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 2016年に惜しまれつつ連載終了した国民的ギャグ漫画『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(以下、『こち亀』)。作者といえば秋本治先生ですが、実は連載開始当初、現在とはまったく異なる“あるペンネーム”で執筆されており、さらにその改名の裏には、意外な理由が隠されていたのです。

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◆大ヒット作のパロディだった? 幻のペンネーム「山止たつひこ」

 『こち亀』の作者名は「秋本治」先生です。しかし、1976年の連載開始からしばらくの間、ジャンプ本誌や単行本にはまったく別の名前が掲載されていました。その名はなんと「山止(やまどめ)たつひこ」。

 連載30周年記念本『超こち亀』(出版社:集英社、2006年9月出版)で語られたエピソードによると、この名前は当時『がきデカ』で爆発的な人気を誇っていた漫画家・山上たつひこ先生のパロディだと明かされています。秋本先生が新人賞に応募する際「交番に勤務する警官が主人公だから、名前も『山上(止)』でいいか」という軽いノリで付けたのが始まりだといわれています。

 しかし、連載が軌道に乗るにつれて、さすがにこの紛らわしいペンネームは問題視されるようになります。山上たつひこ先生側から「紛らわしい」というもっともなクレームが入ったことをきっかけに、連載100回目を迎えるタイミングで、作者名は本名の「秋本治」へと変更されることになりました。

 そのため、コミックスの第1巻から第6巻までの初版などは、現在も「山止たつひこ」名義で発行されたものが存在しており、マニアの間では高値で取引されるコレクターズアイテムとなっています。

 面白いのは、このピンチに対する秋本先生の対応策です。突然作者名が変われば読者が混乱してしまうと考えた先生は、作中に新キャラクターとしてヒロインの「秋本・カトリーヌ・麗子」を登場させました。人気キャラの名前に自身の苗字である「秋本」を冠することで、読者に自然と新しいペンネームを馴染ませてしまったのです。

 改名というネガティブになりかねないトラブルさえも、新キャラクターの登場というプラスの要素に転換し、作品の世界観に溶け込ませてしまう。この柔軟な発想と編集的なセンスこそが、のちに40年続く長寿連載を支える土台となったのではないでしょうか。

 

 ──「山止たつひこ」から「秋本治」への改名。それはたんなるトラブル処理ではなく、作品がパロディの枠を超えてオリジナルの国民的漫画へと脱皮する重要な転換点でした。この一件で見せた「転んでもただでは起きない」したたかな精神こそが、厳しい週刊連載を40年間も走り抜くことができた最大の原動力だったのかもしれません。

〈文/凪富駿〉

《凪富駿》

アニメ・漫画に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。特にジャンプアニメに関する考察記事の執筆を得意とする。作品とファンをつなぐ架け橋となるような記事の作成がモットー。

 

※サムネイル画像:Amazonより 『「こちら葛飾区亀有公園前派出所」第2巻(出版社:集英社)』

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