<この記事には原作・TVアニメ『薬屋のひとりごと』のネタバレが含まれます。ご注意ください。>

 TVアニメ『薬屋のひとりごと』の第46話「禁軍」では、ついに子の一族を制圧するための戦の火蓋が切られました。驚きのポイントはこれまではミステリー作品だった本作に、戦記物というジャンルが加わり、これまでにない展開を迎えていることです。

◆もはや戦記物! 本格的な戦いが描かれる展開に衝撃

 これまでの『薬屋のひとりごと』といえば、日常的なやり取りの中で発生する事件を主人公の猫猫(まおまお)が解決していくというミステリー仕立ての作品でした。

 第1期でも一つひとつの事件が実はクライマックスへとつながっていて、壬氏(じんし)の命をねらう大きな事件に関係しているという盛り上がりを見せていきました。

 しかし第2期はその盛り上がりもさらにスケールアップ。第40話より後宮から猫猫は姿を消すことになり、猫猫は子翠や翠苓の真実を探っていき、壬氏は行方不明の猫猫の行方を明らかにするという物語が二つの軸で展開していくようになります。

 第2期も始まってしばらくは1話完結エピソードが続いていたのですが、このころから長編へと物語が変わっていき、第2期もクライマックスを迎えているのだと感じられましたが、想像以上に物語の規模も人間関係も変容しています。

 特に第46話はこれまでのエピソードでは描かれてこなかった“戦争”の描写が描かれているのが衝撃的です。

 帝の直轄の軍隊である禁軍を率いているのは壬氏です。子の一族の制圧が具体的に描かれるのですが、場面としてはわずかではあるものの、直接的に兵士たちが敵を斬りつける過激な描写が登場しています。これまでのミステリーものとは一線を画す場面の登場に驚いた人も多いでしょう。

◆改めて思い知るジャンルを横断する『薬屋のひとりごと』のスゴさ

 第46話は『薬屋のひとりごと』という作品がこんなこともできる、というポテンシャルの大きさをさらに見せつけるエピソードだったといえます。

 これまでは異世界──とは言いつつも古代中国風の日常系作品の雰囲気もありつつ、謎解きもあったり、さらにそこには教養も秘めていたりと既にその内容は充実していましたが、ここに来てしっかり“戦争”も描くという展開に、『薬屋のひとりごと』のジャンルにとらわれない縦横無尽さが表れています。

 あくまでも『薬屋のひとりごと』は架空の国、架空の時代を舞台にした作品ではありつつもやはり古代中国の設定などを踏襲しているのがまた面白い点です。

 サブタイトルにもなっている“禁軍”は実際に皇帝直属の軍を意味する用語として存在しています。設定などのディテールに他の“異世界物”とはまた違ったリアリティがあるところが見応えにつながっているといえます。

 そして忘れてはいけない本作の顔がもう一つあり、それが“恋愛”要素。ここにきてそのジャンルとしても大きく進展を見せています。

 『薬屋のひとりごと』は猫猫と壬氏のラブコメ的な見方もできる作品で、実は位の高い壬氏が猫猫を気に入って時には構ったり、時には翻弄されたり──。一方の猫猫も自慢の機転でいつも事件を解決できてしまうのに、壬氏の正体に至ってはなぜかタイミングもいいのか悪いのか気づくことがなく、気づいても「そんなわけない」と片付けてしまうオチに着地してしまうのがいつものことでした。

 そんな『薬屋のひとりごと』の定番の展開がここにきて覆ります。宦官であればそこにいるはずのない壬氏が、禁軍を率いて堂々と猫猫の前に現れ、ついには「東宮(皇太子の意味)」と呼ばれているのを聞いて、猫猫もついに壬氏の正体に気づきました。

 ストーリーも第50話に迫まり、やっと主人公が真実を知るという衝撃の展開のはずなのですが、『薬屋のひとりごと』のすごいのは、そこからもさらに“スカして”くるところです。

 猫猫はまったく狼狽えたりせず、「老けてるんですね」とあまり顔色を変えず接するという展開を迎えます。

 猫猫からはそこまでの強い好意が向けられていない、この感じがいつも通りで安心する一方、真実を知った以上「これまで通りの関係ではいられない」ことも事実であり、逆になんだか尊く感じられるやり取りにも見えました。

 ──シリーズとしても大詰めを迎え『薬屋のひとりごと』はファイナルビジュアルを発表しており、そこには鎧に身を包んだ壬氏と「そして、夜が明ける。」のフレーズが並んでいます。まさに物語は現在夜の最中。第2期の本当のフィナーレは夜明けと共にやってくるのでしょうか。もはや戦記物に踏み込んできて、さらには猫猫と壬氏の関係にも決定的な変化が生まれてしまった本作がどんな最後の着地を見せるかは必見となりそうです。

〈文/ネジムラ89〉

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteでは『アニメ映画ラブレターマガジン』を配信中。X(旧Twitter)⇒@nejimakikoibumi

 

※サムネイル画像:https://kusuriyanohitorigoto.jp/news/588/より 『薬屋のひとりごと 第2期キービジュアル ©日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会』


アニメ「薬屋のひとりごと」公式サイト
©日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会

※タイトルおよび画像の著作権はすべて著作者に帰属します

※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

※無断複写・転載を禁止します

※Reproduction is prohibited.

※禁止私自轉載、加工

※무단 전재는 금지입니다.