近年、中国のアニメーション作品も続々と日本での放送が始まっていますが、この10月から始まった『羅小黒戦記』のTVアニメの放送は、日本での放送ができたことに驚きを感じる作品です。その理由とは、実は本来は著作権的にも危うい演出が多数盛り込まれていたからです。
早速放送された第1話では、大きな改変が実は施されていました。
◆本当は「ジブリパロディ」が盛り込まれていた? 第1話の驚きのポイント
<画像引用元:TVアニメ『羅小黒戦記』ポスタービジュアル (C) Beijing HMCH Anime Co.,Ltd >
10月5日から放送が始まったTVアニメ『羅小黒戦記』はやはり、元のバージョンから改変されたバージョンになっていました。
TVアニメ『羅小黒戦記』はもともとWebシリーズとして2011年から動画配信サイトで公開されていた自主制作作品です。個人的な製作物だったこともあり、今回の放送に合わせて中国で配信された当時のものから、いくつかのシーンがオリジナル版から変更されていました。
たとえば、第1話の中ではシャオバイが夢を見て王子様に出会うシーンがあります。実はこのシーンは本来のバージョンでは明らかに映画『ハウルと動く城』のハウルらしきキャラクターとそのメインテーマが流れていました。個人製作だからこその演出で、本来であれば著作権的にはNGなパロディだったのですが、やはり今回の放送ではハウルとははっきりとは分からないような装飾もなく色も変えられた別のキャラクターへと修正されていました。
『羅小黒戦記』は本来こういったパロディ要素がふんだんに盛り込まれたアニメシリーズだったのですがTVアニメシリーズでは、さすがにそういった一般商業的に展開する作品としてそのまま放送するわけにはいかなかったようです。
一方で日本向けのパロディだけが対象なのか、一部の中国作品のパロディについては今回の日本版でも当時と同じようにそのまま放送されています。
たとえば、シャンシンがオンラインゲームで遊んでいるシーンに登場する牛型のキャラクターはオンラインゲーム『我叫MT』のキャラクターだったり、背後に登場する赤い動物の様なキャラクターは「阿狸」と呼ばれる中国で人気を博したキャラクターだったりします。
パロディのすべて排除されているわけではなさそうなので、こういったディティールからもオリジナル版の濃密なパロディギャグを元ネタは分からないまでも雰囲気だけでも体験してみてください。
◆第1話だけでなく今後も著作権的に気になる回が存在する?
今回のようなパロディ要素は、第1話で収録されたエピソード1〜4までだけでなく、今後放送予定のエピソードでも多く盛り込まれています。
中でも登場人物がコミックマーケットのような同人活動イベントを訪れるというエピソードも存在し、そのシーンでは日本作品などのコスプレをした人物が多数登場しています。
あまりにも元の作品そのままのビジュアルで登場しているので、もし今回のように日本向けのローカライズが施されるのであれば、それなりの量の修正が発生しそうです。そういった意味でも、オリジナル版を観たことがあるという人は今回の日本での放送のバージョンをチェックしておくのは良いでしょう。
中国での発表から今回の日本公開まで15年近く時間がかかってしまった理由には、もともとがWebで配信された短編アニメシリーズだったので、日本で一般的な放送枠にどう収めるかといった部分や吹き替えなどの翻訳作業に加え、前述のような版権的な問題が大きかったでしょう。
事実、今回の放送が発表された際には、Webアニメシリーズの存在を知っていた人たちは「そもそも放送ができるのか」といった点も注目されていました。結果的にしっかり著作権的に危うい場面は大幅に手を加えるというのが、第1話の放送でよく分かりました。
──そんなTVアニメ『羅小黒戦記』は11月7日(金)公開予定の映画『羅小黒戦記2 僕らが望む未来』に合わせた放送となっています。
この新作映画は映画『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』(2019)の続きでもあり、今回のTVアニメ版の様な自主制作ではなくしっかり映画での興行を見据えて製作された作品です。
TVアニメ版に違和感を覚えた人も、本来はかなりインディペンデントな出自の作品を5年越しに放送している点や、前作の映画のクオリティーを求める人向けには11月公開の新作映画が控えているということを踏まえながら、放送を楽しんでみてはいかがでしょうか。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteでは『アニメ映画ラブレターマガジン』を配信中。X(旧Twitter)⇒@nejimakikoibumi
※サムネイル画像:『映画「ハウルの動く城」場面写真 © 2004 Diana Wynne Jones/Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NDDMT』