既に『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』以上の興行のペースを記録している『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』ですが、その成績の勢いも納得なほどのクオリティーになっているのは、十分な“投資”を製作に対して行なっているからともいえます。
人件費だったり、設備投資だったり──。長い製作期間の間にいろんな資金が必要になってくるわけですが、そんな中でも『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』がはっきりとお金をかけていると明言されている部分があります。それが“レンダリング”という作業。
実はどんなアニメーションでも発生するわけでもないこの“レンダリング”という作業は、比較的新しい作品で発生する作業です。果たしてどんな作業なんでしょうか。
◆実は3DCGで作られていた無限城 “レンダリング”とは何なのか?
実は映画を作る上で“レンダリング”という作業は費用も時間も膨大にかかる厄介な作業です。
具体的に“レンダリング”という作業を端的にいってしまうのであればバーチャルな3Dで作られたシーンを2Dのイメージ画像に変換するという作業です。『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』では舞台となる無限城は3DCGで製作されているので、このレンダリングという作業が大半のシーンに必要となっていきます。
3Dアニメーションの製作において、画面上の物体の種類が多くなれば多くなるほど、パソコンの負荷が大きくなり作業が鈍重になるようなイメージは想像できるでしょう。そのため、製作の工程は簡易な低解像度の状態で進めて、最終段階で高解像度の状態にして完成させます。
映画の場合は大きなスクリーンで上映するのでなおさら、高解像度の状態に仕上げなければいけないわけですが、その分画面を構成する要素も膨大になるので、2Dのイメージとして確定させるのにもパソコンの処理する時間も負荷も同じように膨大なものとなっていきます。
そのため、できるだけ早くレンダリングの作業を処理し終えるようにするには、マシンのスペックをあげたり、そもそものマシンの数を増やしたり、元々の3DCGのデータを軽量化するなどの工夫が必要になってきます。
『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』の劇場販売パンフレットでは、映画の製作工程に関する“プロダクションノート”のページが収められています。
ここではどう映画を作っていったのかが、各工程それぞれで紹介されているのですが、その一番に紹介されているのが、この“レンダリング”についてです。
無限城を製作するためにサーバーを増強したり、3Dモデルを改良したりなどその工程の苦労が書かれています。作業としては一番最後に当たる工程でありながら、この話題が一番目のページに配されているのは、レンダリングにどれだけ注力したのかの表れかもしれません。
◆レンダリングには時間がかかりすぎる? あのディズニー、ピクサーすら苦労する工程
このレンダリングという作業は『鬼滅の刃』だけでなく、もちろんディズニーやピクサーであったりといった海外の3DCGアニメーションの製作においても課題となっている工程です。
『トイ・ストーリー』や『リメンバー・ミー』といったヒット作を生み出してきたピクサーもいわゆる“レンダーファーム”と呼ばれる、何万台ものコンピューターを24時間稼働する体制を用意しています。これにより想像を絶するような精巧な映像を、できるだけ時間的なコストを抑えながら完成させています。
3DCGアニメーション作品を世界市場で売りに出している企業ともなると、それだけの規模の製作体制が必要なのかと驚かされるわけですが、まさに『鬼滅の刃』が今回挑戦しようとした部分の一つがこの分野なわけです。
市場としては今でこそ世界的な作品になってきている『鬼滅の刃』ではあるものの、製作を担うufotableはディズニーやピクサーと比べたら企業規模はまったく違います。
そんな中で、クオリティーとしては見劣りはしないどころか、手描きアニメーションと合わさった上で違和感のないように仕上げる独自のバランス感などは、『鬼滅の刃』の見事な部分であり、ディズニーやピクサーなどとは違った唯一無二のスタイルともいえます。ぜひufotableにはもっと具体的なマシンの増強規模であったり、製作費をどれほどのスケールで行ったのかなどにも追って言及していってほしいところです。
──『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』は海外では日本から遅れて公開が続々と行われていく予定ですが、作品内容だけでなく技術面でもこの“無限城”が海外でどう評価されていくのかは注目です。3DCGアニメーションという視点でも、今回の『鬼滅の刃』が“すごい”映画になっていることは間違いないでしょう。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteでは『アニメ映画ラブレターマガジン』を配信中。X(旧Twitter)⇒@nejimakikoibumi
※サムネイル画像:『「劇場版「鬼滅の刃」無限城編 」第一章 猗窩座再来 第2弾キービジュアル (C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable』
『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 』第一章 猗窩座再来 公式サイト
(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable