<この記事にはアニメ・原作漫画『鬼滅の刃』のネタバレが登場します。ご注意ください。>
7月18日から『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』の公開が始まりました。そんな『鬼滅の刃』ですが、連載が始まる前には、いくつもの試行錯誤と設定の変更が重ねられていました。炭治郎がまだ脇役だったころの企画案や、冨岡義勇の衣装が現在とは異なる初期デザインなど、意外な一面が垣間見えます。
また、なぜ禰豆子だけが太陽を克服できたのか、無惨を鬼に変えた医者の真の目的とは何だったのか──。謎として残された点も少なくありません。
◆『鬼滅の刃』の意外な初期設定
劇場版の公開でにぎわいを見せている『鬼滅の刃』ですが、連載が始まる前に変更された驚きの初期設定がありました。
●炭治郎は脇役だった!? 主役はシリアスすぎる設定……
『鬼滅の刃』の主人公といえば竈門炭治郎ですが、実は連載が始まる前、主人公は違う人物でした。
『鬼滅の刃』には、作者の吾峠呼世晴先生が描いた初の読み切り漫画『過狩り狩り』という前身となった作品があるのですが、この時点で吸血鬼や鬼狩りをする剣士、時代背景など『鬼滅の刃』の主な設定はできあがっているものの、主人公は炭治郎ではなく「ナガレ」という鬼狩りをする少年の剣士でした。
ナガレは全盲で隻腕と身体的なハンデを持ちながらも鬼を圧倒するほどの腕前ですが、炭治郎と比べるとかなり寡黙で暗い印象のキャラで、見た目は冨岡義勇に似た切れ長のクールな目をした少年でした。
その後、『過狩り狩り』の設定を踏襲する形で吾峠先生が執筆したのが『鬼殺の流』でした。『過狩り狩り』の肝だった「吸血鬼」「刀」「大正時代」などの設定をブラッシュアップした作品でしたが、主人公はここでも炭治郎ではなく「流(ながれ)」という少年でした。
流のキャラは、他人を気遣う様子を見せるなど前作に比べ多少人間味が増したとはいえ、全盲に隻腕は変わらず、両脚が義足とさらにシリアスな設定となっており、「世界観のシビアさと主人公の寡黙さが原因で連載会議で落選し、連載には至らなかった」と公式ファンブックで明かされています。
2020年2月5日、『livedoorNews』で配信された初代担当編集の片山氏へのインタビュー記事によるとによると、『HUNTER×HUNTER』の主人公・ゴンなどから着想を得て「より明るく普通の人」を主役にした方が良いということになり、白羽の矢が立ったのが鬼殺の流れのサブキャラとして描く構想があった竈門炭治郎でした。
この時点で既に炭治郎の家族構成や炭売りで生計を立てていること、妹が鬼になり人間に戻すために鬼殺隊に入隊することなど、ほぼ設定は固まっていたそう。
炭治郎を主役に据えてネームを描き直したことで、ようやく私達の知る『鬼滅の刃』が生まれることになりました。
●冨岡義勇のコスチュームも変更されていた?
鬼殺隊の隊士は伊之助など一部のキャラを除いて、基本的には詰め襟に羽織というオリジナリティーのあるコスチュームが印象的ですが、実はこのコスチュームも初期設定では違ったものでした。
物語の最初に登場するのが、炭治郎が鬼殺隊に入隊するきっかけを与えた冨岡義勇ですが、初期設定では彼のコスチュームは着物でした。
『livedoorNews』のインタビューによれば片山氏は連載ネームを見て「もうちょっと大正感が欲しいですね」と伝えたところ、次に吾峠先生が描いたのが詰め襟に羽織というコスチュームだったそうで、そこにオリジナリティーを感じた片山氏により『鬼滅の刃』を代表する印象的なコスチュームが完成しました。
明治時代を背景にした『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』では、主人公の緋村剣心は着物、斎藤一は詰め襟で描かれていますが、どちらの要素も持った鬼殺隊の隊服は、幕末から大正の新旧文化の混在を感じさせる、まさに『鬼滅の刃』ならではの要素といえるでしょう。
詳しく読む⇒主人公は「全盲」「隻腕」だった!? 『鬼滅の刃』4つの意外な初期設定
◆『鬼滅の刃』に残された謎【考察】
『鬼滅の刃』には、連載やアニメで回収できなかった謎や伏線が数多く登場しました。次の2つは、原作で明かされなかった『鬼滅の刃』に残された謎です。
●禰豆子が太陽を克服した理由
鬼舞辻無惨が鬼となってから1000年もの間、克服できなかったのが太陽でした。それなのになぜ竈門禰豆子だけが太陽を克服できたのでしょうか……。
結論からいうと、禰豆子が太陽を克服できた理由は、竈門家が「日の呼吸」の正式な継承者の家系だったからだと考えられます。
「日の呼吸」は、無惨をあと一歩のところまで追い詰めた継国縁壱が編み出した「全集中の呼吸」です。無惨の命を脅かす呼吸法だからこそ、その使い手や関係者は、無惨と黒死牟の手によって炭治郎の時代に至るまで徹底的に排除されてきました。
しかし、実は「日の呼吸」は「ヒノカミ神楽」と名を変え、竈門家にひそかに継承されていたのです。
ここで注目したいのが『鬼滅の刃』のテーマの一つでもある「意思の継承」──。継国縁壱の意思を継承したのは、子孫の時透無一郎ではなく、「ヒノカミ神楽」を継承した炭治郎の竈門家だった点です。
他人なのに意思を継承できる理由については、コミックス第103話で小鉄くんが語った通り、「記憶の遺伝」が存在するからです。つまり、作中で重要なのは「血筋」ではなく「意思(魂)」を継承することなのです。
そしてもう一つ注目したいのが、竈門家の体質です。根拠となるのが、コミックス第77話での炭治郎のセリフ。堕姫との戦闘中、炭治郎は「水の呼吸」が自らの体に適しておらず、「ヒノカミ神楽」のほうが体に合っていると語っています。つまり、炭治郎は「日の呼吸」に適した体質を持っていることを示唆しています。
この体質は、妹である禰豆子にも当てはまるのではないでしょうか? コミックス第127話で、禰豆子の血を研究していた珠世は、鬼化してからの短期間で「血の成分が何度も何度も変化している」と語っています。仮にこの変化が禰豆子の体質と鬼の血がせめぎ合った結果だとしたら、合点がいきます。
そして何より重要なのが、「日の呼吸」の「日」が「太陽」を意味していること。
要するに、竈門家は継国縁壱の「日の意思」を記憶の遺伝で継承し、「ヒノカミ神楽」を代々絶やさず受け継いだことで、「日の呼吸」に適した体質を手に入れた家系だと考えられるのです。
だからこそ禰豆子は、鬼になっても太陽を克服できたのではないでしょうか。
●無惨を救おうとした医者の真意は?
生まれながらに病弱だった無惨を鬼に変えた謎多き医者──。この医者が行った治療により無惨は強靭な肉体を手に入れますが、代わりに日の光の下を歩けず、人間の血肉を食べなければならない副作用を抱えることになります。
これほど危険な副作用を持つ薬を開発したうえ、試しもせずに患者に投与していたことから、ファンの間では何か良からぬことを考えていた諸悪の根源、あるいは真の黒幕とも呼ばれていました。この医者の本当の目的はいったい何だったのでしょうか。
実は、この疑惑をさらに深める形になったのが、去年に放送されたTVアニメ『「鬼滅の刃」柱稽古編』での描写です。
アニメで登場した医者は、無惨から「やぶ医者」と呼ばれながら、ほかにすがる者がいなかったと紹介されています。そして登場した医者の顔は、柔和な笑顔を浮かべつつも、どこか影のある、何か企んでいるようにも見える不穏な表情となっていました。
一方、コミックス第127話のナレーションでは、この医者のことを「善良な医者」だと言い切っています。さらに、一貫して無惨の命を救おうとしていた医者の様子が描かれているのです。
作中ではこの医者について多くを語られなかっただけに、さまざまな想像が膨らんでしまいます。しかし、その後この医者について深く掘り下げるエピソードがなかったことからも、やはり諸悪の根源は無惨であり、医者は本当に無惨を助けようとしただけなのかもしれません。
詳しく読む⇒『鬼滅の刃』に残された3つの謎 「なぜ禰豆子は太陽を克服できたのか?」「無惨を鬼にした医者の真意は?」【考察】
〈文/アニギャラ☆REW編集部〉
※サムネイル画像:Amazonより 『鬼滅の刃 第1巻(出版社:集英社)』
※禰豆子の「禰」は「ネ+爾」が正しい表記となります。
※鬼舞辻の「辻」は「一点しんにょう」が正しい表記となります。