『キン肉マン』の連載初期から現在まで続く「読者が考えた超人を採用する」企画からは、実は数多くの人気キャラクターが誕生しました。「あの人気超人」も読者が考えたキャラだった!?
◆ラーメンマン──“捨てキャラ”のはずが主役級に
人気超人でありスピンオフ作品も作られたラーメンマンですが、実は意外にも“捨てキャラ”として誕生したといいます。
初登場時のラーメンマンは、ブロッケンマンをキャメルクラッチで真っ二つにするという残酷な悪役として描かれました。
原作者のゆでたまご・嶋田隆司氏は『J-WAVE NEWS』で今年の9月に配信された「ゆでたまご・嶋田隆司×燃え殻の『キン肉マン』対談! 「次週も読みたくなる」演出とは?」という対談記事の中で、当時を振り返り、「読者の応募超人でした。最初は捨てキャラだったんですけど、子どもたちの評判がすごくよくて。」と語っています。
ゆでたまご・嶋田氏は2006年5月に『livedoor ニュース』で配信された「キン肉マン著者、ゆでたまご嶋田隆司先生ロングインタビュー」という記事の中で、ラーメンマンについて「単純なところで子供でも落書きしやすいですから」とコメント。キン肉マンと同じく、シンプルで誰もが描きやすいデザインを意識していたことを明かしています。このデザインは、ニャロメのように親しみやすいものにしたいというねらいがあったといい、こうしたシンプルさがラーメンマンの人気の大きな要因となったと考えられます。
その後、ラーメンマンはウォーズマンに敗れて一度は退場しました。ちょうどその時期、フレッシュジャンプで『闘将!!拉麺男』の連載が始まったため、「7人の悪魔超人編」ではモンゴルマンとして登場。同じ超人が異なる作品に同時に登場するのを避けたいというゆでたまご・嶋田氏の判断でした。そして王位争奪編で『闘将!!拉麺男』の連載が終了すると、ついにラーメンマンとして完全復活を果たしたのです。捨てキャラのはずが、スピンオフ作品の主人公になるまでの大出世を遂げました。
◆ウォーズマン──応募時の名は「デビルサタン」
旧ソビエト連邦出身のコンピューター超人・ウォーズマンも、読者投稿から生まれたキャラクターです。しかし、読者が応募した際の名前は「デビルサタン」というものだったことが、『キン肉マンⅡ世』第1巻「伝説の序章 偉大なる父・スグルを超えて!」の扉絵で明かされていました。
応募用紙には「手にハリがある」といったコメントが書かれており、現在のベアークローの原型となるアイデアが既に示されていました。この投稿を採用したゆでたまご・中井義則氏は、キャラクター名を「ウォーズマン」と変更。当時のジャンプ編集者・中野和雄氏からは「こんな物騒な名前にして、ソ連大使館に呼び出されても知らないよ?」と冷やかされたというエピソードが『キン肉マン』第55巻巻末特別企画「ゆでたまご先生への質問コーナーQ&A ゆで問答」で確認できます。
冷戦時代真っ只中に誕生した機械超人・ウォーズマンは、キン肉マンとの死闘を経て改心。のちにパロスペシャルを武器に活躍する人気キャラクターへと成長しました。ちなみにパロスペシャルは、イギリスのジャッキー・パロという選手の技をもとにしていますが、実は本家とは形が違っており、「体勢が逆だった」とゆでたまご・嶋田氏は前述の『livedoor ニュース』の記事で明かしています。
◆バッファローマン──編集の一言で“悪魔から英雄”へ
悪魔超人の象徴として登場したバッファローマンも、実は読者投稿から生まれたキャラクターです。当初、ゆでたまご側は「悪魔のままで終わらそうと思ってた」と、2006年7月に出版された『キン肉マン マッスルグランプリMAX PS2版 超人格闘奥義大全』(出版社:集英社)の中で語っています。
しかし、担当編集の「彼はいいヤツだと思うんだよな」という一言で、バッファローマンは改心する展開となりました。正義超人への転身を印象づけるため、バッファローマンはカツラを取るという衝撃的な演出が行われました。嶋田氏は「人間で言えば頭を丸めるという行為に近く、“正義超人に生まれ変わったんだ!”というのを示したかった」と語っていますが、このシーンは予想以上にネタにされてしまったそうです。
ちなみに、2020年6月にレザー製のバッファローマンのサポーターが株式会社キャステムから発売された際、ファンがTwitter(現X)で「革製だったのですね」とリプライした際、ゆでたまご・嶋田氏は、「鉄ですよ、鉄で作ったら重くて遊べ無いでしょ」とコメントしています。
◆読者と作り上げた“友情”の結晶
ゆでたまご・嶋田氏は、『キン肉マン』の創作スタイルについて興味深い証言を残しています。
『キン肉マン 7人の悪魔超人編 』第1巻において「“完全にみえたキン肉バスターやぶり!!”とバッファローマンが叫んだ時点では、まだどうやって破ろうか考えてなかった」と話しています。
こうした行き当たりばったりの創作こそが、80年代の『週刊少年ジャンプ』の熱気そのものだったと考えられます。
当時の『週刊少年ジャンプ』は『キャプテン翼』『北斗の拳』『ドラゴンボール』といった名作がひしめき、毎週のアンケートで1位を獲るのが最高の栄誉でした。ゆでたまご・嶋田氏は「誰にも負けるか」という気持ちで、読者の反応を見ながら展開を考えていったと、『J-WAVE』で今年の9月に放送された『BEFORE DAWN』内の燃え殻氏との対談の中で語っていました。綿密な計画よりも、現場の熱と読者の反応が物語を動かしていくライブ創作が作品の魅力を生み出していたといえます。
──ラーメンマン、ウォーズマン、バッファローマン……。彼らは作者の机上の設計図からではなく、読者の夢と投稿ハガキから生まれた超人たちです。『キン肉マン』が40年以上にわたって愛され続けるのは、作品に読者の魂が宿っていることも理由の一つと考えられます。まさに、『キン肉マン』は作者と読者がともに作り上げてきた、友情の結晶といえます。
〈文/コージ 編集/相模玲司〉
※サムネイル画像:Amazonより 『「闘将!! 拉麺男」第9巻(出版社:集英社)』




