<この記事にはTVアニメ・原作漫画『鬼滅の刃』ならびに『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』のネタバレが登場します。ご注意ください。>
人間にとって敵役である十二鬼月の鬼たちの過去まで、ていねいに描かれた『鬼滅の刃』ですが、作中では描き切れなかったものも数々あります。人間からひどい仕打ちを受けるなど、やむにやまれぬものから、もともと鬼の素質があったのでは? と思ってしまうようなものまで、その理由はさまざまです。
◆鳴女はなぜ十二鬼月に昇格できたのか? 衝撃の過去とは?
鳴女は、猗窩座たちのように強力な攻撃系の血鬼術は持たず特別枠的な立ち位置でしたが、無惨には「思った以上に成長した」「素晴らしい」と称賛され、「無限城編」では空席になった上弦の肆に昇格しています。その理由のヒントとなる彼女の過去が、原作終了後に語られました。
2021年4月に集英社より出版された『鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録・弐』によると、鳴女は人間だったころ「琵琶奏者」として日銭を稼いでいましたが、博打好きの夫のせいで貧しい暮らしを強いられていました。
ある日、たった1着しかない彼女の演奏用の着物を夫が売ったことで、激昂した鳴女は夫を手にかけてしまいます。
直後の仕事にボロボロの着物で向かい、こわばって震える手で演奏をしたところ、琵琶の音色を称賛されたことから、その後は演奏前に人を襲うことがルーティーンとなったそうです。
人間のころから、人の命を奪うことも厭わないほど、琵琶奏者としての技術向上に心血を注いていた鳴女は、鬼になってからもストイックに琵琶の演奏に打ち込んだことでしょう。その“執念”こそが、彼女を上弦に昇格させた最大の理由といえます。
また、鬼舞辻無惨は「青い彼岸花」の捜索などを目的として鬼をつくり、増やしましたが、鳴女が捜索スキルに長けていたことも、大きな理由の一つとなるでしょう。
◆無惨が魘夢を鬼にしたのは「小腹が空いた」から?
無惨による下弦の粛清時、唯一生かされた下弦の壱・魘夢が鬼になった理由は、原作の中では語られませんでした。
2020年に公開された『劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編』で、入場者特典として配布された『煉獄零巻』によると、子供のころから夢と現実の区別がつかず周囲を困惑させ、大人になってからは催眠療法を悪用して、余命いくばくもない病人を健康になったと思いこませてからウソをばらして絶望させるなど、鬼になってからと変わらぬ趣向を持っていました。
鬼になった理由については、もともと鬼にされるためでなく、小腹が空いた無惨に襲われ致命傷を負いましたが、痛みを感じなかったため、鬼の無惨を羨み、褒めそやしたと、『鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録・弐』によって明かされています。
当時、ついには心臓も止まった魘夢を無惨は鬼にしましたが、あくまで「気まぐれ」であったとも記されており、そのこと自体を思い出すこともなかったそう……。
それでも無惨の熱烈な崇拝者となり下弦の壱まで上り詰めた魘夢でしたが、決して無惨のお気に入りというわけではなかったようです。
◆玉壺は強い鬼の素質があった?
「刀鍛冶の里編」で半天狗とともに里を襲撃し、時透無一郎に倒された上弦の伍・玉壺の過去についても原作で多くを語られることはなく、その後に刊行されたファンブックによって明かされています。
『鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録・弐』によると、玉壺は人間時代は「益魚儀」(まなぎ)という名で、親を早くに亡くしています。ところが、親の死を悲しむことはなく、いたずらに動物を手にかけたり、違う種類の魚を縫い合わせたり、壺に骨や鱗を溜めては「芸術だ」とのたまう異常行動をとっていました。
ある日、そんな益魚儀をからかいにきた村の少年の命を奪い壺につめていましたが、それを知った少年の親に二又銛で瀕死にされたものの、驚くことに半日経っても彼は生きていたそうです。
そんな益魚儀のもとを通りがかった無惨によって鬼にされ、上弦の伍・玉壺が誕生しました。生来、生き物を弄ぶことに傾倒し、自らは異常ともいえる生命力を持っていた益魚儀は、強い鬼になれる素質があったと考えられます。
また、刀を研ぐことに超人的な集中力をみせた鋼鐵塚に対し「芸術家として負けている気がする」と漏らしていたことから、玉壺は上弦の鬼としてまだまだ伸びしろがあったのかもしれません。
◆猗窩座が鬼殺隊を前にすると「饒舌」になる理由
『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』で、その過去が描かれた猗窩座は、前作では柱・煉獄杏寿郎を倒すなど残忍な性格でありながらも、強い者に敬意を払い、鬼になるよう勧めるなど人間らしさも持ちあわせています。
猗窩座は、上弦が無限城に集結した際は、無口で馴れ馴れしい童磨への嫌悪感をあらわにするなど神経質な性格に思われましたが、鬼殺隊を前にすると「饒舌」になるには理由がありました。
『鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録・弐』で、「鬼殺隊を前にすると饒舌になるのは、人間が好きだからだと思います」と明かされています。
人間時代から異常な性格の者が多い上弦の中で、猗窩座は人を食べるよりも鍛錬に時間を費やし、強い者と闘うことに喜びを感じる“武道家”の気質を持つなど、良い意味で「人間くさい」部分を多く残しています。
これらの要素こそ、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』をヒットさせ、猗窩座が敵役の鬼でありながら高い人気を獲得した理由なのかもしれません。
──原作終了から約5年が経過した『鬼滅の刃』ですが、劇場版はヒットを記録し、まだまだ“鬼滅熱”は冷めることを知りません。続編映画では上弦の弐や壱との闘いも繰り広げられると予想され、ファンの期待は高まるばかりです。それまでの間にも、ファンブックなどさまざまな媒体で彼らにまつわる「新事実」が飛び出すかもしれません。
〈文/lite4s〉
《lite4s》
Webライター。『まいじつ』でエンタメ記事、『Selectra(セレクトラ)』にてサスペンス映画、韓国映画などの紹介記事の執筆経験を経て、現在は1980~90年代の少年漫画黄金期のタイトルを中心に、名作からニッチ作品まで深く考察するライター業に専念。 ホラー、サスペンス映画鑑賞が趣味であり、感動ものよりバッドエンド作品を好む。ブロガー、個人投資家としても活動中。
※サムネイル画像:『「劇場版「鬼滅の刃」無限城編 」第一章 猗窩座再来 第2弾キービジュアル (C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable』
※鬼舞辻の「辻」は「一点しんにょう」が正しい表記となります。