完璧超人は自分たちのことをパーフェクトな存在と称しており、他の超人を見下しています。しかし、そんな彼らもとんでもなくマヌケな行動が原因で負けたり、自分のしたことを完璧なまでに忘れていたりすることも。

 次の4つは、完璧であるはずの超人たちがおかしてしまった凡ミスです。

◆完璧超人の前にただの犬だったダルメシマン

 完璧・無量大数軍の1人ダルメシマンは、四次元空間からの脱出を試みようとしますが、犬の本能丸出しだったため『キン肉マン』シリーズの中でも最上クラスにマヌケな負け方をしてしまいます。

 試合中にブラックホールが負った傷口から元の場所に戻れると判断したまではよかったのですが、犬が大好きな牛や豚の骨の形であることから無意識にI字の傷を選んでしまい、まんまと待ち伏せされてマットに沈められました。

 とても完璧超人とは思えない、とんでもない理由での負けっぷりに完璧超人始祖編のアニメを観た視聴者も「ゆで理論全開だ!」と大喜び。ブラックホールからも、完璧な超人ではなく完璧な犬だとののしられてしまいます。

 ブラックホール対ダルメシマンの試合には、この他にもツッコミどころが満載。ダルメシマンはその名の通りダルメシアンをモチーフにした超人であり、体にある黒い斑点を操作(スペクルコントロール)して攻撃や防御をします。

 彼は黒い斑点を球体にして飛ばしてブラックホールの顔の穴に詰めることで、ハイパワー吸引を封じられると自信満々。しかし、ブラックホールは顔の穴よりずっと大きな超人自身を吸い込めるので、とても完璧超人が考えた策とは思えませんでした。

 しかし、どういう原理なのか説明はありませんが、このスペクル・ボムによってダルメシマンの思惑通りに球体が顔の穴に詰まってしまいます。そこは完璧超人のダルメシマンですから、きっとスペクル・ボムに特殊な仕掛けをしていたのでしょう。

 さらにはブラックホールが自分の影の中に入って繰り出す神出鬼没な攻撃に対して、唾で幕を作る唾液分泌(サリペーティング)シールドで対抗します。この技をダルメシマンは、太陽の光を唾の幕で遮ることで影をできなくすると説明。

 アニメでは無影灯と同じ原理だと、テリーマンが補足説明しています。つまり、唾液分泌(サリペーティング)シールドの本質は、唾の幕で太陽の光を乱反射させて多方向から照らすことで影をなくす(薄くする)技ということです。

 ダルメシマンの説明では唾液分泌(サリペーティング)シールドによる影ができるだけなので間違っているのですが、きっと凡人には理解できないと思ってシンプルに解説してくれたのでしょう。

 ダルメシマンはブラックホールに敗北して、悪魔超人に初勝利を献上するかませ犬の役目となっていました。試合中の言動においても完璧超人としては疑問がつくものが多いですが、ブラックホールの言葉通り犬としては完璧ぶりを発揮していたといえるでしょう。

◆完璧超人のちょっと何を言っているのか分からない格言

 完璧・無量大数軍のリーダー格であるストロング・ザ・武道が、得意げに披露していた「種に交われば種にあらず」という言葉。これは他の属性を持つ超人に感化された時点で完璧ではなくなるという意味であり、下等超人との交わりを否定する考えを示しています。

 しかし、「朱に交われば赤くなる」は付き合う人によって善にも悪にもなるという意味なので、完璧超人の割に結局は下等であるはずの人間が作ったことわざと同じような意味の言葉を述べているだけです。

「種に交われば種にあらず」のほうが選民志向の強い言葉ではありますが、要約すると優れた者である完璧超人同士で徒党を組めばより高みにたどり着け、劣っている者である下等超人と交流すれば堕落するということになります。しかも、完璧超人は掟によって下等超人に1度でも負ければ、その超人は完璧ではないと判断されて処刑される宿命。

 このことから、普段徒党を組んでいる完璧超人という枠組みもすごく曖昧なものであるといえます。今まで完璧超人として一緒に行動していたのに勝負に敗れて一瞬にして下等超人になるなら、それまでそのような超人と交わっていた時点ですでに「種に交われば種にあらず」の状態になっているといえるでしょう。

 完璧超人のリーダー格である存在は格言が好きなようで、ネメシスも「一度廻りはじめた水車は水が尽きるまで廻り続けなければならぬ」という言葉を口にしています。そして、水車が廻り始めた以上もはやそれは誰にも止めることができないのだ──っ」と豪語していました。

 しかし、風車にはブレーキがついているものもありますし、水流を変えれば意図的に止めることは簡単です。そのため、正義超人・悪魔超人対完璧超人の対戦も何とかブレーキをかけたり、話し合ったりして意図的に止められなかったのかと思ってしまいます。

 また、「水車はすでに音を軋ませ廻り続けている」と言ってるのに、戦いの舞台がなぜか乾いた鳥取砂丘だったのも少しピンと来ない原因でした。完璧超人であるならばもう少し説得力があり、なおかつ状況に適した格言を選んでほしいところです。

◆記憶力がヤバ過ぎる完璧超人

 夢の超人タッグ編でバッファローマンとモンゴルマンの2000万パワーズに負けたスクリュー・キッドとケンダマンは、完璧超人の掟に従ってネプチューンマンたちによって処刑されました。しかし、次の戦いでネプチューンマンとビッグ・ザ・武道が2000万パワーズに勝利したとき、「これでスクリュー・キッドとケンダマンの仇が討てました」ととんでもないセリフを口走ります。

 これには「自分たちで処刑しておいて~!」と、ファンからツッコミが入ったことは言うまでもありません。自ら手をかけたことを完全に忘れていたのであれば、完璧超人の記憶力はヤバすぎるでしょう。

 しかし、さりげなくスクリュー・キッドとケンダマンが死んだ原因をモンゴルマンたちになすりつける高度な策略だった可能性もあります。なぜならネプチューンマンはケンダマンを処刑するときに得意技である喧嘩スペシャルを使っているからです。自らのフェイバリットホールドを使っているわけですから、まさか自分が手を下したことを忘れるなんてないでしょう。

 そもそも彼らの処刑は、敵に後ろを見せてはならない、凶器を使ってはならない、負けてはならないという完璧超人の掟に違反したからでした。重要な掟に従って行った処刑を忘れているとは考えられません。

 そのため、スクリュー・キッドとケンダマンが敗れて、死ぬ原因を作ったモンゴルマンとバッファローマンこそ悪いという認識なのでしょう。自ら手にかけておいて彼らの死を堂々と人のせいにするなんて、完璧超人だからこそできる所業なのかもしれません。

◆完璧超人は凶器を使わないはずなのに……

 完璧超人には凶器を使ってはならないという掟がありますが、2000万パワーズに破れそうになったスクリュー・キッドとケンダマンは割れたガラスの破片を凶器として使って逆転をねらいました。この行動にネプチューンマンは激怒しますが、決勝戦のマッスルブラザーズ戦で凶器攻撃をやりまくります。

 決勝の舞台は、リングの周りに剣が突き出た板を敷き詰めたソード・デスマッチ。場外に飛ばされた超人はこのソードの餌食になるというとんでもない試合形式ですが、ネプチューンマンはキン肉マンの技から逃れるため、マグネットパワーで剣を引き寄せて突き刺していました。

 また、腕にソード板を張り付けてラリアットを浴びせ、マスクを削いでいくという凶行にも及んでいます。さらにはマグネットパワーで発生させた雷雲からの落雷をキャッチ、サンダー・サーベルと称してキン肉マンに投げつけ串刺しにしました。

 そもそもネプチューンマンは前面に針のついたベストを着ており、それで相手の背中を突き刺して後ろに投げるダブル・レッグスープレックスという技を得意としています。そのため、人の凶器攻撃に対してどうこう言える資格はないでしょう。

 ソード・デスマッチのソード板は運営側が用意したものであり、針ベストはネプチューンマンにとって正式なコスチュームです。サンダー・サーベルも自然現象を利用したものなので、凶器攻撃には含まれないという認識なのでしょうか。

 しかし、相方のネプチューン・キングがリングの鉄柱を凶器に使ったことに対して失望したなどと言ってしまうあたり、ネプチューンマンの倫理観がおかしいだけに思えます。もしくは完璧超人のパーフェクトな論理は、下等超人や凡人には理解が難しいのかもしれません。

 

 ──リアルな社会でも漫画でも、自分のことを完璧な存在であるなどと称する者はなかなかいません。なぜなら、必ずミスや矛盾が生じてしまうからです。

 しかし、それを成立させてしまうのが「ゆで理論」と呼ばれる独自のロジック。また、この理論をファンにすっかり浸透させて、『キン肉マン』を楽しむ魅力の一つにまで進化させたのは漫画界の偉業といえるでしょう。

〈文/諫山就〉

《諫山就》

フリーライターとして活動中。漫画・アニメ・医療・金融などの記事、YouTube用シナリオを執筆・編集しています。

 

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