<PR>
<PR>

<この記事にはアニメ・原作漫画『鬼滅の刃』のネタバレが登場します。ご注意ください。>

 常に穏やかな笑みを浮かべる蟲柱・胡蝶しのぶ。しかし、宿敵・童磨を前にした彼女の表情は、凄まじい怒りに満ちていました。あの美しい笑顔は、本当に心からのものだったのでしょうか。

 その笑顔は、最愛の姉を鬼に奪われた日から被り続けた、復讐心を隠す「仮面」だったのかもしれません。穏やかな仮面の下に隠された、彼女の心が焼かれた地獄の炎。そこに、しのぶの壮絶な真実が隠されていると考えられます。

<PR>

◆姉・カナエが遺した“呪い”──しのぶが「笑顔の仮面」を被った理由

 しのぶのあの穏やかな笑顔が、なぜ「仮面」だと考えられるのか。その答えは、彼女が心の奥底に封印した「本来の性格」にあります。

 過去の回想で描かれたしのぶは、勝ち気で口調も荒く、鬼への憎しみを隠そうともしない感情豊かな少女でした。常に笑顔で「人と鬼が仲良くできればいいのに」と語る、心優しい姉・カナエとはまさに正反対の性格だったことが分かります。

 そんな彼女の人生を決定的に変えたのが、上弦の弐・童磨によって無残な姿になった姉・カナエでした。命を落とす間際、カナエはしのぶに「しのぶ……鬼殺隊をやめなさい。普通の女の子の幸せを手に入れてお婆さんになるまで生きてほしいのよ……」と涙ながらに願います。しかし、しのぶは「嫌だ!絶対辞めない。姉さんの仇はかならずとる」と叫びます。目の前で最愛の姉を奪われたしのぶにとって、鬼への復讐は何よりも優先すべき悲願だったといえるでしょう。

 ここから、しのぶの苦悩に満ちた選択が始まります。姉の最後の願いである「普通の幸せ」を叶えることはできない。ならばせめて、姉が好きだといってくれた「笑顔」だけでも守り抜こう。そして、姉が理想とした「鬼を哀れむ心を持つ、心優しい鬼殺隊員」の姿を、自分が完璧に演じ続けようと決意したのではないでしょうか。

 それは姉への深い愛情から生まれた決意であると同時に、本来の短気で怒りっぽい自分を偽り、押し殺し続けるというあまりにも過酷な「呪い」の始まりでもあったのかもしれません。しのぶの笑顔は、姉の理想を守るという強すぎる思い込みから生まれた「後天的な仮面」であり、彼女の歪で壮絶な物語は、この瞬間から始まったといえるでしょう。

<PR>

◆「私、ずっと怒ってるんですよ」──笑顔の裏で燃え盛る地獄の炎

 姉の理想を演じるため、「笑顔の仮面」を被り続けたしのぶ。しかし、その穏やかな仮面の下では、抑えきれないほどの激しい感情が常に燃え盛っていたのかもしれません。

 その片鱗は、普段の言動に現れています。那田蜘蛛山で蜘蛛の鬼(姉)をいたぶるように追い詰めたときの冷徹な表情や、水柱・冨岡義勇に向けた「そんなだからみんなに嫌われるんですよ」というトゲのある言葉。これらは、完璧に演じているはずの優しい笑顔の仮面から、どうしても漏れ出てしまう彼女の「本心」。つまり、苛立ちや怒りの表れだったのではないでしょうか。

 そして、その仮面の下に隠された本当の顔を、彼女は一度だけ、竈門炭治郎にだけ見せました。鬼である禰豆子を守ろうとする炭治郎の純粋さに触れたしのぶは、炭治郎から「怒ってますか?」と問われた際、静かにこう告げます。「私はずっと怒っているかもしれない」と。

 このセリフこそ、彼女の精神状態を理解するうえでもっとも重要な言葉です。姉を失った彼女の心を支配していたのは、悲しみや虚しさではなく、すべてを焼き尽くすかのような純粋な「怒り」だったといえます。姉の仇を討つその日まで、決して消えることのない炎が、彼女の心の中ではずっと燃え続けていたといえるでしょう。

 しのぶの笑顔は、この燃え盛る怒りを隠すための、薄氷のようなフタにすぎませんでした。彼女の心は、穏やかさとは正反対の、常に激しく怒り続けている状態にあったと考えられます。そのあまりにも危ういバランスの上に、蟲柱・胡蝶しのぶという存在は成り立っていたのかもしれません。

<PR>

◆復讐に捧げた“毒の身体”──しのぶが選んだ決死の選択

 常に燃え盛る怒りを内に秘めたしのぶ。その復讐心は、最終的に常軌を逸した計画へと向かわせます。その根底にあったのは、鬼殺隊の剣士として、あまりにも致命的な一つの絶望でした。

 それは、彼女が「鬼の頸を斬れない」唯一の柱であるという事実です。小柄な体格ゆえに、どれだけ鍛錬を積んでも、鬼の頸を断つほどの腕力を得ることができなかったのです。

 この剣士としての絶望が、彼女を「毒を用いて鬼を葬る」という、誰も真似できない異端の道へと進ませました。それは非常に効果的な戦術であると同時に、彼女の復讐への凄まじい執念の表れでもあったのかもしれません。

 そして、その執念は最終決戦を前に、狂気とも呼べる計画へと行き着きます。姉の仇である上弦の弐・童磨を確実に倒すため、しのぶは長い歳月をかけ、致死量の藤の花の毒を自らの体に摂取し続けたのです。全身を「鬼を葬る毒の塊」へと作り変える。これはもはや、戦いの準備という域を遥かに超えた、自己破壊的な行為といえるでしょう。

 復讐のためならば、自らの命はもちろん、人間としての身体さえも、ためらいなく「毒」という道具に変えてしまう。その選択こそ、姉を失った日からずっと笑顔の仮面の下で燃え続けていた怒りが爆発した結果といえます。

 

 ──胡蝶しのぶの笑顔は、姉の遺言を守るための「仮面」といえます。その下では、姉を奪われた日からずっと、復讐の炎が燃え盛っていたのかもしれません。彼女の心は常に怒りで満たされ、その怒りこそが彼女を突き動かす原動力といえるでしょう。笑顔に隠された真相を知ることで、しのぶの悲しくも美しい生き様が、より深く胸に刻まれるようです。

〈文/凪富駿〉

《凪富駿》

アニメ・漫画に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。特にジャンプアニメに関する考察記事の執筆を得意とする。作品とファンをつなぐ架け橋となるような記事の作成がモットー。

 

※サムネイル画像:Amazonより 『Blu-ray「鬼滅の刃」第10巻(販売元:アニプレックス)』


※禰豆子の「禰」は「ネ+爾」が正しい表記となります。

<PR>
<PR>

※タイトルおよび画像の著作権はすべて著作者に帰属します

※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

※無断複写・転載を禁止します

※Reproduction is prohibited.

※禁止私自轉載、加工

※무단 전재는 금지입니다.