TVアニメ『薬屋のひとりごと』の第2期も折り返しを迎えて佳境へと向かっています。すっかり見慣れてきた新OPテーマはMrs.GREEN APPLEの「クスシキ」が起用されていて、アニメーションが誰の視点なのかや歌詞の意味など、そのわずかな映像からも既にファンの間でも話題になっています。

 一方でこの新OPテーマで不可解な印象を残すアイテムが登場しています。それがキツネのお面。劇中に登場していないので、そもそも猫猫の世界観にこういったアイテムが存在するのか(勘違いされがちですが、『薬屋のひとりごと』は古代中国風の世界観ですが、舞台は架空の国)といった驚きや、お面だけが3DCGで制作されていてやけに浮いているといった点が気になります。

 実はこの演出には一つ思い出すTVアニメ作品がありました。

◆類似した演出が「あのアニメ」のOPに登場していた!?

 実は『薬屋のひとりごと』のように、2Dのキャラクターたちに3DCGのお面が重なる演出を設けたアニメーションが過去に存在します。それが2002年にテレビ東京系列で放送されたTVアニメ『スパイラル-推理の絆-』です。

 このアニメは当時、『月刊少年ガンガン』で連載されていた『スパイラル〜推理の絆〜』を原作にアニメーション化した作品で、主人公の高校生・鳴海歩と先輩の結崎ひよのがある謎を追う“ミステリーアドベンチャー”でした。そんな本作のTVアニメのOPテーマに、今回の「クスシキ」と似たような演出が登場しています。

 『スパイラル-推理の絆-』のOPは、Strawberry JAMの「希望峰」に合わせて歩たちの2Dイラストに、3DCGによるさまざまなエフェクトが加わるイメージ映像のような雰囲気がただよう内容です。

 真っ白な背景に影が伸びていくと形が屈折して段差が浮かび上がったり、画面がパズルピースのように分散していったりと、ミステリー要素を連想させる演出になっているのですが、その中で登場人物たちのイラストに3Dの質感のマスクがスライドしていくという演出も登場。その中には和風の動物のお面も登場しており、映像の質感の違いや登場人物と重ねる演出など類似した印象があります。

 実はお面以外にも、白い背景に佇む猫猫の足元から時計のような盤面や足元の影らしきものが蝶になっているといった演出も、もしかすると『スパイラル-推理の絆-』の影の演出のオマージュにも思えます。

 同じスクウェア・エニックス系列の雑誌での連載であったり、推理ミステリー物という共通点があったりするからこそ、これらはねらった演出だったのかもしれません。

◆実は『スパイラル-推理の絆-』は驚きの人物が手がけたOP映像だった!

 そして実はこの『スパイラル-推理の絆-』は知る人ぞ知る“すごいOP映像”として語られる映像でもあります。

 というのも、このOP映像では“作画枚数”……、つまり映像のために制作された絵の枚数が極端に少ないことで有名です。

 昨今、OP映像では目まぐるしく場面を変えてスピード感を出したり、エフェクトを盛り込んで映像を華美にした作品が多いですが、『スパイラル-推理の絆-』ではその逆で、シンプルであまり登場人物が動かない映像ですが、3DCGや演出、カットの切り方などで工夫して見応えを生んでいます。

 その作画枚数の少なさは、誰もが一目瞭然というほど、不自然なほどにキャラクターが動かないので、すぐに分かります。予算の都合などもあったことは想起させますが、その少ない作画枚数を気にさせずに魅せる映像を作り上げてしまうのは見事です。

 『スパイラル-推理の絆-』のOP映像を手がけたのは橋本カツヨさんという人物です。アニメ『少女革命ウテナ』などに参加したほか、TVアニメ『サムライチャンプルー』のOP映像などにも携わっているのですが……、実はこの橋本カツヨさんという名義は、『サマーウォーズ』や『竜とそばかすの姫』の監督でも知られる細田守監督が、絵コンテを担当する際に使っていたとされる名義です。

 細田監督は今のような名監督として知られる以前から、今作のような尖った映像作品を生み出していたのです。そういった背景を踏まえると、今回のOP映像もそういったクリエイター側に対するリスペクトの表れなのかもしれません。

 ちなみに「クスシキ」のオープニング映像の絵コンテ・演出を担当したのは、『薬屋のひとりごと』の本編の制作にも参加しているアニメーター・ちなさん。『TOHO animation ミュージックフィルムズ』というオムニバス企画にて最年少で監督に選出されたりと既に大活躍をされている人物です。本編だけでなくOP映像の中にも広がりや発見が隠れているものなのです。

〈文/ネジムラ89〉

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteでは『アニメ映画ラブレターマガジン』を配信中。X(旧Twitter)⇒@nejimakikoibumi

※サムネイル画像:YouTubeチャンネル『TOHO animation チャンネル』より


アニメ「薬屋のひとりごと」公式サイト
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