『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(以下、『こち亀』) には、あまり知られていないマニアックな裏話が存在します。モテないように見えて、麗子をはじめ多くの女性と関わってきた両津勘吉ですが、なぜ長期連載の中で結婚できなかったのでしょうか? また、両津はどれくらい給料をもらっていたのでしょうか? 警察官の給料事情についても調べてみました。
◆『こち亀』のニッチな裏話
秋本治先生原作の『こち亀』が『週刊少年ジャンプ』に初めて掲載されてから、2026年で50周年を迎えます。
一度も休載することなく約40年間連載された同作には数多くの濃いキャラクターが登場しますが、意外にもあまり知られていない裏話が存在します。
●両津は19歳で刑事に昇格──尊敬する先輩が目の前で……
普段は派出所の巡査長として勤務している両津ですが、実は19歳で刑事に昇進していたことがあります。
このエピソードは1986年7月出版のコミックス第41巻と、テレビアニメ第122話で明かされており、若かった両津はTVドラマの影響で刑事に憧れ、上司の大原大次郎から助言を受け、指名手配犯を数多く捕まえて手柄を立て刑事課に配属されたのでした。
そのとき南部という先輩刑事の世話になることになり、南部は両津を弟のようにかわいがってくれました。
地道な聞き込みや張り込み捜査など、気の遠くなるような仕事に飽き飽きしていた両津を励まし、時には諭す南部でしたが、アニメ版では南部の婚約者が太田黒という男に手にかけられているというエピソードが追加されています。
太田黒の逮捕に向けて捜査を続ける二人ですが、ある時、両津の20歳の誕生日である3月3日に「朝まで飲み明かそう」と約束していると、太田黒が部下とともに姿を現しました。
南部が太田黒を捕まえようとしたとき部下の男が南部に発砲し、両津はそれを目撃してしまいます。
執念で犯人を全員逮捕した両津でしたが、大原から南部の殉職を知らされ、優しかった南部の笑顔を思い出して両津はその場で泣き崩れました。
その後、両津は「俺、何も分かっていなかったって気づいて……。お願いします!もう一度、ここで働かせてください!」と上司たちに頭を下げ、再び公園前派出所勤務となります。
元がギャグマンガのため原作でのラストは笑いのオチがついていますが、アニメ版では最後に現在の両津が南部の墓参りに行くシーンに変更されています。
同作は人が亡くなることがほとんどないため、このエピソードは『こち亀』屈指のシリアス回ともいえるでしょう。
●両津は19歳の女性警察官と結婚するはずだった?──作者が明かした「破談」の理由とは
一部の女性から熱狂的に愛された両津ですが、原作・アニメともに誰とも結婚することはありませんでした。
しかし、2000年12月放送のテレビアニメSP9「両さん、最大の危機!ライバルはチャキチャキ江戸っ娘」に初登場した19歳の擬宝珠纏(ぎぼし まとい)とは、紆余曲折を経て入籍直前まで至りました。
当初、新人警察官として配属された纏とはケンカばかりしていましたが、謹慎処分を受けた両津が纏の実家である高級寿司店で働くことになり、距離が縮まります。
ですが、両津の祖父・勘兵衛と纏の祖母・夏春都(げぱると)が80年以上絶縁していた実の兄妹であることや、両津が擬宝珠家のお宝を売ろうとしていたことが発覚して結婚は破談に。
秋本先生は2004年11月出版の『両さんと歩く下町――「こち亀」の扉絵で綴る東京情景』(出版社:集英社新書)で、破談の経緯について「両さんと纏が本当に結婚したら、『こち亀』という作品自体にオチがついてしまう」「又いとこだったことを明らかにして、好き嫌いの関係とは違う身内どうしにしてしまったわけです」と明かしました。
詳しく読む⇒『こち亀』4つの裏話 「中川と麗子の制服のヒミツ」「両津が結婚できないホントの理由」ほか
◆両津勘吉の「給料」はどれくらい? 警察官の「ボーナス」は高い? それとも……
TVアニメ『こち亀』では、たびたび金欠の両さんこと両津勘吉の姿が描かれていましたが、警察官はどれくらい給料をもらっているのでしょうか。
また、両津が自分のボーナスを守るべく亀有商店街の人々と熾烈な争いを繰り広げる、通称「ボーナス争奪戦」の様子が作中では描かれていましたが、警察官のボーナスの金額はどれくらいなのでしょうか?
●警察官の給料はどれくらい?
警察官の仕事は危険がつきものであったり、勤務時間が不規則だったりすることから、一般企業などと比べて平均給与が高く設定されているケースが多いです。
警察官の平均的な月給は32万5,987円であることが「地方公務員給与実態調査 」で分かっています(総務省、2022年4月発表)。
加えて公務員なので、有給休暇や各種手当、年功による昇給、単身者向けの寮の完備といった、さまざまな制度が充実。倒産やリストラの心配もありません。
両津の給料に関しては、作中で通帳の金額が原作の第77巻で具体的に描かれていたことがあり、毎月、多少の違いはあるものの、31〜32万円がしっかりと振り込まれていました。
SNSをはじめとするインターネットでも「両津の常人離れした能力を考えたら安すぎる」「35歳の巡査長としては高いほうでは?」などの意見が見受けられます。
犯罪者の検挙率が高い一方、勤務態度に難のある人物ですので、妥当か否かの判断は難しいようです。
●「ボーナス争奪戦」のボーナスの金額ってどれくらいだったの?
実は両津のボーナスの金額も、先述した通帳のシーンで給与とともに具体的な数字が記帳されています。その額、82万8,862円。亀有商店街で、争奪戦を繰り広げるに相応しい大金といえます。
一般的に、公務員のボーナス額は次のような計算で、毎年2回(夏季・冬季)支払われます。
・(基本給+扶養手当+地域手当)×支給月数
基本給(平均給与月額)に扶養手当と地域手当(物価の高い地域で勤務する公務員へ支払われる手当)を足した額を基本として、その金額に定められた支給月数(●ヵ月分)を掛けたものが、個人のボーナス額です。
基本給は役職や年齢などによって、手当は家庭の事情や居住区域などにそれぞれ影響されますので、他者とまったく同じになることはほとんどありません。
両津の平均給与月額は、既に32万円前後であることが作中で分かっており、確かめられる限りの数字で平均を取ると、約32万1,525円です。ほぼ警察官の平均月収と同じだといえます。続いて手当と支給月数の部分も考えていきます。
葛飾区は地域手当が支給される区域であることが、葛飾区条例第9号 で分かっており、「地域手当の月額は、給料、管理職手当及び扶養手当の月額の合計額の『100分の20』の範囲内の額とする」との記載もあります。
巡査長は正式な役職ではないため管理職ではなく、また、両津は独身なので扶養手当は発生しません。
以上のことをふまえて考えると、給料約32万1,525円の「100分の20」の6万4,305円が地域手当の額となります。
計算式のうち、基本給を32万1,525円、扶養手当を0円、地域手当を6万4,305円として、あとはこれらの合計金額の38万5,830円を何倍すればいいのかを決めると、巡査のボーナスの金額を求める式が完成します。
公務員の給与法によると、現在の地方公務員はボーナス1回で2.2か月分の金額がもらえます。そのため、巡査のボーナスを求めるときは次の式が最も近い数値となるでしょう。
・38万5,830円×2.2=84万8,826円
巡査のボーナスの予想金額は、実際の両津のボーナスより2万円高くなっています。
詳しく読む⇒『こち亀』両津勘吉の「給料」はどれくらい?警察官の「ボーナス」は高い?それとも……【警察官のお金事情】
〈文/アニギャラ☆REW編集部 編集・監修/水野高輝(元マネーメディア コンテンツディレクター)〉
※サムネイル画像:Amazonより 『「こちら葛飾区亀有公園前派出所」第50巻(出版社:集英社)』