<この記事にはTVアニメ・原作漫画『鬼滅の刃』ならびに『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』のネタバレが登場します。ご注意ください。>
公開から約2週間──。落ち着くどころかますますの盛り上がりを見せる『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』。そんな今作で大いに活躍するのが胡蝶しのぶ、我妻善逸、そして冨岡義勇の3人。彼らには本編でも未回収となっている謎が残されています。
◆胡蝶しのぶ──なぜ藤の花の毒を摂取しても無事だったのか?
作中で鬼が嫌う花として描かれる「藤の花」……、その花の毒はもちろん鬼に絶大な効果があります。
第162話で、胡蝶しのぶは対童磨戦の奥の手として藤の花の毒を最大限に利用していたことを明かしています。それは、1年以上の時間をかけて藤の花の毒を服毒し身体全体に高濃度の毒が回っている状態を作りだすこと。自分自身が毒薬となり、万が一童磨に喰われたときの保険としていました。
しかし、藤の花の毒は鬼だけでなく人間を含む多くの生物にとっても有毒です。だから、しのぶはどのようにして藤の花の毒を無効化していたのか、疑問が残ります。
結論からいうと、しのぶは決して無事ではなく、かなり毒の影響を受けていたと考えられるのです。
第49話で、聴覚に優れた我妻善逸がしのぶの独特な「音」を聞き取っていました。その際、「今まで聞いたことない感じだ。規則性がなくてちょっと怖い」と語っています。もしかすると、この時点で既にしのぶは不整脈などの兆候が出ていた可能性が考えられ、健康状態がよくなかったと推察できるのです。
さらに、同じ柱である冨岡義勇もしのぶの体調が優れていないことに気づいていた節があります。
『鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録・弐』(出版社:集英社)の各柱たちがお互いの印象を語る「相関言行録」の中で、義勇だけはしのぶの印象に付け加えて「顔色が悪いことがある」と語っているのです。
また直接体調に関しての言及ではありませんが、第203話で炭治郎はしのぶの匂いと藤の花の匂いを連想していました。このことから、しのぶの肉体は炭治郎と出会ったころには既に藤の花の毒に蝕まれていたのでしょう。それでも体調の悪さを表に出さなかったのは、ひとえに童磨への「怒り」と「執念」によるものだったことは容易に想像がつきます。
◆我妻善逸──なぜ親が描かれなかったのか?
我妻善逸は最終選別で鬼殺隊に合格した竈門炭治郎の同期の一人であることから、作中でも多くの過去回想が描かれていました。しかし、なぜか同期の中で善逸だけは最後まで親にまつわる過去が明かされませんでした。
善逸の両親に関しては、第34話で両親がいないこと、第163話で捨て子だったことが明かされ、親に対して嫌悪感を抱いていることが判明しています。
一方、ほかのメンバーを見てみると、炭治郎と不死川玄弥、そして嘴平伊之助の親たちは、過去に鬼によって命を奪われていることが分かっています。つまり、少しメタ的に解釈すると三人にとって親の存在は鬼を狩る動機づけとしての役割を担っているのです。
また、栗花落カナヲの場合は両親から虐待を受けていた背景が描かれています。さらに最終的に人買いに売られるというかなりの毒親として描かれていました。しかし、そのおかげでカナヲはのちに最愛の姉となる胡蝶姉妹と出会えたのです。つまり、メタ的にいうと恩人との出会いのきっかけを担っています。
ここで再び善逸に注目すると、鬼を狩る動機づけも、恩人との出会いも、どちらの立ち位置も師匠である桑島慈悟郎が担っているのです。
慈悟郎は獪岳によって自ら命を落としていますし、善逸にとっては恩人でもあります。つまり吾峠呼世晴先生は、あえて善逸の実の親を登場させる理由がなかったのだと推察できます。
◆冨岡義勇──なぜ第1話で禰豆子を見逃したのか?
冨岡義勇が竈門禰豆子を見逃していなかったら、物語は始まる前に終わっていました。そんな義勇が禰豆子を見逃したことには、いくつかの理由が考えられます。
まず最初に考えられるのが、義勇が「水の呼吸」の使い手だったことです。水の呼吸は、作中でも異質な「全集中の呼吸」で、その際たる例が「干天の慈雨」……。斬るべき鬼に苦痛を与えない慈悲の斬撃を繰り出す技で、ほかの流派にはない特別な型となっています。このことから、「水の呼吸」の使い手は鬼殺隊の中では珍しく鬼に対しても柔軟な考えを持っていたと捉えられるのです。
そして最も大きな理由は、義勇から見た竈門兄妹の姿がかつての自分と重なったことです。義勇は過去に姉・蔦子に命を守られ、最終選別では錆兎に命を救われています。第1話で禰豆子は、極限の飢餓状態にもかかわらず炭治郎を守っていました。この禰豆子の姿が、蔦子や錆兎に重なって見えたとも考えられます。
さらに、義勇にとって炭治郎の行動も心を動かす要因になったと捉えられるのです。炭治郎は勝てないと分かっていながらも、禰豆子を守るためだけを考えて義勇に立ち向かいました。それは守られ続けた、かつての義勇にはできなかったことなのです。
つまり、義勇は守る側の人の姿と守られる側の気持ちを両方知っていたからこそ、竈門兄妹の姿を見て「こいつらは何か違うかもしれない」という結論に至ったのではないでしょうか。
柱は、鬼殺隊の中でもとりわけ鬼を強く憎む者たちが多く、その責務からも鬼に温情をかける人間はほとんどいません。仮に、不死川実弥や伊黒小芭内がこの場にいたら問答無用で禰豆子は倒されていたでしょう。また、初対面で炭治郎に好意的だった煉獄杏寿郎や胡蝶しのぶでも、その使命感から見逃すと言う決断には至らなかったと推測できます。つまり、義勇でなければ禰豆子を助けられなかったと考えられるのです。
──原作では多くを語られなかった謎の数々……。しかし、改めて真実を推察すると、作中で描かれた名場面の数々やキャラクターたちの見え方も変わってくるかもしれません。
〈文/fuku_yoshi〉
サムネイル画像:Amazonより 『「鬼滅の刃」第6巻(出版社:集英社)』
※禰豆子の「禰」は「ネ+爾」が正しい表記となります。
※煉獄杏寿郎の「煉」は「火」+「東」が正しい表記となります。