ジャンプコミックス史上、最速で単行本発行部数1億部を突破した『鬼滅の刃』。そんな『鬼滅の刃』を生み出した作者・吾峠呼世晴先生は、実は『週刊少年ジャンプ』の数々の作品に影響を受けたそうです。
◆『ジャンプ』への応募のきっかけとなったギャグバトル作品──『銀魂』
吾峠先生が大ファンだったことで知られる作品の一つが空知英秋先生の『銀魂』です。吾峠先生は『銀魂』が連載を終了した『週刊少年ジャンプ』2018年42号の巻末コメントで、「ジャンプに漫画を送るきっかけは銀魂でした。」と感謝の気持ちを寄せていました。
また『鬼滅の刃』の立ち上げ担当編集者の片山達彦氏も2020年2月に『livedoor News』で配信された「『鬼滅の刃』大ブレイクの陰にあった、絶え間ない努力――初代担当編集が明かす誕生秘話」というインタビュー記事の中で、「先生は『銀魂』が大好きなんですよ」と明かしています。インタビューでは、吾峠先生がもともとギャグ好きだったことや、漫画にもギャグを入れたがっていたという意外な一面が語られています。
確かに作中では、どこか天然な炭治郎や野生児の伊之助たちのボケに対し、鋭いツッコミを入れる善逸とのやり取りなどが随所に見られました。シリアスな場面においても、ふと和ませるようなギャグが笑いを誘う……。そういった緩急として物語の中にギャグを盛り込む見せ方は、もしかしたら『銀魂』の影響を受けていたのかもしれません。
また、ギャグに全振りした公式スピンオフ『キメツ学園!』は、『銀魂』の公式スピンオフ『3年Z組銀八先生』と同じく学園モノとしている点も共通している点といえるでしょう。
ちなみに『銀魂』は、ほか作品のパロディや時事ネタを取りこんだギャグが特徴として知られています。その作風から、2021年に公開された映画『銀魂 THE FINAL』で、なぜか入場者特典に空知先生が描き下ろした炭治郎や煉獄杏寿郎、胡蝶しのぶなどのイラストカードが配布されていました。
これはもちろん2020年公開の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の大ヒットに便乗した『銀魂』ならではの試みでした。吾峠先生が、奇しくもファンだった空知先生とのコラボを果たしている点も興味深いです。
◆『鬼滅の刃』に最も影響を与えた作品──『ジョジョの奇妙な冒険』
また『livedoor News』のインタビューで片山氏は、吾峠先生が荒木飛呂彦先生の『ジョジョの奇妙な冒険』(以下、『ジョジョ』)のファンであることも明かしています。『ジョジョ』については、2018年12月に出版された『このマンガがすごい!2019』(出版社:宝島社)のインタビューでも、吾峠先生本人が影響を受けた作品ベスト3の一つとして名前を紹介しています。
そして同書の中で吾峠先生は「少年マンガとはこういうことだというのを叩きつけられた作品だ」と語っており、究極の少年漫画だと絶賛しているのです。
いわれてみれば、根幹となる設定の部分でも両作品に共通点が見られます。たとえば、「全集中の呼吸」と「波紋法」……。鬼殺隊の要でもある「全集中の呼吸」は、増強させた心肺で酸素を取り込み、血管や筋肉を強化させ瞬間的に身体能力を向上させる特殊な呼吸術でした。
一方の「波紋法」も特殊な呼吸法で、身体に流れる血の流れをコントロールし、血液に波紋を起こし太陽光の波と同じ波長の生命エネルギーを生み出す秘法となっています。「太陽」の力を使って戦う点も共通しており、まさに吾峠先生がある程度参考にした設定だと捉えられるのです。
さらに敵役も似ています。『鬼滅の刃』では鬼舞辻無惨をはじめとする不死身の鬼が登場しますが、『ジョジョ』でも普通の攻撃では倒せない不死身の吸血鬼が登場しています。その中の一人が、もはや作品のアイコンとも言える敵が言わずとしれたDIO(ディオ)で、醸し出される雰囲気はどことなく無惨にも似ているのかもしれません。
そして、『ジョジョ』に登場する吸血鬼も血を吸って生きる怪物である点や、吸血鬼が血を分けることで屍生人(ゾンビ)を生み出すことができる点も共通していると思えます。
このことからも吾峠先生が『鬼滅の刃』を作るうえで、『ジョジョ』こそがもっとも大きな影響を与えた作品と言っても過言ではないでしょう。
◆圧倒的な画力と迫力を目指した作品たち──『BLEACH』『NARUTO-ナルト-』『ワンパンマン』
吾峠先生は『このマンガがすごい!2019』のインタビューの中で、「思わずジャケ買い」した作品を3つ紹介しています。それが『BLEACH』、『NARUTO-ナルト-』、そして『ワンパンマン』です。吾峠先生はこの3作品に共通している点を「現実には起こり得ない現象をリアルかつ見やすく、そしてすごい迫力で描いている」と評しています。
しかも吾峠先生曰く、週刊連載という時間制限の中でとんでもない完成度を誇っていて、「少しでもそこに近づけるよう努力していますが、おそらく自分が一生涯マンガを描き続けても先生方のようにはなれない」「格が違うので、心から尊敬します」と絶賛しているのです。
中でも『BLEACH』と『NARUTO-ナルト-』に関しては、先ほどの『ジョジョ』に加えて影響を与えた作品ベスト3にも名を挙げていました。実際、2021年に行われたBLEACH生誕20周年記念原画展『BLEACH EX.』では、吾峠先生が描き下ろした朽木ルキアと井上織姫のイラストが寄稿されています。
その際、イラストに添えたコメントで、「絵の巧みさ、造形、感情や表情などの繊細な動きなどに感動し夢中になった」ことを明かしています。また「久保先生の作品に出会わなければ自分の作品も生まれていなかった」と、少なからず『鬼滅の刃』の制作に影響を与えたことに対する感謝の言葉を綴っているのです。
──連載が終了してから約5年。しかし、現在公開中の劇場アニメは歴代記録をいくつも更新中と、快進撃を続けています。吾峠先生は、『このマンガがすごい!2019』で「影響を受けた作品は数えきれない」とも語っています。コンテンツ消費が加速するこの時代において、今ある大ブームの礎には連綿と受け継がれてきたエンタメ文化があることを、忘れてはいけないのかもしれません。
〈文/fuku_yoshi〉
※サムネイル画像:Amazonより 『「鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録・弐」(出版社:集英社)』
※鬼舞辻の「辻」は「一点しんにょう」が正しい表記となります。