『薬屋のひとりごと』のTVアニメ第1期で、壬氏の命を奪うべく動いていた翠苓。しかし、動機は明らかになっておらず、その裏に真犯人がいることは間違いないでしょう。そこで壬氏の命を狙った黒幕や犯行動機について考察していきます。
◆複雑に絡み合った巧妙な計画
壬氏は落下して来た祭具の下敷きになるところを猫猫に助けられましたが、この計画の裏で糸を引いていたのが翠苓でした。彼女は自身が表に出ないようにしながら、事前に4つの仕掛けを仕組んでいました。
TVアニメ第9話では、祭具の管理者だった高官が突然死。原因は酒の飲み過ぎとされていましたが、猫猫の調べによって味覚障害だった被害者の飲む酒に大量の塩を入れたのではないかという疑念が生じます。
第14話では粉塵爆発による倉庫のボヤ騒ぎの裏で、祭具が盗まれるという事件が発生。さらに第15話では祭具の管理者が食中毒で昏睡状態になります。
この結果、前管理者に代わって何者かが新しい祭具を発注することになるわけです。しかし、その製作は第16話にでてきた低温で溶ける金属を編み出した職人のもとに依頼されることになりました。
この細工によって壬氏の儀式中に祭具が上から落ちて来る事態となり、猫猫が間一髪のところで救います。これら一連の事件に翠苓が関わったとされており、彼女は自ら命を断つことを決断。
火葬されてしまえば壬氏を狙った動機や詳細は、そのまま墓の中まで持って行かれる予定でした。しかし、翠苓によって蘇りの薬の存在について匂わされていた猫猫が、一時的に仮死状態になって彼女が逃げ出していたことを暴きます。
翠苓が実行犯であることは間違いないですが、彼女が消えたことで真相は謎のまま。動機も不明でこれだけ大きな計画を企てているので単独犯とは考えづらく、背後に黒幕がいるとしたらいったい誰なのかが気になるところです。
◆思わせぶりな登場をした漢羅漢だったが……
猫猫に陰から不審な視線を向け、怪しげな雰囲気たっぷりに思わせぶりな登場をした漢羅漢。壬氏にもやたらとちょっかいを出して何か陰謀を腹に秘めている様子でしたが、彼はただのひねくれた性格の親バカでした。
羅漢は人材登用力に長けており、自らの実力で国の重鎮になるまで出世しています。その地位を利用しながら、好ましく思っていない壬氏にたびたび面倒ごとを持ち込んでいました。
その嫌がらせは、壬氏の仕事を滞らせるほど。明らかに敵意があり、羅漢が壬氏の命をねらっているのではないかという疑惑を匂わせるポジションでした。
しかし、彼が猫猫の実の父であることが分かったことで、その可能性はなくなります。ふたを開けてみると、娘にやたらとちょっかいを出している壬氏が気に入らないだけの親バカだったのです。
また、祭具の細工に気が付いて壬氏を助けようとする猫猫を門番が阻んでいたとき、彼女が儀式の場に入れるように取り計らったのが羅漢でした。もし彼が壬氏の命を狙う一派の者であれば、そのような行動をとるわけがありません。
このことから羅漢が、壬氏を狙った犯人の一味である可能性は完全になくなったと考えてよいかもしれません。
◆逃亡した実行犯の翠苓は黒幕と利害が一致?
実行犯である翠苓は仮死状態になる蘇りの薬を飲んで、皆の目を欺いて宮廷から脱走したため今後もストーリーに大きく絡んでくるでしょう。そのため、彼女の背景や動機なども明らかになってくるはずです。
まず彼女が単独犯なのか黒幕がいるかですが、個人的な怨みによる単独犯であればもっと確実で直接的な手段をとっていたと思われます。作中でも猫猫が触れていましたが、壬氏を狙った計画は4つの要素が複雑に絡み合っていることから確実性が乏しいです。
このことから壬氏の命を確実に奪うより、正体を隠しておきたいという思いのほうが強いように感じられます。また、翠苓が自死を装ってまで逃亡をはかっているのは、捕まって情報を吐かされるのを避けたのでしょう。
壬氏の襲撃に関して彼女がお金で雇われたとしたら、あまりに無謀で命を賭けすぎです。つまり、翠苓にも何かしらの動機があり、黒幕とそれが一致していることから彼女が実行犯になったと考えられます。
◆ミステリアスな楼蘭妃
TVアニメ第1期の後半に阿多妃と入れ替わりで柘榴宮に入った楼蘭妃は、ミステリアスできな臭い雰囲気をまとっている淑妃です。TVアニメ第1期で壬氏の命を狙った黒幕を匂わせるとしたら、登場タイミングや得体の知れない点を考えて彼女である可能性が高いと思われます。
楼蘭妃はまだ謎に包まれた部分が多いため、彼女自身に強い動機があるのか彼女の家が動機に関係しているのは不明です。
しかし、TVアニメ第1期では壬氏の正体が高貴な者であることがたびたび匂わされており、羅漢は彼に対して「あなたさまに逆らえる者など、片手の指ほども存在しない」と発言しています。
猫猫は壬氏が阿多妃の息子であり、赤ん坊のときに先帝の子供と入れ替えられたのではないかと推測していました。このことから壬氏は皇帝の血族である可能性が高く、命をねらわれた原因も出自にあるのだと思われます。
一方の楼蘭妃は父の子昌とともに園遊会に参加していました。このとき、壬氏は何を考えているか分からないと子昌に警戒心を抱いています。
子昌は女帝と呼ばれた先の皇太后の寵愛を受ける男で、現皇帝にとってはいまでも頭が上がらない存在です。このことから子昌や楼蘭妃が、政敵となる壬氏を快く思っていないという可能性は十分考えられるでしょう。
TVアニメ第1期の内容からしても『薬屋のひとりごと』は、絶妙な伏線や複数の事件が複雑に絡みあったストーリーとなっています。そのため、壬氏の命を狙った黒幕について第1期で何も匂わせていないとは考えづらいです。
TVアニメ第2期でひょっこり初登場した、これまでのキャラクターとまったく関係ない人物が犯人でした……なんていう展開にはならないハズ……。壬氏を狙っているのは楼蘭妃もしくは彼女に関係のある人物であり、翠苓もこの一族とつながっているのだと考えられます。
──TVアニメ『薬屋のひとりごと』は、猫猫が毒や薬にまつわる事件を解決していく1話もしくは2話完結のような構成となっています。しかし、そこに壬氏の正体やそれに絡む陰謀が縦軸として存在するため、より重厚で見応えあるストーリーになっているといえるでしょう。
〈文/諫山就 @z0hJH0VTJP82488〉
《諫山就》
アニメ・漫画・医療・金融に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。かつてはゲームプランナーとして『影牢II -Dark illusion-』などの開発に携わり、エンパワーヘルスケア株式会社にて医療コラムの執筆・構成・ディレクション業務に従事。サッカー・映画・グルメ・お笑いなども得意ジャンルで、現在YouTubeでコントシナリオも執筆中。