<この記事には『LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン』のネタバレが登場します。ご注意ください。>
新作劇場版の公開直前というタイミング的にはただの前日譚のように思えてしまいますが、6月20日から各種配信プラットフォームで配信が開始された『LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン』(以下、『銭形と2人のルパン』)は、ただの前日譚と言うには侮れない作品となっていました。
小池健監督が2014年から手がけてきた『LUPIN THE IIIRD』シリーズがついに6月27日公開の映画『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』(以下、『不死身の血族』)で大詰めを迎えることになるのですが、その公開直前のタイミングで実際に“前日譚”という位置付けで『銭形と2人のルパン』は配信されます。
しかし、劇場版とのつながりに関わらず、実はこの作品単体でも十分に重厚な体験として仕上がった作品となっていました。
◆しっかり用意されていた銭形回! シリーズの正統新作
小池健監督による『LUPIN THE IIIRD』シリーズといえば、これまでもルパンを取り巻くキャラクターたちを主人公に描く1話30分弱程度の前後編からなる作品でした。2014年発表の『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』、2017年の『LUPIN THE IIIRD 血煙の石川五ェ門』、2019年の『LUPIN THE IIIRD 峰不二子の嘘』ときて、ルパンチームとしておなじみの三人の主役作が出揃った印象がありましたが、もう1人ファミリーがいるのを忘れるなかれと、今作ではルパンを“追う”立場でおなじみの銭形警部を主人公として見えるように製作しています。
『銭形と2人のルパン』は、公開が目前となった映画『不死身の血族』とは時系列的にもかなり近しい内容で実際に“前日譚”ではあるのですが、そう言った前提を抜きにしてもしっかり一つの前後編として起承転結が綺麗に成立していて単体としても楽しめる作品となっています。
これまでは新作の発表毎に劇場での上映を行っていたシリーズですが、今回はいきなり配信プラットフォームでの発表となったので一見別物のような印象も受けますが、“尺”にしても“内容”にしてもしっかり一時間ほどの銭形警部を主役に据えたシリーズの正統新作であり、『不死身の血族』の公開を踏まえると実質2週連続で新作が投下される大奮発な発表の仕方となっています。
◆描いているのは銭形だけじゃない! 小池監督のルパン像をも浮かび上がらせるストーリー
この『銭形と2人のルパン』は紛れもない銭形警部の主役回として描かれている一方、そんな銭形の対比として小池健監督が描いてきた本シリーズのルパンというキャラクターが、どんな設定の人物として描いているのかも今作で明確になります。
追う者と追われる者という意味では全く正反対のキャラクターでありながら、どこか意気投合するところがあるルパンと銭形。そんなルパンと銭形の共通する“悪”として登場するのが、2人の美学や信念と相反する存在である“偽ルパン”です。
偽ルパン自体は共通の敵でありながらも、銭形はルパンと協力して戦うということを徹底的に拒否する様子が描かれていたり、その偽ルパンとの戦い方に関しても“銃”の扱い方という観点からも分かりやすくルパンと銭形には決定的な違いがあると今作では描かれます。
ルパンは選べるけども銭形は選ばない選択肢とは何か。ルパンは銭形のことをどんな存在と思っているのか。その銭形はどう言った正義感で行動しているのか。そういった銭形主役回ならではの問いかけに具体的な答えを描き切った作品となっています。そんな作品をしれっと新作映画の一週間前に発表するなんて、クオリティー的にも大奮発です。
◆原作の二枚目な銭形のイメージが色濃く出た貴重な体験
小池監督の描くルパン三世といえば、大人でハードボイルドな印象を持つ人も多いでしょうが、今回はその印象がそのまま銭形警部にも反映されているのも貴重な体験になっています。
実際従来のアニメーションシリーズではルパンが銭形のことを「とっつぁん」と呼んだり、銭形の立ち回りがコミカルに描かれている様子が多かったりと、銭形警部はどちらかといえば三枚目なキャラクターという印象が強いです。しかし実は原作の銭形はもっと落ち着きのある凄腕の警部として描かれています。
それを踏まえると、『銭形と2人のルパン』は改めて原作の『ルパン三世』の銭形像に立ち返るような試み。もちろんこれまでのシリーズでも銭形は登場していたのでその傾向はありましたが、改めて今回スポットライトが真っ向から当たることによって、その様子がはっきりと分かるようになっています。
ルパンのアニメーションシリーズは作品によってルパンの性格も作風もまったく違う中、小池監督はまさに原作のハードボイルドな一面を当シリーズで抽出してきました。それを銭形へと視点を向けると、ここまで銭形が二枚目なキャラクターになるのかという点では、驚きでもあります。
──『銭形と2人のルパン』が『不死身の血族』の前日譚であることは紛れもない事実ではあるものの、あくまでも時系列的に直前のエピソードというだけ。『銭形と2人のルパン』はしっかりそれ単体としても格別な仕上がりの“銭形主役長編”として観られる作品なのです。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteでは『アニメ映画ラブレターマガジン』を配信中。X(旧Twitter)⇒@nejimakikoibumi
※サムネイル画像:『「LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン」キービジュアル 原作:モンキー・パンチ ©TMS』
『LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン』公式サイト
原作:モンキー・パンチ ©TMS