<この記事にはアニメ・原作漫画『鬼滅の刃』のネタバレが登場します。ご注意ください。>
鬼舞辻無惨は、実は異能の代名詞でもある「血鬼術」と言っている描写がありません。また、瞳に階級と数字が刻まれている十二鬼月ですが、その位置は統一されていません。一見すると読み飛ばしてしまいそうですが、気になりだすと止まらない謎が『鬼滅の刃』にはいくつか隠されています。
◆鬼舞辻無惨の血鬼術は?
鬼が持つ異能「血鬼術」にはそれぞれの名前があります。たとえば猗窩座の血鬼術は「破壊殺」、妓夫太郎なら「血鎌」、半天狗なら「分裂」、珠世なら「惑血」、禰豆子なら「爆血」など……。本作では前提として血鬼術の名前があって、それから技名がくるケースが多いです。
しかし、鬼の始祖である鬼舞辻無惨にはその描写がありません。そのためSNSなどでは、「実は無惨は血鬼術を持ってなかったのでは?」と考察されています。本編では一切登場しなかった無惨の「血鬼術」という表記ですが、実は『鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録・弐』(出版社:集英社 2021年2月出版)では、きちんと「血鬼術」と表記されている技があります。
それが第139話で無惨が産屋敷邸の爆発に巻き込まれたあと、悲鳴嶼行冥に対して使った「黒血枳棘(こっけつききょく)」です。無惨の血は、そもそも人間にとって猛毒の効果があり、さらに素質のある者を鬼に変える特殊な血です。この血が「黒血」と表現されていることからも、実は無惨の血そのものが「血鬼術」だったと考えられるのではないでしょうか。
◆鬼たちの瞳に刻まれた数字の位置の意味
十二鬼月はそれぞれ瞳に数字が刻まれていますが、よく見ると左右のどちらの瞳に数字が刻まれているのかは統一されていません。その違いは単に吾峠呼世晴先生の気分次第だったのでしょうか?
公式ファンブックのおまけページでも描かれていますが、『鬼滅の刃』は吾峠先生と立ち上げ編集者である片山達彦氏をはじめ、歴代編集者たちがかなり綿密な打ち合わせをして作り上げた作品であることがうかがえます。その中で、鬼のデザインの違いを指摘されなかったとは想像しづらく、本筋とは大きな関わりがなくとも何らか裏設定はきちんとあったと推察できます。
以下、数字が刻まれた十二鬼月の左右の一覧です。
・左目が数字の鬼:猗窩座、妓夫太郎、半天狗(本体)、下弦の鬼など。
・右目が数字の鬼:黒死牟、童磨、堕姫、響凱など。
結論からいうと、左右の違いは無惨の無意識の感情で分けられていたと考えられます。具体的には、左目が数字の鬼は比較的無惨から好意的に評価されており、右目に数字がある鬼は内心嫌われていた可能性が高いのです。これが暗黙の法則だったと仮定して、それぞれの鬼たちを見てみます。
まず黒死牟は、公式ファンブックで無惨からの印象はビジネスパートナーだと書かれていました。しかし、黒死牟は無惨に一生のトラウマを植え付けた継国縁壱の実の弟です。無意識的に嫌っていた可能性は十分に考えられるでしょう。そして童磨については、もっと直接的に公式ファンブックで「あまり好きじゃない」と明記されています。
一方で、猗窩座や妓夫太郎については「お気に入り」と書かれているのです。注目したいのは、同じ上弦の陸である妓夫太郎と堕姫の瞳に刻まれた数字が左右逆である点です。堕姫については、第74話で無惨が直々に「お前は誰よりも美しい」「特別な鬼だ」と褒めている描写がありました。
しかし、第98話では一点して「案の定堕姫が足手纏いだった」と酷評しています。このことからも無惨は、妓夫太郎は認めていましたが、妹の堕姫はお荷物程度の認識しかなかったことが分かります。つまり、好意的に評価している妓夫太郎は左目に数字があり、あまり好いていなかった堕姫は右目だったという法則にも当てはまるのです。
ちなみに半天狗については、公式ファンブックでは「たまにウザく感じるが許容範囲内」と書かれています。また、第126話の回想シーンでは無惨が自ら助けに行って鬼にしているので、ある程度気に入っていたと考えていいでしょう。
最後に下弦の鬼たちは、一律で左目に役職である下弦の「下」と数字が刻まれています。数字が左目に刻まれているということなので、比較的好意的に思っていたのかもしれません。実際、累は公式ファンブックでも無惨のお気に入りであると紹介されています。
一方で数字を剥奪された元十二鬼月の響凱だけは、右目に刻まれていました。回想シーンでも無惨が「もういい」とサジを投げている描写があるので、法則にも当てはまっています。
どちらにせよ、下弦の鬼たちは最終的に無惨の自己都合で処分しているのであまり思い入れはなかったのかもしれませんが……。
◆黒死牟の瞳が6つある理由
玉壺や鳴女など瞳に特徴がある鬼は多いですが、その中でも黒死牟はかなりの異形です。そもそもなぜ6つも瞳があるのでしょうか?
そのヒントとなるのが、第102話で登場した縁壱零式です。縁壱零式には6本の腕がありましたが、その理由は戦国時代に実在した剣士の動きを模すために必要だったと明かされています。当然、この戦国時代の剣士とは継国縁壱のことです。
黒死牟は、鬼となる前から剣士として縁壱と同じ高みを目指していました。そんな縁壱の動きを再現するのに6本の腕が必要だったということは、彼の動きを見切る側も普通の目をしていては不可能だと考えられます。つまり、黒死牟が縁壱の動きを見切るために瞳が6つになったと考えられるのです。
◆なぜ「浅草の人」の血鬼術は強力だったのか?
第13話で無惨に鬼にされ、第139話で珠世の隠し玉として強力な血鬼術「肉の種子」を見せた通称「浅草の人」。浅草の人はなぜ無惨にも通用するほどの血鬼術を使えたのでしょうか。
そもそも血鬼術とは多くの人間を食べて強くなった鬼のみが使える異能のはずです。しかし、浅草の人は一切人間を食べていません。
考えられる理由は竈門禰豆子の「血」を体内に入れたからです。第127話で、珠世は浅草の人を救うために禰豆子の血を研究し、それを投与していました。そして、禰豆子はある意味で特殊な性質を持っています。それが第204話で愈史郎によって明かされた「鬼としての素質」です。
つまり、素質のあった禰豆子の血を接種したことで、浅草の人も急激に強くなったと考えられるのです。
──『鬼滅の刃』は分かりやすい設定と王道の展開からライトに読める作品です。しかし、コアな読者たちも楽しめるようなマニアックな謎も散りばめられています。そういった部分が作品に深みを与えており、本作の魅力をさらに高めているのかもしれません。
〈文/fuku_yoshi〉
《fuku_yoshi》
出版社2社で10年勤め上げた元編集者。男性向けライフスタイル誌やムックを中心に、漫画編集者としても経験を積む。その後独立しフリーライターに。現在は、映画やアニメといったサブカルチャーを中心に記事を執筆する。YouTubeなどの動画投稿サイトで漫画やアニメを扱うチャンネルのシナリオ作成にも協力し、20本以上の再生回数100万回超えの動画作りに貢献。漫画考察の記事では、元編集者の視点を交えながら論理的な繋がりで考察するのが強み。最近では、趣味で小説にも挑戦中。X(旧Twitter)⇒@fukuyoshi5
※サムネイル画像:『「鬼滅の刃」第2巻(出版社:集英社)』
※禰豆子の「禰」は「ネ+爾」が正しい表記となります。
※鬼舞辻の「辻」は「一点しんにょう」が正しい表記となります。