ジブリ映画には多くの意外な「裏設定」や「都市伝説的な噂」がありますが、『魔女の宅急便』も例外ではありません。キャラ設定にまつわるまことしやかな「裏設定」や、現実的な「お金事情」など、意外すぎるさまざまな裏話があります。
◆先輩魔女は「夜の街」に住んでいた?
物語序盤、キキが飛行中に出会った先輩魔女について、世間ではさまざまな憶測が飛び交っていますが、中でも特に信ぴょう性が高いのが、先輩魔女が暮らす街がいわゆる「夜の街」ではないか? という説です。
宮崎駿監督は、キキが修行の場として選んだコリコの街について、スウェーデンのストックホルムやアイルランド、フランスのパリなどの風景を織り交ぜて創作した「二度の大戦を経験しなかったヨーロッパ」をイメージしていると、2006年3月に出版された『宮崎駿全書』(出版:フィルムアート社)の中で語っています。
一方、先輩魔女が帰って行った街には赤い風車がありました。ヨーロッパで赤い風車といえばフランス・パリの「ムーラン・ルージュ」が代表的です。「ムーラン・ルージュ」とは、1889年にパリ市内のモンマルトルに誕生した「キャバレー」で、フランス語でそのまま「赤い風車」を意味します。
先輩魔女とキキが出会ったのは夜空でしたが、その街には多くのネオンが灯り賑わっていたことから、「ムーラン・ルージュ」がモデルになった可能性が高そうです。
また、夜の街では若い女性が多く働いているため、恋愛関係をはじめ悩みを抱える人も多いでしょう。そういった観点からも、先輩魔女が生業としていた「恋占い」の需要があるのも納得できます。
◆映画スポンサーが付いたのは「ジジ」がいたお陰?
今でこそジブリの新作アニメ映画となれば、大きな話題となり毎回のようにヒットを記録していますが、映画『魔女の宅急便』の企画が持ち上がった1985年当時は、スポンサーを募るのも大変だったといいます。
『宮崎駿全書』によれば、『魔女の宅急便』の長編アニメーション化の企画を立ち上げた映画プロダクション「風土舎」が、「宅急便」つながりで真っ先にスポンサーを要請したのが、「クロネコヤマトの宅急便」で有名なヤマト運輸でした。
当時、アニメ映画企画はまだ下火だったこともあり、ヤマト運輸は当初難色を示していたそうですが、作中に「黒猫のジジ」が登場することを知ったことで次第に前向きになり、最終的にスポンサーになることを了承したそうです。
また、2022年4月29日に『文春オンライン』に掲載された「なぜキキは飛べなくなったのか『魔女の宅急便』の「疎外感」という恐怖」という記事によると、宮崎駿監督は『となりのトトロ』の制作を開始したばかりだったため、当初は『魔女の宅急便』ではプロデューサーのみを務める予定だったそう。
ところが、ヤマト運輸をはじめとする主要スポンサーが「宮崎駿監督作品以外に出資するつもりはない」との意向を示したことで、宮崎駿監督が監督兼プロデューサーとなり、私たちの知る『魔女の宅急便』が誕生しました。
もしジジというキャラクターがいなければ、映画『魔女の宅急便』は、まったく違う作品になっていたかもしれません。
◆『魔女の宅急便』がコケていたら、そこでスタジオジブリは終わっていた?
映画『魔女の宅急便』の制作当時、スタジオジブリは、アニメプロダクションとして、まさに綱渡り状態でした。
前述の『文春オンライン』の記事によると、プロデューサーの鈴木敏夫氏は、映画配給元である「東映」の原田宗親氏から「宮崎さんもそろそろ終わりだね。興行成績がどんどん下がってるじゃない」と、厳しい指摘を受けていました。
ショックを受けた鈴木敏夫氏は、当時TV放送のために『風の谷のナウシカ』を購入していた日本テレビに相談。日本テレビは大々的にバックアップし、多くの宣伝を打ちました。
その結果、映画『魔女の宅急便』はこれまでのアニメ映画の常識をはるかに超えるヒットを記録し、スタジオジブリの名前を世間に轟かせることになりました。
今では日本テレビ系列の番組『金曜ロードショー』でジブリ映画が定期的に放送されるのが当たり前のようになりましたが、これはスタジオジブリと日本テレビのタッグが、映画『魔女の宅急便』の成功によって確立されたからといえます。
鈴木敏夫氏の奮闘と映画『魔女の宅急便』のヒットがなければ、現在のような定期的なテレビ放送はおろか、のちのジブリ作品自体が生まれていなかったかもしれません。
◆ディズニー版でキキを演じた女優の小さいころのあだ名は「キキ」だった?
日本語版の映画『魔女の宅急便』では、主役・キキとウルスラの吹き替えを高山みなみさんが1人で演じ分けていたことは有名でしょう。
しかし、英語版となるディズニー版『魔女の宅急便』でキキ役を演じた女優さんが「キキ」だったということは、あまり知られていません。
ディズニー版でキキの吹き替えを担当したのは、アメリカの女優、キルスティン・ダンストさんですが、偶然にも彼女のニックネームも「キキ」でした。
アメリカのスポーツ専門チャンネル『ESPN』が掲載した「Ten Burning Questions for Kirsten Dunst」という記事の中で、キキというニックネームの由来についての質問に対し、ダンストさんは「小さい頃、自分の名前が言えなかったんです。キキとしか言えなくて、それが定着したんです。」と語っています。
ちなみに、ダンストさんは映画『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』に登場する吸血鬼の少女・クローディア役を演じたことで一躍有名になりましたが、若くして成功を収めた経緯も、駆け出しの魔女・キキと重なる点といえるかもしれません。
──映画『魔女の宅急便』は、スタジオジブリのヒット作の仲間入りを果たし、それがきっかけとなり数多くの素晴らしい映画作品が生み出されました。
駆け出しの魔女・キキの「成長や自立」をテーマにした『魔女の宅急便』は、まさにスタジオジブリが経験した苦難と成功を象徴した作品だといえるでしょう。
〈文/lite4s〉
《lite4s》
Webライター。『まいじつ』でエンタメ記事、『Selectra(セレクトラ)』にてサスペンス映画、韓国映画などの紹介記事の執筆経験を経て、現在は1980~90年代の少年漫画黄金期のタイトルを中心に、名作からニッチ作品まで深く考察するライター業に専念。 ホラー、サスペンス映画鑑賞が趣味であり、感動ものよりバッドエンド作品を好む。ブロガー、個人投資家としても活動中。
※サムネイル画像:「『魔女の宅急便』場面写真 © 1989 Eiko Kadono/Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, N」