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<この記事にはTVアニメ・原作漫画『鬼滅の刃』ならびに『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』のネタバレが登場します。ご注意ください。>

 日本映画史上最速で興行収入300億円を突破した『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』。公開してから約2ヵ月が経ったにも関わらずその勢いが止まることを知らないのは、やはり猗窩座の存在が大きいでしょう。そんな猗窩座には、実は原作で語られていない裏設定があります。

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◆猗窩座の名前の由来は何なのか?

 『鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録』(出版社:集英社 2019年7月出版)に掲載された大正コソコソ噂話によると、十二鬼月の名前はすべて鬼舞辻無惨が直々につけていたことが明かされています。そんな中で猗窩座とはどういった意味で名づけられたのでしょうか?

 実は、その由来は猗窩座の漢字を一字ずつみていくと分かります。まず「猗」は、美しさやしなやかさを意味する文字です。しかし、もともとの字形は「去勢された犬」からきているとされています。これは、「犭(けものへん)」の成り立ちが犬を表し、「奇」が普通と違っている様子を表すことに由来しています。

 猗窩座の人間時代の名前は狛治です。「狛」は一字で「こまいぬ」のことを表しています。狛犬は神前や神域を守るとされる空想上の生き物で、「守ること」が存在意義。まさに第155話で慶蔵も「狛犬の狛か。お前は何か守るものが無いと駄目なんだよ」と言っています。

 そんな狛治は最も大切な存在である父親、師匠、恋人の3人を守り抜くことができませんでした。つまり、猗窩座の「猗」は狛治に由来しており、字形からも「大切なものを失った犬」という暗喩が込められているのでしょう。

 続いて「窩」は、穴や住み家を表しており、まるで住み家に引きこもった狛治の空虚な心情を強調しているのかもしれません。また隠し場所という意味もあるので、人間のころの大切な記憶や想いを忘れてしまった状態を「隠された状態」と重ねているとも捉えられます。そして「座」は文字通り「座る」、「居座る」ことを意味します。

 つまり猗窩座の名前の由来は、「守る存在意義を失った狛犬が記憶を忘れ鬼となりこの世に居座り続けた」という痛烈な皮肉を込めた名前だと考えられます。このネーミングセンスだけでも、いかに無惨が人の心を持たない「鬼」であったかを改めて理解できるでしょう。

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◆猗窩座はいつごろ鬼になったのか?

 『鬼滅の刃』は概ね現実の歴史や時代背景とリンクして世界観が設定されています。それゆえに上弦の鬼たちがいつごろ鬼になったのかも、実は作中の描写からおおよそ割り出すことができるのです。特に猗窩座に関しては、作中の描写に数多くのヒントが隠されています。

 まず、注目したいのは猗窩座の鬼の紋様。猗窩座の紋様は、公式ファンブックによると人間時代に刻まれていた入れ墨が元となっています。そして猗窩座(人間時代なので狛治)は第154話でスリをした罰として入れ墨を腕に入れられています。実はこの入れ墨刑は実際に江戸時代にあった肉刑の一種で、各藩において適宜実施されていました。それを幕府が本格的に法制化したのが1720年だと言われています。

 さらに、注目したいのが狛治と恋雪が見に行った「打ち上げ花火」です。打ち上げ花火が、夏の風物詩として本格的に打ち上げられたのは史料によると1733年5月28日、両国の川開きに合わせたのが始まりとされています。それ以降、川開きに合わせて毎年花火が打ち上げられたそうです。作中でも、狛治が恋雪を背負って「橋まで行く」と言っていたことから、川開きに合わせた打ち上げ花火だったと推測することができます。

 そして、狛治が恋雪と花火の会話をしたのは第155話のナレーションにあるように15歳のころでした。恋雪たちが毒によって命を奪われたのはその3年後なので、狛治が無惨によって鬼にされたのは少なくとも1736年以降だと推察できます。『鬼滅の刃』は大正時代、1913年から1916年頃を舞台にしているので、竈門炭治郎たちが活躍する約180年前には猗窩座は既に鬼となっていたのかもしれません。

◆血鬼術に込められた想いとは?

 地面に雪の結晶のような陣を展開する猗窩座の血鬼術「破壊殺・羅針」、そして徒手空拳から繰り出される上弦の鬼の中でもトップクラスに多彩な技の数々……。そんな猗窩座の血鬼術や戦い方には、実はそれぞれ人間時代の名残があったことがジャンプコミックス18巻の「設定こぼれ話」で明かされています。

 吾峠呼世晴先生によると、「技名は花火が由来、術式展開の模様は恋雪の髪飾り、構え・使っている技は素流」だそうです。猗窩座は鬼となり記憶を失うわけですが、上弦の鬼に登りつめるまでに数多くの命を奪ってきたであろうことは想像に難くないでしょう。守るべき者のために鍛えた技術が逆に人の命を奪う……、記憶を取り戻した猗窩座にとってこれ以上の悲劇はなかったのではないでしょうか。

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◆なぜ首の弱点を克服できたのか?

 始祖である無惨を除けば、首の弱点を克服したのは黒死牟と猗窩座のみです。第153話で炭治郎が「今変わろうとしている。猗窩座も別の何かに。」と言っていましたが、なぜ猗窩座は首の弱点を克服する変化ができたのでしょうか。

 実は『鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録・弐』(出版社:集英社 2021年2月出版)にそのヒントが書かれています。無惨はずっと太陽を克服できる鬼を探していました。そんな無惨は自身の経験則から、強い執着や渇望がない者は鬼として大きな進化を見込めないと考えていたことが明かされています。言い換えれば、強い執着があれば鬼として進化する可能性があることになります。

 猗窩座は、作中の描写からも分かる通り誰よりも「強くなること」に深く執着していました。だからこそ、猗窩座は弱点を克服し進化できたのです。しかし、進化は同時に猗窩座がなぜ強くなろうとしたのか、その理由を思い出させることになります。それは人間の心を取り戻すことに他なりません。そう考えると、猗窩座が最後の最後で鬼としての「進化」を諦めたのは、やはり必然だったといえるでしょう。

 

 ──猗窩座の設定を見ていくと、ことごとく狛治の生き様に唾を吐くようなアイロニーが込められていることが分かります。作中では数多くの鬼たちが今際の際に人間時代を思い出していますが、猗窩座は特に過酷だったように思えます。敵とはいえ、裏設定を知るとなおさら同情を禁じ得ないのではないでしょうか。

 〈文/fuku_yoshi〉

《fuku_yoshi》

出版社2社で10年勤め上げた元編集者。男性向けライフスタイル誌やムックを中心に、漫画編集者としても経験を積む。その後独立しフリーライターに。現在は、映画やアニメといったサブカルチャーを中心に記事を執筆する。YouTubeなどの動画投稿サイトで漫画やアニメを扱うチャンネルのシナリオ作成にも協力し、20本以上の再生回数100万回超えの動画作りに貢献。漫画考察の記事では、元編集者の視点を交えながら論理的な繋がりで考察するのが強み。最近では、趣味で小説にも挑戦中。X(旧Twitter)⇒@fukuyoshi5

 

※サムネイル画像:『「劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来」場面写真 (C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable』


※鬼舞辻の「辻」は「一点しんにょう」が正しい表記となります。

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