※この記事にはアニメ・原作漫画『鬼滅の刃』のネタバレが含まれます。ご注意ください。
※本記事はアニメ・原作漫画『鬼滅の刃』に関するライター個人の考察・見解に基づくものであり、公式の設定や見解とは異なる場合があります。
『鬼滅の刃』は完結後も、ふとした設定や描写を振り返るたびに「そういえば、あれはなぜだったのか」と気になる部分が残る作品です。伊之助が師匠なしで呼吸を身につけた理由、善逸だけにスズメがついた理由、鱗滝左近次が渡した厄除の面の意味など、物語の本筋から少し外れたところにも、考え始めると面白い謎がいくつもあります。
◆伊之助は鬼殺隊屈指の“野生の天才”だったのか
嘴平伊之助の強さは、よく考えるほど異質です。炭治郎や善逸には師匠がいましたが、伊之助には呼吸を体系的に教える人物がいません。それにもかかわらず、彼は我流で獣の呼吸を編み出し、最終選別も早々に突破しています。
荒々しい言動や「猪突猛進」の印象が強いため、努力型や感覚型の戦士に見えます。しかし、野山で生き抜く中で身につけた直感、身体能力、反射神経は常識外れでした。特に触覚の鋭さは際立っており、空気のわずかな揺らぎや敵意を察知できるほどです。
さらに伊之助は、戦いの中で学ぶ速度も非常に速い人物です。炭治郎たちと出会うまでは一人で突っ走るだけだった彼が、仲間と連携する意味を理解し、強敵との戦いで作戦の重要性まで吸収していきました。粗暴に見える表面の奥には、環境に合わせて自分を変えていける柔軟さがあります。
柱や継子のような正式な訓練を受けていないにもかかわらず、独自の呼吸で上弦との戦いに加わった伊之助。実は鬼殺隊の中でも、かなり特殊な才能を持った剣士だったと考えられます。
◆なぜ鬼殺隊の伝令役はカラスだったのか
鬼殺隊士に割り当てられる鎹鴉も、何気ないようで合理的な設定です。伝令役なら、ハトやオウム、九官鳥でもよさそうに思えます。それでも鬼殺隊がカラスを使っていたのは、任務の性質を考えるとかなり理にかなっています。
カラスは知能が高く、人の顔を覚えることでも知られています。山中にも人里にも姿を見せるため、どこにいても不自然に見えにくい点も大きな強みです。鬼殺隊の任務は夜間や山中で行われることが多く、目立ちすぎない伝令役が必要だったのでしょう。
一方で、ハトは長距離移動に向いているものの、天敵が多く、状況によっては襲われる危険があります。九官鳥やオウムは言葉をまねる能力に優れていても、鬼殺隊の過酷な任務に耐えられるかは別問題です。
鬼の討伐現場へ情報を運び、隊士の生死に関わる指示を伝える役割を担う以上、鎹鴉には賢さ、行動範囲、環境へのなじみやすさが求められます。そう考えると、カラスはかなり絶妙な選択だったといえるでしょう。
◆善逸だけスズメだった理由に残る妙な説得力
我妻善逸の伝令役だけが、カラスではなくスズメのチュン太郎だったことも印象的です。かわいらしい相棒として記憶に残る一方で、なぜ善逸だけ違う鳥だったのかは気になるところです。
善逸は最終選別を突破しているため、実力がないわけではありません。ただし本人は常に自信がなく、「死ぬ」と騒ぎ続ける性格です。雷の呼吸を教わりながら壱ノ型しか使えなかったこともあり、周囲から長く生き残る隊士とは見られていなかった可能性があります。
また、善逸には並外れた聴覚があります。人の心音や音の違いを聞き分ける彼なら、人間の言葉を話せないチュン太郎の鳴き声からも、ある程度の意図を読み取れたのかもしれません。実際、善逸とチュン太郎は完全に会話が成立しているように見える場面があります。
たんにカラスの数が足りなかった、あるいは特殊な隊士に合わせた例外だったとも考えられます。いずれにしても、臆病に見えて音への感覚だけは誰より鋭い善逸にスズメがついたことには、妙な納得感があります。
◆厄除の面は本当に厄を払っていたのか
鱗滝左近次が弟子たちに渡していた厄除の面は、物語を振り返るとかなり切ない道具です。本来は弟子を守るために贈られたものですが、手鬼にとっては鱗滝の弟子である証拠となり、錆兎や真菰たちがねらわれる原因にもなりました。
そのため、厄除どころか厄を呼んでしまったようにも見えます。手鬼は鱗滝への恨みから、面をつけた弟子たちを執拗にねらっていました。弟子の特徴に合わせて彫られた面が、結果的に復讐の目印になってしまったのです。
ただし、厄除の面がまったく無意味だったとも言い切れません。炭治郎が手鬼の攻撃を受けた際、面が割れたことで直撃を免れたように見える場面があります。冨岡義勇の最終選別でも面は割れており、身代わりのような役割を果たした可能性があります。
もし面がなければ、炭治郎や義勇がその場で命を落としていたかもしれません。そう考えると、厄除の面は多くの弟子を救えなかった悲しい象徴でありながら、鬼舞辻無惨との最終決戦へつながる人物を守った道具でもあったといえます。
──『鬼滅の刃』は、炭治郎と鬼たちの戦いをまっすぐに描いた作品でありながら、細かな設定の余白も多く残しています。伊之助の異常な才能、鎹鴉の合理性、善逸とチュン太郎の組み合わせ、厄除の面の皮肉な役割。どれも本筋から見れば小さな疑問ですが、掘り下げるとキャラクターや鬼殺隊の世界観がより立体的に見えてきます。
完結した作品でも、読み返すたびに新しい見方が生まれるのは、こうした細部があるからではないでしょうか。語られなかった理由を想像することも、『鬼滅の刃』を長く楽しめる魅力の一つといえそうです。
〈文/士隠カンナ〉
《士隠カンナ》
アニメ・漫画関連のムック本を中心に活動するフリー編集・ライター。1990年代〜2000年代のアニメ作品を原点に、近年の話題作から長年愛される名作まで、幅広い作品の解説・考察・キャラクター分析を手がけている。作品の魅力や背景を読者にわかりやすく伝える記事制作を得意とする。
※鬼舞辻の「辻」は「一点しんにょう」が正しい表記となります。
※サムネイル画像:Amazonより 『「鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録」(出版社:集英社)』

