『キン肉マン』には、ファンの好奇心をかきたてる疑問点が散りばめられており、五重の塔の決戦でザ・ニンジャとサンシャインが途中で対戦相手を入れ替えた謎など、そこから生まれたおもしろい裏話も存在します。

 長年ファンが疑問に思っているウォーズマンの体内重力の謎や、子供たちがマネしたロビンマスクの謎パワーなど、『キン肉マン』の4つの疑問について考えてみました。

◆ブロッケンJr.がラーメンマンを責めるのは筋違い?

 ブロッケンJr.は父ブロッケンマンの命を奪ったラーメンマンを、文字通り目の敵にしていました。しかし、彼はラーメンマンと同じことをしているどころか、レフェリーの命すら奪う非道なことをしており、ラーメンマンのしたことを責める資格があるのか疑問です。

 第21回超人オリンピックの決勝トーナメント1回戦で、ブロッケンJr.はウォッチマンをキャメルクラッチで真っ二つにしています。これは試合を観ていたラーメンマンに対する、「お前も俺の父親と同じ目に合わせてやる」というメッセージだったわけですが、被害を受けたウォッチマンからすればたまったものではありません。

 しかも、真っ二つにしたウォッチマンの体をラーメンマンに投げつけるという、死者への冒涜ともいえる行動をしています。ウォッチマンに家族がいるかは不明ですが、息子がいるならブロッケンJr.と同じ思いを抱いたことでしょう。

 ウォッチマンは機械超人であるため、時計屋で修理すれば大丈夫なのかもしれません。しかし、ラーメンマンへの当てつけのためにこのような仕打ちを受けたウォッチマンの気持ちを考えると、いくらブロッケンJr.が親の仇討ちで周りが見えなくなっていた状態とはいえ、やり過ぎであることは明らかでドン引きものです。

 また、ブロッケンJr.はミスターカーメン戦で、ミイラパッケージから逃れるためにレフェリーを身代わりにしました。そして、このレフェリーはミスターカーメンに全身の水分を吸われて、ミイラ化して死んでいます。

 自分が助かるためにレフェリーを犠牲にするのは、正義超人としてあるまじき行為です。そもそも超人同士の戦いは超人委員会が仕切ってはいても、普通のプロレスとは違ってリング上にレフェリーがいないのが普通です。そのため、ブロッケンJr.の脱出方法はファンにとって2つの意味で驚きのシーンでした。

 さらに、ブロッケンJr.はミスターカーメンや観戦者に分かりやすいように、ミイラとなった死体に「わたしはレフェリー」と書いたプレートを置くという、死者を冒涜する行為も忘れません。そのせいもあってか、アニメ版では身代わりにしたのはキン骨マンになっていました。

 ウォッチマンにした仕打ち、レフェリーを身代わりにして死に至らしめた過去を考えると、果たしてラーメンマンがしたことを責める資格があるのか疑問に思ってしまいます。周囲の人のとばっちり被害を考えると、最終的にこの2人が和解できたことは本当に良かったです。

◆ザ・ニンジャとサンシャインが交代したワケとは?

 ウォーズマンの体内で繰り広げられた正義超人対悪魔六騎士の戦いでは、当初ジェロニモの対戦相手はザ・ニンジャでした。試合途中でサンシャインと入れ替わりますが、ゆでたまご先生によると、行きがかりでザ・ニンジャを4階に描いてしまったため、翌週慌てて入れ替えたとのことです。

 実は超人ではなく人間だったジェロニモが、「巨体で怪力のサンシャインに挑んで倒す」というコンセプトは既に決まっていたとのこと。しかし、当初はザ・ニンジャを悪魔六騎士のリーダー的な存在として考えていたのか、彼が最上階に位置していました。もしくは、強引に五重の塔を昇ろうとしたブロッケンJr.を悪魔超人が連携して撃退する順番の関係で、サンシャインが下の階にいたほうが都合が良かったのかもしれません。

 しかし、ザ・ニンジャとサンシャインが交代した際に、ウォーズマンの背骨を昇って心臓部に行こうとするキン肉マンを上手く下に落としています。そして、ザ・ニンジャは「どんな手段を使ってもキン肉マンを最上階にはいかせはしない」と語っています。

 慌てて2人を入れ替えたとのことですが、しっかり交代することに理由付けがされており、違和感なくストーリーに組み込まれていたといえるでしょう。しかも、同時にザ・ニンジャの大きな特徴であるテクニカルな一面も読者に披露しました。

『キン肉マン公式サイト』によれば、ザ・ニンジャは「元は甲賀の里出身の人間だったが、壮絶な修業を経て超人へと生まれ変わった」ということです。そのため、人間のジェロニモ対元人間のザ・ニンジャの戦いも熱いドラマが生まれそうですし、見てみたかった気持ちもあります。

◆ウォーズマンの体内重力を制御しているのはあの装置?

 悪魔六騎士との戦いではウォーズマンの体内に出現した五重の塔リングのインパクトが大きく、背骨を昇っていくキン肉マンを悪魔超人たちが阻止する構図がおもしろさを一層際立たせていました。

 しかし、実際のウォーズマンは地面に寝ていたのに、なぜ背骨を昇って行っているのかというのは『キン肉マン』の中でも有名な疑問点です。

 これはウォーズマンの体内の重力は寝ていようと、立っていようと足側にかかる仕組みになっているのでしょう。そのような超技術が可能なのかというと、そのヒントはソルジャーチームとフェニックスチームの戦いの舞台にあります。

 この2チームが戦ったのは、空中に浮いた立体浮遊リングです。これはサイコロのような六面体、つまり6つのリングで33のシックスメンタッグマッチをするというものでした。

 当然、上面以外のリングは地面に対して真逆、垂直となっていますが、立体浮遊リングの中央には重力を制御する装置が入っています。そのため、重力は中央部分に向けてかかるようになっており、どのリングでも普通に立っていられるようになっていました。

 ウォーズマンは機械超人ですから、これと似たような重力制御装置が体内に組み込まれていてもおかしくありません。普通の人間であれば常に立っていて、重力がずっと足のほうにかかかれば内臓が下がったり、胸やまぶたが垂れたりして体にとって良くないことも起こります。

 しかし、ウォーズマンの体は機械でできているので、そのような心配はないのでしょう。むしろ態勢によって体内にかかる重力が変わるより、常に一定であったほうが負担が少ない可能性があります。

 また、ウォーズマンの得意技であるスクリュー・ドライバーは、ものすごい勢いで回転しながら相手をめがけて突っ込んで行く技です。相当な遠心力が働くでしょうから、体内重力を常に一定方向にかけることで緩和しているのかもしれません。

 このことから、ウォーズマンが仰向けに寝ている状態であったにもかかわらず、体内にいたキン肉マンが背骨を昇っていたのは決して不思議なことではないといえるでしょう。

◆前触れもなく飛び出した「ロビンパワー」って何?

 フェニックスチームとのシックスメンタッグマッチにおいて、ロビンマスクは謎の力、ロビンパワーを使ってガラスの破片から大きなベルを作りました。

 この突如飛び出したロビンパワーというパワーワードの威力はすさまじく、「ロビンパワー全開」と叫んで両手の中に隠しておいたベルを見せるという方法で、ロビンマスクのマネした子供も多かったです。

 ロビンマスクがこのような不思議な力を使えるという情報はこれまで一切なかったため、「ロビンパワーって何?」と驚いた読者がほとんどだったでしょう。しかし、ザ・サムライは知っていたようで、「風鈴の音色は実にいいものだのう」とロビンマスクにヒントを与えています。

 このアドバイスによって、ロビンマスクが思いついたのが風鈴作戦です。マスクの上から髪の毛を抜いて、それを束ねて糸にするとベルをマンモスマンの予言書に結び付けます。そして、リングのロープに結びつけられた糸を次々に指でチョンチョンと触っていき、ベルを鳴らすことでマンモスマンの予言書を探し当てました。

 ロビンマスクは過去にもロビン家の家宝であるアノアロの杖をマスクと融合させるなど不思議なことを普通にやってのけています。

 また、正義超人の中でもベテランで経験豊富という位置づけのため、「ロビンパワー全開」の一言でガラスの破片からベルを作り出すくらいできそうな説得力を持っているのも確かです。とはいえ、ロビンパワーがあれば何でも解決してしまいそうなので、この技を再び見る機会はおそらく訪れないでしょう。

 

 ──子供のころは普通に受け入れていたことが、改めて読み返して考えると疑問に感じることがあります。逆に疑問に思っていたことに対して、もっともらしい根拠が見つかることも。そのような疑問を考察して楽しむには、『キン肉マン』はうってつけといえるでしょう。

〈文/諫山就〉

《諫山就》

フリーライターとして活動中。漫画・アニメ・医療・金融などの記事、YouTube用シナリオを執筆・編集しています。

 

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