『鬼滅の刃』では甘露寺蜜璃だけがやたら露出度の高い隊服を着ており、栗花落カナヲの履いているキュロットが徐々に短くなっています。これには公式で明かされた設定があり、2人の隊服に関する謎はゲスメガネと呼ばれる縫製係の前田まさおの企みが原因です。
◆ゲスなメガネの前田まさお
前田は事後処理部隊「隠」に所属しており、隊士たちに支給される隊服の製作や修復を担当している縫製係です。彼には女性隊員や少女の隊員の隊服に自分好みのオリジナリティあふれるアレンジを加えるという困った癖があります。
前田は原作では単行本のおまけコーナーにのみ登場しており、本編では出番がないキャラクターです。彼の隊服への熱い想いは隊内でも知られるところで、ゲスメガネというストレートなニックネームで呼ばれています。
しかし、前田はただのゲスなだけの縫製係ではありません。隊士の隊服はザコレベルであれば、鬼の攻撃を通さないほど強靭な繊維で作られています。
そのような強度の布地を裁断したり縫製したりできるわけですから、かなり高い技術を持っているのでしょう。彼は隊服の製作に強い情熱も持ち合わせていますが、女性隊員にはそのこだわりが間違った方向へ炸裂してしまっています。
その犠牲となったのが甘露寺とカナヲというわけです。竈門炭治郎の日輪刀を打った鋼鐵塚蛍は短気で気難しく、人の話を聞かずに暴走することから超絶的に大人げない37歳児といわれています。
その道を極めようとする者に変人が多いのか、1つのことを突き詰める過程で変人になってしまうのか……。そこは謎が残る部分ですが、有能だからこそ個性の強さで他人に迷惑をかけても許されているところもあるのでしょう。
産屋敷一族が発想豊かな前田や鋼鐵塚などの職人を自由にさせているからこそ、鬼に有効な新しい隊服や刀が生まれるのかもしれません。近くにいたら迷惑この上ないですが、『鬼滅の刃』ファンにとって前田は応援したくなる癖を持った職人といえるでしょう。
◆甘露寺蜜璃の隊服の露出度が高いワケ
最終選別に合格して隊服を着てみた甘露寺は、前が大きく開いた状態だったため寸法が合っていないという当然の疑問を持ちます。しかし、前田から「ドンピシャです 完璧な状態ですね」といわれて、恥ずかしく思いながらもそういうものかと納得して着用し続けていました。
大正時代の日本において前の大きく開いた甘露寺の隊服姿は派手過ぎであり、けしからんと思われていたはずです。しかも戦闘中は激しく飛び回るスタイルにもかかわらず、ミニスカートも着用しています。
よく似合っているので本人が気に入って着ているのかと思いきや、これこそ前田の策略。甘露寺が最終選別に合格したとき、彼の心はさぞ踊ったことでしょう。
幸いなことに彼女はだまされやすいというか、素直な性格をしています。実際に隊服に疑問を感じながらも、前田の自信満々ぶりに押されて「きっと女性隊士は皆こうなのだろう」と着続けることとなりました。
だまされていたと知ったのは、柱合会議で胡蝶しのぶに会ったときです。しのぶから話を聞いた甘露寺は、真実を知って恥ずかしさから赤面。
しかし、理由は不明ですが彼女は結局前田から与えられた露出度の高い隊服を着ることにしました。この甘露寺のサービス精神には、多くの人が感謝したことはいうまでもありません。
ちなみに羽織は当時の師であった煉獄杏寿郎から隊士就任祝いにもらったもので、二―ソックスは伊黒小芭内から贈られてものです。このことから甘露寺のスタイルは、いろいろな人の趣味や嗜好が入り乱れて作られたものといえるでしょう。
◆胡蝶しのぶも露出度が高い隊服を渡されていた
前田は甘露寺と同じ手口で、しのぶにも露出度の高い隊服を着させようとしました。しかし、しのぶはその場で油をかけて燃やし、普通の隊服を仕立て直させています。
彼女の性格を考えると、当然の結果といえるでしょう。本来、燃えにくい素材で作られている隊服にいとも簡単に火をつけてしまうしのぶもさすがです。
しかし、彼女に露出度の高い服を着させようと果敢にチャレンジした前田のこだわりには、もはや呆れを通り越して賞賛の気持ちすら湧いて来ます。燃える隊服を見ながら本気で悔しがる前田には、仕事に妥協を許さない職人の生き様を感じさせられたという人もいるでしょう。
そして、この一件からしのぶは蝶屋敷の女子隊員に油とマッチを持たせて、前田対策をしています。鬼との戦いの裏で一人の縫製係が己の信念にもとづいて、本気の戦いをしていた事実から読者は目を背けてはいけないでしょう。
また、前田はこの女性隊服の仕立ての件で、柱の中でも特に恐ろしい不死川実弥からこっぴどく叱られることになります。しかし、この程度のことでヘコたれる彼ではなく、次に目をつけたのがカナヲでした。
◆栗花落カナヲのキュロットの秘密
原作でカナヲが描かれているコマを見比べてみると、彼女の履いているキュロットが少しずつ短くなっているとファンの間で話題となりました。これも前田の仕業で本人は否定していましたが、そのうろたえぶりから彼の悪だくみと判断して間違いないでしょう。
当初カナヲのキュロットの長さはひざ下までありましたが、話が進むにつれて徐々に短くなっていきました。その理由は単行本の21巻に描かれており、前田の企みであることが示唆されています。
おそらくしのぶに隊服を燃やされたことから、露骨に露出度の高い隊服を用意してもムダだと学んだのでしょう。そのため、気づかれないようにカナヲのキュロットを時間をかけて短くしていったのだと思われます。
カナヲ本人やしのぶも気づいていないのか、この程度の悪だくみならと放置しているのか、前田の思惑通りにキュロットはついにひざ上まで短くなることに……。しかも、アニメ版では『刀鍛冶の里編』の第1話、炭治郎のお見舞いに来たカナヲのキュロットの丈が既にひざ上状態に。
これにはアニメ版の前田は仕事が速いと、ファンは歓喜することとなりました。失敗しようと怒鳴られようと、それを糧にさらに前に進んでいく彼の心の強さは見習うべきかもしれません。
──炭治郎をはじめとした隊士たちは家族や大切な人を鬼の手で失った過去を持つ者も多く、過酷な戦場で命をかけて戦っています。残酷な宿命を背負った任務であり、思い詰め過ぎてしまうことも多いでしょう。それだけに、前田はいつでも遊び心を持っておくことが大切なのだと教えてくれているに違いありません。
〈文/諫山就〉
《諫山就》
アニメ・漫画・医療・金融に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。かつてはゲームプランナーとして『影牢II -Dark illusion-』などの開発に携わり、エンパワーヘルスケア株式会社にて医療コラムの執筆・構成・ディレクション業務に従事。サッカー・映画・グルメ・お笑いなども得意ジャンルで、現在YouTubeでコントシナリオも執筆中。X(旧Twitter)⇒@z0hJH0VTJP82488
※サムネイル画像:Amazonより 『Blu-ray「TVアニメ『鬼滅の刃』刀鍛冶の里編」第1巻(販売元:アニプレックス)』