『薬屋のひとりごと』はアニメで語りきれていない設定が多く、原作者の日向夏先生は読者からの疑問に答える形でさまざまな裏事情を明らかにしてくれています。時代設定や猫猫のモデルとなった意外な人物、彼女の胸や体毛が薄い理由とはいったいどのようなものなのでしょうか。

◆原作者と公式で時代設定の見解が異なる?

 ヒーロー文庫の『薬屋のひとりごと』の公式Webサイトにある、「中世の宮中を舞台に毒味役の少女が難事件の謎を次々に解決」という紹介文を素直に受け取るならばこの作品の時代設定は中世です。しかし、作中では一度も中世とは記されておらず、なんと原作者もこの時代設定を否定しています。

 日向夏先生はX(旧Twitter)で「薬屋は近世のつもりで書いてるので、古代でも中世でもないよ」と明かしており、実際に猫猫がチョコレートを作っているシーンがありました。逆に中国では6世紀頃までしか使われていない木簡が登場しています。

 これに関して『薬屋のひとりごと』はあくまで架空の世界を舞台としたストーリーであり、時代設定については「場合によってふわっと」させているとのことです。服装は日向夏先生が好きな唐の時代のものを参考にしており、科学知識は19世紀くらいまでのものが用いられています。

 つまりは時代的にあり得ないからこの展開は難しいとなるより、時代設定にとらわれずストーリーを重視したいという考えなのでしょう。ただし、物語の根幹となる毒についてはきちんと時代を調べてありえる物を使っているそうです。

 では、なぜヒーロー文庫の公式Webサイトでは「中世」のままになっているのでしょう。これについても日向夏先生はXで触れています。

 その答えは「中世のほうが耳馴染みがよく、浪漫があるっぽいし、16世紀までを中世とするところもあるので修正してもらっていない」とのことです。ガチガチにこだわり過ぎず、良い意味でふわっとさせていることが、次々とおもしろいストーリーを展開させていく秘訣なのでしょう。

◆猫猫の意外なモデルと玉葉妃の納得のモデル

 猫猫にはモデルとなった人物がいますが、それは中国の歴史上の人物やお姫様などではありません。原作者の日向夏先生がXで明かした彼女のモデルの正体は、なんと沖縄あたりにいたおじさんです。

 そのおじさんは蛇の毒を身体に入れて血清の材料を作っていた人だそうで、作中で猫猫が試していたことを実際にやっていたことになります。モデルがおじさんだったというのも意外ですが、猫猫のマッドサイエンティストぶりをリアル行っていた人がいたことにも驚きです。

 また、猫猫の名前の由来についても意外な理由がありました。彼女は好奇心旺盛で、作中でもケモ耳を生やしたり口元が猫のように描かれることも多いです。

 そのため、名前の由来についても猫と関わりがあると思っている人も多いでしょう。しかし、実際は「猫猫の漢字変換がしやすかった」という実にシンプルな理由で名付けられたとのこと。

 モデルも名前の決め方も意外な猫猫に対して、玉葉妃の設定となった人物は納得感が高いです。彼女のモデルは楊貴妃と『十二国記』の玉葉とされています。

 玉葉妃の美しさを考えると楊貴妃がモデルというのはしっくりきますし、明るく前向きなところなど性格は『十二国記』の玉葉と重なる部分も多いです。玉葉妃のモデルについては、外見はもちろん内面についても納得といったところでしょう。

◆猫猫と白鈴の身体の秘密

 猫猫の胸が薄いのはアニメでもはっきりと分かりますが、実は体毛も薄い設定となっています。これらの原因は毒と彼女が育った緑青館にありました。

 猫猫の胸がかなり小さいことに関しては、日向夏先生がXで「どうでもいい猫猫の設定」として触れており、「成長期に毒食らいすぎて栄養失調に近かっため成長が阻害されている」のが胸の小さい理由とされています。

 彼女が小柄なのも同じ理由だと思われ、太れば胸ももう少し大きくなるようです。また、アニメでは分かりづらいですが、猫猫は体毛も薄い設定となっています。

 これは緑青館の妓女が入るお風呂に、体毛を生えないようにする薬が入っているのが原因です。彼女は生まれたときからそのお風呂に入っているため、体毛が薄くなっています。

 改めて小柄で胸が小さい、体毛もすごく薄いことを考えると、実は猫猫の外見のロリ属性はかなり高いのだと気づかされます。それとは真逆に立派なボディを持っているのが売れっ子妓女の白鈴。

 彼女と一夜を過ごす料金は銀300枚と、同じ三姫の梅梅や女華と比べてかなり安くなっています。これは白鈴の男グセが悪すぎて、やり手婆もあきらめて一定量男を与えているからだそうです。

 そうでもしないと飢えて店の男衆をはじめ、ほかの妓女や禿にまで手を出す始末。男のタイプも筋肉質で夜長持ちする人が好きという好色家です。

 さらに妊娠していないのに母乳が出る特異体質で、猫猫は彼女の母乳で育てられました。白鈴の母乳で育ったのなら胸も立派に育ちそうですが、成長期に取り込んだ毒はそれほど強烈で量が多かったということなのかもしれません。

◆杏の存在感を際立たせる第1期のアニオリシーン

 梨花妃の侍女頭でありながらアニメ第2期でいきなり現れた感がある杏。実は第1期から既に何度か登場しており、そこには梨花妃が我が子を失う原因となるアニメオリジナルのシーンもありました。

 杏はアニメ第1期の第1話に登場しており、「おしろいは毒、赤子に触れさすな」と書かれた布が結びつけられた石楠花を放り捨てた人物です。これはアニメオリジナルのシーンであり、原作では猫猫が置いた花はきちんと回収されました。

 しかし、端女の警告だと軽んじられて信用されなかったため、梨花妃陣営は対策を取らずに子供を死なせてしまう流れとなっています。杏は梨花妃と同年齢の従姉妹であり、皇帝に連なる一族の娘です。

 そのため、皇帝に選ばれれば彼女が妃になっていた可能性もありました。そのため、侍女頭でありながらジェラシーから悪意を募らせており、妊娠した梨花妃を堕胎させようと画策。

 このことから猫猫の警告についても、故意に花を捨てたのではという疑念も浮かびます。しかし、アニメオリジナルのシーンで彼女は、花に結びつけられた布の文字は見ておらず、おそらく単純にゴミだと思って捨てたのでしょう。

 また、彼女はアニメ第1期の園遊会では梨花妃の後ろに侍女頭として控えており、第2期の月の精の宴にも同行しています。要所では顔をのぞかせていた杏ですが、第1話のアニメオリジナルシーンを振り返ってみると、彼女の存在感を際立たせる効果的な伏線だったといえるでしょう。

 また、梨花妃がおしろいの毒に侵されていたときに、仮にも侍女頭である杏が看病をしていなかったことに疑問を感じた視聴者も多いと思います。あのとき彼女がいたら猫猫との衝突は必至。

 ほかの侍女と違って猫猫の自由にはさせなかったでしょうから、そうなった場合梨花妃の命も危なかったと考えられます。これに対して日向夏先生はXで「一期で杏ちゃんがほぼ出なかったのは、仮にも皇族の傍系なので梨花ちゃんの病がうつってはいけないから、看病してなかった」と答えています。

 先述したように彼女は皇帝に気に入られれば、梨花妃に代わって妃に選ばれていた可能性がありました。そのような人物なので、病状にあった梨花妃から遠ざけられていたのでしょう。

 

 ──SNSが発達したことでファンの質問に気さくに答えてくれる原作者も多くなってきています。それによって作品の裏設定や隠された魅力などを気軽に教えてもらえることは、ファンにとってはうれしい限りです。

〈文/諫山就 @z0hJH0VTJP82488

《諫山就》

アニメ・漫画・医療・金融に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。かつてはゲームプランナーとして『影牢II -Dark illusion-』などの開発に携わり、エンパワーヘルスケア株式会社にて医療コラムの執筆・構成・ディレクション業務に従事。サッカー・映画・グルメ・お笑いなども得意ジャンルで、現在YouTubeでコントシナリオも執筆中。

 

※サムネイル画像:https://kusuriyanohitorigoto.jp/season2/episodes/27.phpより


アニメ「薬屋のひとりごと」公式サイト
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