でいうと鬼舞辻無惨へのそれよりも大きかったのかもしれません。
──いよいよ公開まで1ヵ月を切った『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』第一章。決戦の火蓋を切る第一章では、蟲柱・胡蝶しのぶの活躍が存分に描かれることでしょう。アニメオリジナル展開が多い『鬼滅の刃』シリーズ。原作では描かれなかった胡蝶しのぶの物語が劇場アニメで補完されるのか、注目してみるのも面白いかもしれません。
〈文/fuku_yoshi〉
※サムネイル画像:Amazonより 『Blu-ray「鬼滅の刃」第10巻(販売元 : アニプレックス)』
※鬼舞辻の「辻」は「一点しんにょう」が正しい表記となります。